目次 Q7


利益圧縮(保険加入)

Q7 期末に社長を被保険者として年払いの生命保険に加入

 期末直前に利益が出たことを確認したので、年払い保険への加入を検討しています。死亡保険金受取人を社長の遺族、満期保険金受取人を会社にすると支払保険料の半分が損金処理できると聞きましたので加入しようと考えています。税務的に大丈夫でしょうか。


Answer 保険加入自体は税務的に全く問題ありませんが、保険対象者の選定などで特定の役員、社員のみを被保険者としている場合は、支払った保険料は契約形態により全額あるいは2分の1が被保険者への給与(賞与)とみなされることがあります。

 本ケースの場合、期末直前に社長のみを被保険者とし、保険金受取人を被保険者の遺族として保険加入していますので、一部の者を対象とした保険でなければ損金とされる支払保険料の2分の1は社長に対する給与(賞与)と認定され、年払いですから定期同額給与(及び事前確定届出給与、利益連動給与)に当たりませんので、法人税法上は損金を否認されると思われます。


《解 説》

 法人税法上、生命保険契約の保険料の取扱いについては法人税法そのものには直接的な規定はなく、法人税基本通達や個別通達にその取扱いが示されていますが(後記参考法令等参照)、保険商品は多岐に渡りまた頻繁に新しい商品も投入されることから取扱いは複雑なものとなっています。

 お尋ねのケースは保険種類が必ずしも明らかではありませんが、満期保険金があることから養老保険と思われます。この場合、死亡保険金受取人が被保険者の遺族、満期保険金の受取人が会社であれば、2分の1は資産計上、残り2分の1は損金算入となります。ただし、特定の役員または社員のみを被保険者とした場合は支払った当該保険料は給与(賞与)として扱われますので(法基通9―3―4(3))、本ケースのように役員である社長のみが被保険者となっている場合は役員給与に関する取扱いの対象となり、一時の支払いである年払い保険料は定期同額給与に当たりませんし、所定の手続きを踏んでいませんので事前確定届出給与、利益連動給与にも当たらず損金不算入となります(法法34丸数字1)。

 なお、今期利益が出たことを契機に保険加入を意図した経緯から察すると多分に利益圧縮の目的で加入を検討したのではないかと思われますが、本来、保険は将来の一時的多額の出費、不測の事態や損害に備えるために加入するもので利益を減らすために加入するものではありません。一般的には、例えば、将来の退職に備えて積み立てるとか、被保険者の万が一の時の遺族への生活保障などが加入の大きな要素になっていると思われます。

 とはいえ、例えば、役員社員の中で一定の基準で決められた者が逓増定期保険に加入したとして、支払保険料の半額を損金計上できる保険契約もあり、保険契約によっては利益を圧縮することができることもまた確かですから、節税目的から加入することも理解できます。しかし、ここで注意を要するのは保険契約を締結した以上、契約期間中は毎期保険料を納めることになることです。保険料は法人の利益の有無に関係なく発生しますので、期によっては支払いが苦しくなることも考えられます。そのときはそのときで解約も選択肢となりますが、解約時期によっては当初期待した返戻金が得られないこともあるでしょう。こうしてみると、衝動的に加入しては後の年度で経営の足を引っ張られることになりかねません。

 またこのような節税を別の角度から見てみると、例えばある保険商品の例で、40歳の社長が死亡保険金5,000万円の保障、年掛金260万円、保険期間30年の逓増定期保険に加入したとして、第1年度は130万円が損金に計上できますから実効税率を概算40%として52万円が節税でき、第2年度も260万円の保険料で130万円が損金に計上できますから税率に変動がなければやはり52万円節税ができます。ここで、第3年度目に資金がショートして解約すると解約返戻金として約290万円返りますが(益金算入)、2年分の積立金260万円を差し引いた(取り崩して損金算入)課税対象利益30万円に対して実効税率40%の税率で12万円の税金がかかります。

 この例で資金の収支をみると、2年で92万円(節税52万円×2年−税金納付12万円)節約したことになりますが、支払保険料コストは支払済保険料520万円から返戻された保険料290万円を差し引いた230万円となりますので、資金の収支として考えると230万円−92万円=138万円の持ち出しとなって節約効果はよくありません。

 この例は、単にこのようなことも起こり得るというだけであってすべてではありませんし、もちろん、被保険者である社長に万一の時は保険金が5,000万円降りますので保険本来の機能は十分に享受したことになり、持出し分は2年間の保障の対価として評価することになるのでしょうが、いずれにしても収支的には支払超過であり会社財産が流出したことも事実です。

 以上をまとめると、生命保険の加入は将来の資金計画なども総合的に検討した上で判断し、当期の利益を圧縮することのみを目的に、短期的視野で加入することは慎重にすべきでしょう。

【参考法令等】
法基通9―3―4(養老保険に係る保険料)、9―3―5(定期保険に係る保険料)、9―3―6(定期付養老保険に係る保険料)、9―3―6の2(傷害特約等に係る保険料)
〈個別通達〉
「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」(昭和62年6月16日直法2―2(例規)、平成8年7月4日改正、平成20年2月28日改正)
「法人が契約する個人年金保険に係る法人税の取扱いについて」(平成2年5月30日直審4―19(例規))
「法人契約の『がん保険(終身保障タイプ)・医療保険(終身保障タイプ)』の保険料の取扱いについて」(平成13年8月10日課審4―100、平成24年4月27日改正課法2―3他)
「法人が支払う『がん保険』(終身保障タイプ)の保険料の取扱いについて」(平成24年4月27日課法2―5他)

 

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