目次 Q6


費用計上(前払家賃)

Q6 翌年の家賃前払い

 家賃契約更新の時期であったことから、利益圧縮を図る目的で、期末直前に大家さんと交渉、翌年1年分の家賃1,200万円を一括で支払う契約を締結して即日支払い、費用計上しました。大丈夫でしょうか。


Answer 翌年分の家賃を期末に一括払いしていますので、短期前払費用には該当しません。よって、期中に費用計上した1,200万円は費用計上を否認されます。


《解 説》

 費用計上が認められる短期の前払費用は法人税基本通達2―2―14に「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るもの」に限定されています。お尋ねのケースでは、役務提供の開始は1年以内ですが、終期は支払った日から1年を超えていますから費用計上は認められません。

 費用計上が認められるには、

(1) 一定の契約に従って継続的にその期間中に等質、等量のサービス提供を受けるもの。
(2) 役務提供の対価であるもの。
(3) 翌期以降に時の経過に応じて費用化されるもの。
(4) 現実にその対価を支払っているもの(手形支払いも含む)。
(5) 支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るもの。
(6)  支払った金額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているもの。

 以上の要件を充足する前払費用である必要があります。

 企業会計上、前払費用については企業会計原則注解5「経過勘定項目」(1)に次のように記載されており、税務上の原則も同様であると考えられています。

 「前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対して支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。」

 一方で、重要性の原則については、

[注1]重要性の原則の適用について
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
消耗品、消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち、重要性の乏しいものについては、その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。
前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
引当金のうち、重要性の乏しいものについては、これを計上しないことができる。
たな卸資産の取得原価に含められる引取費用、関税、買入事務費、移管費、保管費等の付随費用のうち、重要性の乏しいものについては、取得原価に算入しないことができる。
分割返済の定めのある長期の債権又は債務のうち、期限が1年以内に到来するもので重要性の乏しいものについては、固定資産又は固定負債として表示することができる。

 このような企業会計の原則を取り入れて法人税基本通達2―2―14が制定された背景から、すべての短期前払費用が損金計上できるものとはいいきれません。

 ご質問では翌年分の家賃を一括して支払っていますので、当然に損金計上を認められないと回答していますが、仮に期中から1年分の家賃を前払いして計上しても利益圧縮を図るためであれば同様の回答となります。

 ちなみに、平成18年11月24日の最高裁の判決では、形の上では本通達の短期前払費用に該当しても専ら租税回避目的で自らの利益圧縮のために一括年払いとしたものと認められるときは「課税上弊害が生じるものと認められるので、本件各費用は重要性の乏しいものとはいえないから、これに本件通達後段を適用して損金に算入することはできない」とした地裁の判断が維持されています。

 すなわち、この通達の取扱いを悪用して、利益の繰延べ等を図るために期末に一括で支払う行為も当然に認められません。

【参考法令等】
●法法第22条第4項
●法基通2―2―14(短期の前払費用)
●平成17年1月13日東京地裁判決
●平成17年9月21日東京高裁判決
●平成18年11月24日最高裁上告棄却

 

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