目次 Q4


交際費処理

Q4 交際費…社長の海外旅行費用

 当社は社長が100%出資をしている同族会社ですが、今期は業績が良かったので、社長夫妻(夫人は主婦)は取引先の社長夫妻を誘って、ヨーロッパ旅行を計画しています。旅行費用は一人当たり100万円が見込まれています。社長から交際費処理するよう指示されましたが大丈夫でしょうか。

 なお、当社は資本金3,000万円、年1回3月決算の会社ですから、今期、交際費の損金算入限度額は800万円であり、他の交際費と合わせても全額損金となる見込みです。ちなみに、取引先夫妻も交際費処理する予定と聞いていますが…。


Answer お尋ねのケースでは、交際費としての損金算入は否認され、同時に社長個人に対する臨時の給与と認定されて全額損金不算入となる可能性が大きいと考えられます。


《解 説》

 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」という)のために支出する費用をいい(措法61の4丸数字4)、その支出の相手方には自社の役員、従業員、株主等も含まれます(措通61の4(1)―22)。

 したがって、お尋ねのケースでは、会社が自社社長を事業関係者として接待等をしたことに当たるかどうかが焦点で、当たれば交際費処理は妥当といえそうにも思われますが、仮に交際費に当たるとしても交際費も会社にとっては費用ですから、交際費に当たるかどうかの問題以前に、そもそも会社の費用とすることが妥当であるかどうかがまず問題となります。

 この点、会社の費用とするためには一般的に会社業務の遂行上必要な費用であることが条件であると考えられます。この考え方は社会通念として一般的に認知されているものであり、殊更根拠を示すまでもないとは思われますが、例えば海外渡航費通達(法基通9―7―6)には「その海外渡航が当該法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限り、旅費としての法人の経理を認める。」のようにこの考え方が表現されています。

 さて、お尋ねのケースに戻って、社長夫妻がヨーロッパ旅行をされるというだけでは会社の業務上必要な旅行であるかどうかは必ずしも明らかではありませんが、「取引先の社長夫妻を誘って」等の文面から察すると個人的な旅行で特に業務上の必要性があって社長夫妻の旅行になったようには窺えません。昭和47年2月3日岡山地裁判決においても「業務の遂行上必要な費用」であることが、会社の損金に該当する条件としており、本件の場合は観光旅行が目的であり、業務遂行のための旅行とは認められません。

 会社の業務上の旅行でないとすれば社長夫妻の個人的な旅行ということになりましょう。会社が個人的な費用を負担した場合にはその個人への給与となり、しかもお尋ねのような旅行費用の負担は臨時的な給与の支給となりますから、会社役員への臨時的な給与の支給であって事前に届け出たいわゆる事前確定届出給与ではありませんから、法人税の計算上全額損金不算入となります。

 このように法人税の扱いでは全額損金不算入となる可能性が高いわけですが、損金不算入となり、また所得税の扱いでは、このような臨時的な給与の支給、つまり、賞与の支給に当たる場合は、賞与に係る源泉所得税(及び復興特別源泉所得税)の対象となりますので注意が必要です。

 なお、レクリエーション費用の負担などいわゆる経済的利益に対しては一定の場合は所得税を課税しない取扱いがあります(所基通36―30)。旅行については別途、同通達の運用通達(昭和63年5月25日直法6―9)があり、課税しない目安として4泊5日、50%以上の参加基準が示されていますが、上記所基通36―30で「役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き」とされていますので、お尋ねのケースでは社長夫妻だけの旅行ですから、旅行日程がたとえ基準以下であっても所得税の課税対象となるでしょう。

 また、会社が負担した旅行費用が給与に当たるとの前提であれば、消費税の扱いでは、空港までの国内交通費に係る消費税も含めて会社が負担した旅行費用全額が給与となりますので、消費税相当額が含まれているとしても仕入税額控除の対象とすることはできません。

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 ここまでは業務上の必要性がない個人的な旅行との前提で説明しましたが、一般的に取引先を旅行、観劇等に招待することは行われており、この延長線上で重要な取引先の社長夫妻を海外旅行に招待し、その接待役としてのバランス上自社の社長夫妻がその海外旅行に同行したようなケースを想定して、会社業務の遂行上必要な旅行であったとしたらどうでしょう。想定したようなケースでは、会社の業務の遂行上必要な費用となることはもちろん、取引先の接待のための費用ですから社長夫妻の旅行費用も含めて交際費として差し支えないでしょう。とはいっても、旅行期間や金額は自ずと通常の旅行の範囲に限定されると考えられます。

 なお、一般的な海外渡航費の扱いでは、その海外渡航が業務の遂行上必要であったかどうかの判定にあたって、観光目的としたものは原則として会社業務の遂行上必要な海外渡航には当たらないとされていますが(法基通9―7―7)、これも機械的に判断するのではなく最終的には実質をもって判断されます。したがって取引先を招待する旅行は観光が目的でしょうから、これに同行するような場合の海外渡航は観光ビザで渡航しても業務遂行上必要な海外渡航といえるでしょう。

 ところで、交際費等の支出の相手方は、法令上、「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」とされていて、会社自身の役員や従業員、株主も含まれると解釈されています。お尋ねのケースで、会社が自社の社長夫妻を接待、供応あるいは慰安するという構図は考えられないのでしょうか。少なくとも一般的に取引先を旅行、観劇等に招待することは広く行われており、この場合の取引先を旅行等に招待する費用が交際費に当たることは論を待たないでしょう。もっとも、自社の役員、従業員を旅行等に招待することも広く行われていますが、一般的には福利厚生であり、わざわざ損金算入限度のある交際費処理することは考えられません。

 ただし、この取扱いは一部の役員、従業員を対象とした場合は給与と扱われ、福利厚生費でも接待交際費でもなくなります。したがって、お尋ねのケースでは社長夫妻のみの旅行ですから、旅行費用を福利厚生費とする余地はなく、交際費に当たるか、さもなくば給与に当たることになります。

【参考法令等】
●措法61条の4(交際費等の損金不算入)
●措通61の4(1)―22(交際費等の支出の相手方の範囲)
●所基通36―30(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリエーションの費用)
●昭和63年5月25日直法6―9(平成5年5月31日課法8―1により改正)
●法基通9―7―6(海外渡航費)、9―7―7(業務の遂行上必要な海外渡航の判定)
●平成12年10月11日課法2―15他「海外渡航費の取扱いについて」
●昭和47年2月3日岡山地裁判決

 

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