目次 Q2


所得調整(国外源泉所得)

Q2 シンガポール国外源泉所得の利用

 シンガポールでは、同国の国外源泉所得はシンガポールへの送金がされていないものは非課税所得という扱いとなっています。そこで、アメリカで資金調達した借入金をシンガポール法人(100%子会社:アジア圏の卸売業の拠点会社)を経由して日本の親会社である当社が借入れし、利息をシンガポール子会社の香港にある銀行口座に振り込むことにしました。資金は300万米ドルでシンガポール子会社へ支払う金利は4%、シンガポール子会社のアメリカでの調達金利は2%です。シンガポール子会社の香港口座に毎年6万米ドル溜まっていくことになりますが、税務上、問題はありませんか。


Answer お尋ねのケースでは、子会社の所在地国の税制に着目、これを利用すれば税負担は軽減されるように思われますが、その子会社の取引相手である親会社の所在地国、すなわち日本の税制において親会社の利息の支払い、子会社の利益が特別な扱いを受ける税制がありますので注意を要します。

 上記ケースの取引が適用対象となる可能性のある税制としては、移転価格税制、タックスヘイブン(外国子会社合算)税制、過大支払利子税制があります。

 なお、シンガポール子会社の介在に経済的合理性のない場合は不正な取引と認定される可能性もありますので、要注意です。


《解 説》

 確かにシンガポールの税制では、法人所得税の課税範囲は(1)国内源泉所得、(2)国外源泉所得のうち国内に送金された部分とされており、国外源泉所得のうちシンガポール国内に送金されなかった部分は課税対象となっていませんので(税務大学校「税大ジャーナル」第18号190ページ)、シンガポール子会社が同社の香港銀行口座で資金・利息の受払いを行えば、シンガポール子会社が受け取る利息に税負担は生じないように思われます。

 しかし、その利息を支払う親会社の所在地である日本の税制をみると、海外の100%子会社との取引である場合は、(1)移転価格税制、(2)タックスヘイブン(外国子会社合算)税制、(3)過大支払利子税制の適用対象となる可能性がありますので注意を要します。

 移転価格税制では、50%以上の支配関係がある場合などを特殊な関係とし、特殊な関係のある外国法人との間で行われた取引については独立企業間価格で行われたものとみなして課税所得が計算されます(措法66の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》)。したがって、お尋ねのケースではシンガポール子会社へ支払う利息が独立した第三者へ支払う利息と比較して過大である場合は本税制の対象となるでしょう。

 次に、タックスヘイブン(外国子会社合算)税制では、日本の親会社が外国子会社に対して直接・間接に50%超の支配関係を有する場合で、その外国子会社の所在地国の税負担割合が20%以下である場合に、親会社の課税所得の計算上、その外国子会社の利益の一部を親会社の所得に合算して課税されます(措法66の6《内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象金額等の益金算入》)。所在地国において実際に事業を行っているなどの一定の基準(事業基準、実体基準、管理支配基準、非関連者基準及び所在地国基準)をすべて満たす場合は、本税制は適用されませんが、シンガポールにおける法人所得税率は17%であり(税務大学校「税大ジャーナル」第18号190ページ)、お尋ねのケースではシンガポール子会社の税負担割合は20%以下となる可能性が高いので、本税制の適用関係に留意する必要があります。

 3番目に、過大支払利子税制では、50%以上の支配関係などがある関連者等に対する純支払利子等の額が調整所得金額の50%相当額を超える場合は、その超える部分の金額を損金の額に算入しないこととされます(措法66の5の2《関連者等に係る支払利子等の損金不算入》)。この税制は、平成25年4月1日以後開始事業年度から適用され、関連者純支払利子等の額が1,000万円以下であるときなどは適用除外となりますが、お尋ねのケースでは親会社の年支払利子額が12万米ドル、邦貨換算で1,000万円超となると見込まれますので適用関係に留意する必要があります。

 各税制間の適用関係については調整規定がありますが、移転価格税制と過大支払利子税制との適用関係については調整規定がありません。この点、移転価格税制においてはみなし規定で独立企業間価格(第三者取引における利率)を超える部分を課税の対象として独立企業間価格(第三者取引における利率)で取引したとみなされますが、過大支払利子税制は支払利子総額に注目して規制(課税)する税制であるため、独立企業間価格(第三者取引における利率)による支払利子であってもその額によっては適用対象となる可能性があり、率と額によっては両方の税制が同時に適用される可能性があるといえます。

 なお、アメリカでの資金調達交渉をはじめ一連の取引すべてを親会社が実行し、シンガポール子会社は親会社の指示で借入金、貸付金の計上、香港銀行口座の開設を行うなど、本資金取引へのシンガポール子会社の介在が形式(名目)的なものと認められる場合は、事実の仮装隠ぺいと認定され、香港銀行に滞留した預金を親会社の簿外資産あるいはシンガポール子会社への寄附金として悪質な利益隠し、すなわち重加算税の課税対象となる可能性が大きいでしょう。言い換えれば、シンガポール子会社の介在が経済的合理性のある取引でなければ、不正な取引と認定される可能性が大きく、経済的合理性のある取引であっても上記税制の適用関係に留意する必要があるといえます。

【参考法令等】
措法第66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)、第66条の5の2(関連者等に係る支払利子等の損金不算入)、第66条の6(内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象金額等の益金算入)

 

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