目次 I-2


I.グループ法人税制の創設


第2節 100%グループ=完全支配関係

 法人税法における企業グループの新たな定義として支配関係、完全支配関係が規定され、グループ法人税制は完全支配関係がある法人間に適用される。なお、支配関係は発行済株式等の50%から100%までを保有する関係であり、100%保有である完全支配関係を包含する概念である。


(1) 支配関係と完全支配関係

 企業グループの定義は制度によって異なるが、従来の法人税法では、企業組織再編成における100%グループ(旧法法2十二の八イほか)及び50%超100%未満(旧法法2十二の八ロほか)があり、100%グループについてはさらに連結納税の適用対象となる連結完全支配関係(旧法法2十二の七の五、4の2)が置かれていた。
 グループ法人税制が適用される企業グループについて「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会論点取りまとめ」では、「経営の一体性を重視しつつ、少数株主がいるか否かによって親法人の経営の自由度に違いがあるという実態があることや、制度の複雑化を回避する観点から、基本的に100%株式保有による支配関係を対象として検討することが考えられる」としている。
 さらに、平成22年度税制改正大綱では「100%グループ内の法人」について、「完全支配関係(原則として、発行済株式の全部を直接又は間接に保有する関係)のある法人」とされていたが、グループ法人税制では基本的に企業組織再編成税制と同じにすべきことを前提としつつ制度設計が進められ、法人税法において新たに「支配関係」(法法2十二の七の五)ならびに「完全支配関係」(法法2十二の七の六)として定義が置かれ、100%株式保有による支配関係は「完全支配関係」として規定された。

 なお、「支配関係」は発行済株式等の「総数若しくは総額の百分の五十を超える数若しくは金額」を保有する関係として、発行済株式等の全部を保有する「完全支配関係」を包含しており、従来の企業組織再編成における100%グループと50%超100%未満グループが峻別されていたのとは異なることに注意を要する。



(2) 「一の者」

 「一の者」には、連結納税の場合の連結親法人とは異なり、外国法人や個人等も含まれる。また、個人である場合には、その者と同族関係者にある以下の者が含まれる(法令4の2マル数字1による4マル数字1の準用)。

 ただし、資産の譲渡取引における損益の繰り延べの適用対象となる取引は、完全支配関係にある内国法人の間の取引とされており、外国法人や個人等が頂点となる完全支配関係においては、グループ内の法人がその外国法人や個人等との間で資産の譲渡を行っても適用されないなど、個々の制度については、それぞれの場合における適用対象を確認することが必要となる。


(3) 「発行済株式等」

 「発行済株式」には、法人税法におけるその他の規定と同様に、会社法上の「株式」に該当するものがすべて含まれる。すなわち、普通株式のみならず、会社の「支配」には関係のない無議決権株式や優先配当株式などの種類株式も含まれる。

 ただし、「発行済株式等」の算定にあたっては、自己株式を除くほか、連結納税における5%アローワンスと同様に、一の者が保有しているのと同様と考えられる使用人のみで組織されたいわゆる従業員持株会が取得した株式(法令4の2マル数字2一)、及び従業員・役員等に付与された新株予約権=ストック・オプション(同二)の合計が、自己株式を除いた発行済株式の5%未満であれば完全支配関係にあることになる。


(4) 「直接支配関係・直接完全支配関係」

 「一の者」が、法人の発行済株式等の総数または総額の50%を超える数または金額の株式または出資を保有する場合における「一の者」と法人との間の関係が「直接支配関係」である。
 「一の者」が、法人の「発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する」場合における「一の者」と法人との間の関係が「直接完全支配関係」である。
 これらの場合において、「当該一の者及びこれとの間に直接支配関係・直接完全支配関係がある一若しくは二以上の法人」または「当該一の者との間に直接支配関係・直接完全支配関係がある一若しくは二以上の法人」が他の法人の発行済株式等を直接支配関係・直接完全支配関係に達するまで保有している場合には、一の者は他の法人の発行済株式等の総数または50%超あるいは全部を「保有するもの」とみなされる。

 すなわち、一の者と法人との間に「当事者間の支配の関係(法法2十二の七の五)」あるいは「当事者間の完全支配の関係(法法2十二の七の六)」がある場合には、一の者から見て法人が間接保有関係にある場合であっても、その法人の株式を直接に保有しているとみなして、グループ法人税制や企業組織再編税制の関係条項を適用していくことになる。


(5) 「一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」

 「一の者」が「発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する」法人の相互間の関係も完全支配関係である。連結納税制度であれば、連結子法人相互の関係がこれに該当する。
 ここで、「一の者」が個人である場合には同族関係者をも含むことから、親子や兄弟が、それぞれ別に発行済株式の100%を保有している法人があるならば、これらの法人の間には何らの資本的なつながりがない場合であっても、これら法人相互の関係は「完全支配関係」に含まれることとなる。
 このような法人が、常に経済的に一体の関係にあるとみなすべきかは疑問なしとしないが、同族関係者が別々に保有する法人の間で含み損のある資産を譲渡し、損失を計上しながら、資産に対する支配は依然として確保するような節税策を封じることが、グループ法人税制創設の一つの動機であったとも言えよう。
 一方では、この仕組みにより、親が所有する会社から、相続人である子が所有する別の会社へ土地や株式等を課税されることなく移転できることとなるため、相続税対策としての活用可能性も否定できない。


(6) 連結完全支配関係

  法人税法に支配関係及び完全支配関係の定義規定が設けられたことを受けて「連結完全支配関係」の規定も以下のように改められている。ただし、その実質的な内容は従来と変わりない。

 

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