目次 I-1


I.グループ法人税制の創設


第1節 背景と経緯

 グループ法人税制は、わが国におけるグループ経営の進展を背景に、100%の資本関係で結ばれた企業を経済的に一体のものとして、課税上扱おうとするものである。

(1) グループ法人税制創設の背景

 グループ法人税制の創設について、平成22年度税制改正大綱は「企業グループを対象とした法制度や会計制度が定着しつつある中、税制においても、法人の組織形態の多様化に対応するとともに、課税の中立性や公平性等を確保する観点から」見直しを行うと説明している。
 100%の資本関係で結ばれた企業グループは、その経済的な実態はあたかも一つの企業であるのと同じであり、企業の内部取引には課税関係が生じないことと同様に、そのような企業グループの中での取引については課税を生じさせないことが、中立的な税制であると考えられる。すなわち、法人格などの形式的な要件にとらわれず、経済的に一体であると認められる範囲で、また、わが国の課税権のうちにとどまる限りにおいては、その内部で行われる資産の移転等については課税関係が生じないとすることが、グループ法人税制の原則である。
 グループ法人税制の創設と資本取引課税等の見直しを一体とした改正は、2009年7月に公表された「資本に関係する取引等に係る税制についての勉強会論点取りまとめ」の内容にほぼ沿ったものであるが、この中では、近年のグループ経営の実態について、以下のように整理している。

「単一事業者内における事業部門と同様にグループ本社が事業管理を集中的に行う場合から、子会社に対してその事業運営の独立性を一定程度許容しつつ、グループ本社が事業間のシナジー効果の実現や重複の排除、経営資源の会社間の再分配といった資本の一体性を生かした全体戦略を行う場合まであるが、最近では、単なる分社化ではなく、関連会社を100%子会社化してグループ経営を強化する企業が増大しており、各会社の独立性を生かしながら、グループ統合のメリットを最大限に追求する傾向が顕著となっている。」

 事実、企業グループのあり方は、この十余年の間に、自らも事業を行う巨大な親会社の下に限定的な役割を分担する子会社が配置される形態のものから、1997年の独占禁止法改正による純粋持株会社の解禁を契機に、自らは事業を行わない純粋持株会社の下に様々な事業を展開する子会社が並び、企業グループ全体での経営資源の有効活用や新規分野への迅速な展開を目指す本格的なグループ経営を目指すようなものへと大きく変わっている。
 さらに、企業グループの姿も、親会社の下に強固に一体的な経営を目指す統合型から、親会社は限定的な役割を果たすのにとどめ、各子会社の自由度を高めていく分散型まで多様であり、同じ企業グループでも、ある事業分野では統合的でありながら他の分野では分散化を志向するケースも見られる。
 このようなグループ経営のあり方の変化は、この間の様々な制度の改正を促し、また制度改正がグループ経営の変化を加速化させてきた。特に、商法改正による株式交換・移転制度や会社分割制度の導入等の企業組織再編成手段の多様化は、税制においても2001年(平成13年度税制改正)における組織再編成税制の創設につながり、さらに2002年(平成14年度税制改正)では、100%親子関係にある企業グループについて損益を通算する連結納税制度が創設された。

【個別企業からグループ重視への企業制度の改正】
  法 制 税 制 企業会計
1997年 純粋持株会社解禁   連結中心の会計制度
1999年 株式交換・移転制度の導入 株式交換・移転制度(措置法)  
2001年 会社分割制度の創設 企業組織再編税制の創設  
2002年 商法における連結計算書類の導入 連結納税制度の創設  
2004年   連結付加税(2%)の廃止  
2006年 会社法施行 組織再編税制の改正(株式交換・移転の法人税法への統合) 企業結合・事業分離会計の整備
2009年     企業結合・事業分離会計の改正(持分プーリング法の廃止)
2010年   グループ法人税制の創設 上場会社の連結財務諸表にIFRSの任意適用開始

 しかし、組織再編成税制はグループの形成・再編に係るものであり、各事業年度における課税については、連結納税制度の適用はあくまでも任意とされ、原則は個別企業を単位とする課税とされてきた。
 グループ法人税制の創設は、個別企業を納税単位として扱うことを原則としてきた従来の法人税の仕組みを大きく変えるものであるが、連結納税制度創設の背景にあった、個々の法人格という私法上の形式にとらわれず、経済実態に合った認識をするとの考え方を、「完全支配関係」にある企業グループ全体に推し進めたものでもある。

 

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