目次 Q17


 VI 子会社支援についての諸問題


Q17 子会社等を整理、再建する場合の損失等の税務上の扱い

Question
 当社では、バブル期に設立した子会社が経営不振に陥っており、その扱いに苦慮しています。当該子会社を整理、統合または再建するにあたり、必然的に親会社である当社が損失負担等の支援をしなければならないこととなりますが、一連の措置を行う上で税務上の問題点があればご教示ください。


Answer


 (1)子会社を支援する方法

 経営不振の子会社に対する支援の方法として、無利息貸付、低利貸付、債権放棄、経費負担、資金贈与、債務引受等があります。これらを実行する方策は2つに分類されます。

 1つは子会社を解散や経営権の譲渡等により整理する方法、もう1つは無利息貸付や債権放棄等により子会社を再建する方法があります。

 いずれの方法をとるにしても、親会社は子会社に対し損失負担等をすることが不可避であれば、この行為が寄附金に該当するのではないかという問題が生じます。寄附金に該当することになると、損金算入限度額を超える部分は損金とならずに多額の課税が発生することになります。

 子会社を整理、統合または再建する場合の損失負担等に対し、従来次のような取扱いが行われていました。

 法人が子会社等の解散、経営権の譲渡等にともない当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担または債権放棄等をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるため、やむを得ずその損失負担金等をするに至った等そのことについて相当の理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとされています(法人税基本通達9−4−1)。

 一方、子会社等の再建等に際し、金銭の無償または低利の貸付や債権放棄等をした場合において、それらの損失負担等がたとえば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので、合理的な再建計画に基づくものである等その行為に相当の理由があると認められるときは、損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとされています(法人税基本通達9−4−2)。

 以上のように、法人税法上は親会社が子会社に対し損失負担をした場合であっても、それらの行為に経済的合理性があると認められるときは、寄附金に該当しないことになっていす。しかしながら、この取扱いも「社会通念上明らか」とか「合理的な再建計画」といった抽象的で不確定な概念が多く、現実に損失負担等をした場合に、それらに経済的合理性があるか否かの判断に迷うことが少なくありませんでした。


 (2)国税庁の「質疑応答事例等」

 バブル経済の崩壊後、多くの会社が経営危機に陥った子会社の支援を行う例が急増しましたが、国税庁はこうした事態を踏まえ、平成12年に「子会社等を整理再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等」を公表し、損失負担等が経済的合理性を有しているか否かの判断にあたっての検討項目を明らかにし、各検討項目について例示を交え、詳細な見解を示しました。それらの概要は次のとおりとなっています。

1) 損失負担を受けるものは「子会社等」に該当するか

 子会社の範囲については資本関係、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有するものとされていますので、資本関係がないことを理由に子会社等に関係しないことにはなりません。たとえば、業界団体にとってその構成員は子会社等に該当することになりますし、金融機関が融資を行っている個人も子会社等に該当します。


2) 子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機はあるか)

 「経営危機に陥っている」とは、一般に債務超過の状態にあり、資金繰りが悪化している場合等が該当しますが、被支援者の業種業態または個別事情などによっても判断することになります。実質的に債務超過でなくとも営業を継続するために必要な許認可の条件として法令等で一定の規模の財務状態が求められている場合に、仮に現状のままでは更新が認められず、結果として営業の継続ができなくなり、倒産にいたることになる場合なども該当します。


3) 損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当の理由はあるか)

 損失負担等に経済的合理性があるか否かの検討ですので、被支援者が困っているからということでなく、支援者からみて必要か否かを判断することになります。明らかに再建が不能な場合に再建のために損失負担等をすることはその必要性に問題があることになります。


4) 損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)

 経済的合理性があるというためには、要支援額が適格に算定されている必要があり、要支援額が適格に算定されていない場合は、合理性に疑問が生じます。被支援者の不良債権内容の確認、回収不能による損失額の見積りおよび再建期間への割当等の再建処理計画を設定して、要支援額を算定します。


5) 整理、債権管理はされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)

 支援がやむを得ず行われる以上、支援者が被支援者の再建状況を把握することは当然行われますが、仮に再検討が順調に進んだ場合には、損失負担額の調整、計画の見直し等が必要であり、このようなことが担保されないような計画は、上記4)のいう支援額の合理性にも疑問が生じます。一般的には支援者から役員を派遣したり、被支援者から毎月レポートを提出させること等により、管理することになります。


6) 損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっているなどの恣意性はないか)

 支援者の範囲は、通常、支援規模、支援能力等の個別事情から合理的に判断されるもので、関係者が複数いる場合であっても全員が参加しなければならないということではありません。ただし、当然に支持者となるべきものが支援者に含まれていない場合は、後日のトラブル防止のため、その理由を明らかにする必要があります。


7) 損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけ不当に負担を重くしまたは免れていないか)

 支援者が複数いる場合は、それぞれの負担額が合理的に配分されていることが必要です。その配分が合理的でない場合には、支援者間の利益供与の問題が生じ、合理性に疑問が生じます。利害の対立する複数の支援者による再建計画は基本的に合理的なものとして扱われるとされています。一般的には、支援総額を出資比率、融資残高比率、役員派遣割合等の総合比率で按分し、個々の負担能力を考慮して各支援者に配分している例が多いようです。


 以上が「質疑応答事例等」の概要ですが、この中で子会社に対する損失負担額が寄附金に該当するか否かについて、国税局等で事前相談に応じることも示しています。

 貴社の場合には未だ子会社を整理するか、再建するかの支援方法が確定していないようですが、質疑応答事例等を検討するとともに、具体的な方策が確定した場合には事後の税務上のトラブルを回避するためにも、この事前相談の利用をお勧めします。

 

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