目次 Q11


Q11 債務超過の状態が継続している会社に対する貸倒引当金の設定の可否

Question
 当社の得意先である部品メーカーA社は、IT化の波に乗り遅れ、主力製品の売上減少による業績悪化が続き、資金繰りも逼迫してきています。新規顧客の開拓、資産売却による債務の圧縮等、あらゆる手段を講じていますが、数年前から債務超過に陥り、事業好転の目途も立っていない状況です。

 当社は、A社に対して1,000万円の貸金(無担保・無保証)があり、今期返済期日が到来するので回収に努めていますが入金の見込みがないことから、A社に対する貸金全額を回収不能として貸倒引当金の設定を考えています。

 この場合、税務上損金として認められるかご教示ください。


Answer


 債務者であるA社は、債務超過の状態が1年以上継続し、事業好転の見通しもないことから、税務上も1,000万円の貸金につき全額貸倒引当金の計上が認められると考えます。


 (1)適用法令(法人税法施行令第96条第1項第2号)

 個別評価金銭債権に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害・経済事情の急変等により多大な損失が生じたことその他の事由が生じていることにより、その個別評価金銭債権の一部につき、その取立て等の見込みがないと認められる場合は、その一部の金額に相当する金額が個別貸倒引当金繰入限度額となります。


 (2)「相当の期間」とは

 債務者につき、「債務超過の状態が相当期間継続し」における「相当の期間」とは、具体的に何年程度をいうのかという点については、法令上は必ずしも明確ではありませんが、法人税基本通達11−2−6において「相当の期間」とは「おおむね1年以上」とし、その債務超過に至った事情と事業好転の見通しをみて、同号に規定する事由の有無が生じているかどうかで同号の適用を判断することになります。

 これは事業を継続している債務者をも対象にしていることから、債務超過に至った事情と事業好転の見通しも合わせて検討することが要請されているからです 。

 そこで、A社は数年前から債務超過になっていることから、債務超過が「相当の期間継続」していることになり、また、主力製品の売上減少が続き資金繰りも逼迫していることから、事業好転の見通しはないと判断して差し支えないと思います。

 なお、本通達は平成10年改正通達による廃止前の「認定による債権償却特別勘定の設定に関する運用上の留意点について」通達(平成4年課法2−4)の取扱いと同じになっています。


 (3)債務超過とは

 ところで、債務超過とは、貸借対照表上、自己資本がマイナスの企業、あるいは決算書上は自己資本はマイナスにはなっていないが、資産・負債を時価で評価した実質ベースの貸借対照表上において自己資本がマイナスとなっている企業をいいます。

 A社は資産の売却による債務の圧縮を進めてきているため、含み益のある保有資産はほとんどないと推察できますので、時価評価した実質の貸借対照表上も債務超過であると判断しても差し支えないでしょう。


 (4)その一部の金額に相当する金額とは

 取立て等の見込みないと認められる場合における「その一部の金額に相当する金額」は、その金銭債権の額から担保物の処分による回収可能額および人的保証に係る回収可能額などを控除して算定することになります。

 A社の場合は、貸金に対して担保や保証も取ってないことから、貸金の全額が回収不能額となります。

 

目次 次ページ