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Q5 引当金の設定と税効果会計

Question
 企業会計上は、金融商品に係る会計基準に従って貸倒引当金の設定が行われるため、税務上の貸倒引当金と企業会計上の貸倒引当金との間に差異が生じると思われます。

 そこで、貸倒引当金の設定と税効果会計との関係についてご教示ください。


Answer


 金融商品に係る会計基準に従って設定された企業会計上の貸倒引当金と税務上の貸倒引当金との間に差異がある場合(つまり、貸倒引当金の損金算入限度超過額が存在する場合)、当該差異は、貸借対照表に計上されている資産の金額と課税所得計算上の資産の金額との差額ですから、一時差異に該当します(税効果会計に係る会計基準第二)。

 したがって、当該差異が解消するときに、税金を減額させる効果がある場合には、税効果会計を適用し、当該差異の発生年度にそれに対する繰延税金資産を計上する必要があります。

 また、貸倒引当金の損金算入限度超過額が税務上の損金算入の要件を満たし、当該損金算入限度超過額が認容された場合には、それに対する繰延税金資産を取崩すことになります。


 (1)金融商品に係る会計基準の規定

 金融商品に係る会計基準によると、債権は「一般債権」「貸倒懸念債権」および「破産更生債権等」の3つに分類され、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額で評価されます。


1)一般債権

 一般債権とは、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権をいい、これについては、債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準によって貸倒見積高が算定されます。


2)貸倒懸念債権

 貸倒懸念債権とは、経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているかまたは生じる可能性の高い債務者に対する債権をいい、これについては、次のいずれかの方法により貸倒見積高が算定されます。

 (a)  債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態および経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法

 (b)  債権の元本の回収および利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本および利息について元本の回収および利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり、当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法


3)破産更生債権等

 破産更生債権等とは、経営破綻または実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権をいい、これについては、債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とします。


 (2)一括評価金銭債権に係る貸倒引当金との関係

 上述のように、一般債権については、債権全体または同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準によって貸倒見積高が算定されますが、仮に、一般債権が税務上の一括評価金銭債権と同じであり、金融商品に係る会計基準で要求されている過去の貸倒実績率等合理的な基準として法人税法施行令第96条第2項に規定する貸倒実績率を用いて貸倒引当金の繰入限度額を計算している場合には(日本公認会計士協会会計制度委員会が公表した金融商品会計に関するQ&Aでは、当面、金融商品に係る会計基準による貸倒実績率の算定が困難である場合には、その間は税務上の貸倒実績率によることもやむを得ないとしています)、例外的に、一括評価金銭債権に係る税務上の貸倒引当金が、企業会計上の貸倒引当金と一致します。

 したがって、この場合には、貸倒引当金の損金算入限度超過額は生じず、一時差異は発生しませんから、当該引当金に対する繰延税金資産を計上する必要はありません。

 しかしながら、金融商品に係る会計基準および金融商品会計に関する実務指針(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号)における貸倒懸念債権および破産更生債権等と税務上の個別評価金銭債権とはその範囲が異なるため、一括評価金銭債権の中には、金融商品に係る会計基準および金融商品会計に関する実務指針における一般債権だけでなく、会計上は個別に貸倒引当金を計算すべき貸倒懸念債権および破産更生債権等まで含まれる可能性が高いといえます。

 また、金融商品会計に関する実務指針における貸倒実績率も、ある期における債権残高を分母とし、翌期以降における貸倒損失額を分子として算定され、貸倒損失の過去のデータから貸倒実績率を算定する期間は、一般には債権の平均回収期間が妥当であるとし、平均回収期間が1年を下回る場合には1年としています。

 さらに、金融商品に関する実務指針における貸倒実績率は、当期を最終年度とする算定期間を含むそれ以前の2〜3算定期間に係る貸倒実績率の平均値によることとしています(金融商品会計に関する実務指針、金融商品会計に関するQ&A)。

 このように、金融商品会計に関する実務指針における貸倒実績率の計算方法と法人税法施行令第96条第2項に規定する貸倒実績率の計算方法が異なっており、しかも、貸倒実績率による貸倒引当金の繰入額計算の対象となる債権の範囲も異なっているため、原則として、金融商品に係る会計基準を適用した場合には、税法基準による貸倒引当金の繰入額計算は認められません。

 したがって、一括評価金銭債権については、当該債権に係る貸倒引当金の繰入額が会計上と税務上とで異なり、一時差異が発生するため、当該差異が解消するときに、税金を減額させる効果がある場合には、当該差異の発生年度にそれに対する繰延税金資産を計上し、貸倒引当金の損金算入限度超過額が税務上の損金算入の要件を満たし、当該損金算入限度超過額が認容された場合には、それに対する繰延税金資産を取崩すことになります。


 (3)個別評価金銭債権に係る貸倒引当金との関係

 金融商品に関する実務指針(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号)によると、経営破綻に陥っている債務者とは、法的、形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、たとえば破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所における取引停止処分等の事由が生じている債務者であり、実質的に経営破綻に陥っている債務者とは、法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状態にあると認められる債務者であるとしています(金融商品に関する実務指針)。

 したがって、税務上は、個別評価金銭債権に係る債務者につき、会社更生法の規定による更生手続開始の申立て等の一定の事由が生じているとして、形式基準により当該債務者に対する債権金額の50%しか貸倒引当金の繰入れができない場合であっても、会計上は、当該債務者に対する債権は破産更生債権等に該当することになると考えられるため、担保や保証等がない場合には、当該債務者に対する債権金額の全額を貸倒引当金に繰り入れなければなりません。

 このように、税務上の個別評価金銭債権と会計上の破産更生債権等とはその範囲が異なり、しかも、当該債権についての貸倒引当金の繰入額も異なるため、やはり一括評価金銭債権の場合と同様、当該差異が解消するときに税金を減額させる効果がある場合には、当該差異の発生年度にそれに対する繰延税金資産を計上し、貸倒引当金の損金算入限度超過額が税務上の損金算入の要件を満たし、当該損金算入限度超過額が認容された場合には、それに対する繰延 税金資産を取崩すことになります。

 

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