目次 Q3


Question
 法人成りのメリット・デメリット
 個人の診療所から医療法人へ法人成りした場合のメリット・デメリットを教えてください。

Answer
 メリットとしては、法人の経費に理事長の給与を算入でき、理事長個人でも給与所得控除を受けられることなどがあり、デメリットとしては、法人内部に留保した利益を自由に処分できないことなどがあげられます。


[1]法人成りのメリット

 (1) 役員給与と給与所得控除のダブル適用

 個人の診療所の場合、所得税における事業所得として確定申告する必要があります。その際、院長個人に対する給与という概念はないため、給与を事業所得の経費(必要経費)にはできません。

 医療法人の場合、院長(以下では個人院長と区別するために「理事長」とする)への役員給与が法人税法上の経費(損金の額)に算入されます。

 医療法人から支給された役員給与は、理事長個人としては所得税が課されますが、給与所得には給与所得控除という一種の概算経費の制度があるため、結果的に医療法人で役員給与、個人で給与所得控除と2つの経費を計上できることになります。

 平成18年度税制改正において、上記のダブル適用を抑制する制度ができましたが、医療法人は、その制度の適用除外となっていますので、従来どおり節税効果が期待できます。


 (2) 税率の違い

 所得税の税率は所得に応じて変わります。その最高税率は40%となっています。それに対して、法人税の税率は一律30%(ただし、資本金が1億円以下の法人は、年800万円以下の所得金額について22%)となっています。

 個人の診療所の所得が大きければ大きいほど、法人成りしたときの税負担に差が出てきます。

 下表は、個人のままでの所得税額(事業所得)と、法人成り後の法人税額及び所得税額(給与所得)の合計額を比較したものです。役員給与の金額が法人成り前の個人所得を上回ること(表でいえば利益率10%の場合)がなければ、合計で節税になることがわかります。

 ただし、個々の事情によって節税額は変動するので、法人成りを考える際には、事前に必ず節税シミュレーションをすることをお勧めします。


【法人成りにおける役員給与支給による節税額】
(単位:千円)
  個 人 法 人  
利益率 所得 税額(A) 所得 役員給与 税額合計
(B)
節税額
(A)−(B)
40% 40,000 13,204 25,000 15,000 9,466 3,739
30% 30,000 9,204 15,000 15,000 6,466 2,739
20% 20,000 5,204 5,000 15,000 3,706 1,499
10% 10,000 1,764 △5,000 15,000 2,606 △842

(注) 上記の計算は次の設定で行っている。
医業収益:1億円、法人の資本金:1億円以下
利益率:役員給与を支給しない場合の利益率
個人:所得税額(事業所得)、法人成り:法人税額+所得税額(給与所得)
所得税の所得控除・地方税:考慮外


 (3) 役員退職金の支給

 医療法人の理事長を退く際には、役員退職金の支給を受けることができ、医療法人の経費に計上することができます。さらに、その所得税額の計算は次のようになるため、(2)の場合以上に節税効果が期待できます。


 ただし、退職金の金額が高すぎる場合などは税務上否認される(経費にならない)ことがあるので注意が必要です。


[2]法人成りのデメリット

 (1) 内部留保利益の処分

 医療法人は、医療法第54条において剰余金の配当が禁止されています。よって、毎期利益を生み出して法人内部にため込んだとしても、それを配当や賞与等で処分することはできません。

 内部留保利益を処分するためにMS法人に多額の委託費を支出し、それを原資に社長(医療法人の理事長と同一人物)に対して給与を支給した場合には、その一連の行為を実質的な配当とみなされ、医療法違反となる可能性があります。また、税務上でも多額の委託費が寄附金とされ、税務上の経費にならない可能性があります。

 それに対して個人の場合には、生み出した利益の処分について何ら制限はありません。


 (2) 交際費の損金不算入

 医療法人が支出する交際費のうち、次の金額は税務上の経費にはなりません。また、資本金が1億円を超える医療法人については、支出する交際費の全額が経費に算入できません。

  ●支出交際費の金額(A)が400万円以下…(A)×10%

  ●(A)が400万円超…(A)×10%+(A)−400万円

 個人の場合には、診療所の経営に関する支出であれば、その交際費は全額所得税法上の経費に算入されます。

  (注)  平成19年4月1日以後に法人成りする場合、必ず持分の定めのない法人となる。その際、資本等を有しない法人として取り扱うのか否かという論点があるが、平成20年5月現在、その取扱いは明確にされていないので、上記の説明は資本等を有する法人を前提にしている。

 

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