● 今月の特集
事業経営を継続していれば、運転資金や設備資金等の資金需要が発生します。その場合、自己資金が十分あれば自社で対応することができますが、一般的には、金融機関からの借入金で対応しているケースが多いのではないでしょうか。そのため、将来発生する資金需要に対して、取引金融機関が適宜対応してくれるかどうかが、事業経営を維持・継続する上で重要な問題となります。そこで一般的な融資の手順、システム、現在の金融事情を良く知り、自社の取引金融機関との取引内容を以下の手順で確認し、借入可能金額(以下、借入余力)の目安を知ることが大切です。 【1】借入金を以下の取引別に区分しましょう。 決算書の科目別明細書か、不明の場合は金融機関へ問い合わせをして確認をとります。 金融機関との取引状況の分析と、知識、見られ方、今後の対応のアドバイスを見ておきましょう。 すべての顧問先の資金調達は以下の構造です。この基本構造をよく理解しましょう。
中小企業の銀行融資はほぼ上記の取引で区分できます。 借入金を上記の区分に分解しましょう。 作成日
【2】それぞれの融資枠とその特徴 1.公的融資 (1)国民生活金融公庫【国金】融資 国民生活金融公庫のお金は国の税金です。国が財務や信用力の脆弱な中小企業を支援するための融資です。銀行が一切関知しないので、余計なつきあいの定期預金や給与振込み等の要請等何もしがらみがありません。無担保融資は支店段階では、1,500万円程度あり、企業の業績等で最高2,000万円まで融資枠が広がる可能性があります。新規開業では、300万円〜800万円程度の融資が受けられます。その他各種低金利の融資もあります。 (2)信用保証協会付き融資 全国都道府県にある各保証協会が信用力に欠ける中小企業の融資に寄与するための公的保証制度です。保証協会とは銀行が中小企業に融資する場合、返済不能となった時に肩代わりするものです。注意点は、お金は銀行から出て、都道府県は万が一の場合に、企業に代わって返済してくれるということ。無担保枠として5,000万円〜8,000万円程度ですが、月商の3倍程度という枠も設けられています。しかし、新規開業や設備資金等では弾力的な扱いもあります。もちろん担保付きもありますが、ここでは無担保扱いをまず確保することです。 この融資は、返済に問題(遅延等)がない場合は、資金の必要性に応じて一定の枠内であれば再度保証してくれる融資です。いわゆる折り返し融資が可能です。もちろん銀行にもリスクがあり、焦げ付いた場合に9割しか保証協会が保証しないということでしたが、近年の銀行の貸し渋り対策として現在は全額保証しているとのことです。保証料は今年の3月までは一律1.3%でしたが、平成18年4月より日本税理士連合会の【中小企業会計チェックリスト】を添付したり、会社の業績により保証料が9段階に区分されることになりました。 【ポイント】
2.プロパー無担保融資 銀行によって名称が違いますが、ビジネスローン等と呼ばれている融資です。これは、一切の保証なしに銀行が企業の信用力で貸し付けるもので、業績の良い企業に最近増加しています。とりわけ上記の日本税理士連合会の【中小企業会計チェックリスト】を添付すれば、(1)金利の優遇 (2)融資枠の最大1億円までの拡大 (3)債務超過企業への融資可能等の特典があたえられています。バブル期の土地担保による融資の反省による決算書重視・収益力重視の金融姿勢であり、今後もこの傾向が変わることはないと思います。 【ポイント】 ●金融機関格付を自社で決算書作成ごとに行い、自社の強み・弱みを知り、顧問税理士等の指導を受け、財務内容を改善する必要がこれからはあります。 例1:流動比率(流動資産÷流動負債)を重視する銀行への対策 決算日をまたぐような融資を受け、(借方)預金/(貸方)長期借入金となれば、流動比率が上がり借入金利が有利になります。 例2:借入返済期間((短期借入金+長期借入金)÷金融余力「減価償却費+税引後利益」)を重視する銀行への対策 例1と異なり決算日の借入金を減らすことにより借入返済期間が短くなり借入金利が有利になります。 ●各銀行によって重視する着目点は若干異なりますが、決算書の内容がいいか悪いか、粉飾決算しているかどうかは、銀行マンや税理士等のプロなら2期分の決算書を比較し、疑わしい科目の内訳と原資証憑(売掛金、未入金分の請求書、在庫の実地棚卸表 等)を照合すればすぐ判明できるのです。 ※粉飾決算のパターン 粉飾決算は次のパターンしかありません。 (1)売上の過大計上 (借方)売掛金/(貸方)売上 (2)仕入の過小計上 (借方)買掛金/(貸方)仕入 (3)経費の過小計上 (借方)未払金/(貸方)経費 (4)在庫の過大計上 (借方)在庫 /(貸方)仕入 ※全金融機関共通のポイント
◆保険を活用した役員貸付金・仮払金精算プランの必要性 やりたくもないのに役員貸付金や仮払金が増えて、銀行や税務署に解消しなさいなんて言われていませんか?「役員貸付金」「仮払金」の増加。なぜこのような事が起こってしまうのでしょうか? それは、企業が受注(仕事を得る)するために、やむを得ず発生してしまう構造的な原因であり、決して社長の公私混同だけが原因ではないのです。 ※原因として考えられること 1.業種・業界や仕事の性質上、資金提供(協力金、各種会費、献金)が必要なケース。 2.使途がはっきりしない為、やむを得ず「仮払金」として処理せざるを得ない。 3.決算期に各種不明金を役員への貸付金として処理している。 4.会社を見せ金で設立。役員貸付金/資本金で会社がスタートした。 ※その後の処理 1.返済できずそのまま貸付残高が膨らむ傾向がある。
※税法等の裏づけによる問題点
3.担保付き融資 一般的に銀行で最も多い融資パターンでしたが、ここ10数年の資産デフレですっかり変わってしまいました。定期預金はまだしも、不動産担保の場合、価値の目減りは著しく、追加担保要求や上記保証協会融資の枠で埋めようとしたり、銀行の貸し剥し、貸し渋りが最も激しかった融資といえます。 【ポイント】
4.その他 売掛債権担保等新しい融資商品が登場しつつあります。しかし、顧客に通知されたり、謄本に債権譲渡が記載されたりと信用失墜につながるので普及していません。
中小企業の経営は大企業に比べ様々な面で倒産・廃業の危険性を孕んでいます。だからこそ、中小企業の経営者、経理担当者、顧問税理士等はその危険性を良く知り、自社の危険度を正確につかみ、その対策に心がける必要があります。 中小企業の経営上の危険 【I】一時的な収益悪化により赤字になりやすい 中小企業は総じて景気変動の影響を受けやすく、一時的な収益悪化により赤字経営に陥りやすい特性があります。この特性は、中小企業の損益面(決算書でいうと損益計算書)に影響が著しく出ます。 具体的には以下の内容です。 (1)利益率が低い 中小企業の多くは、売上高に対する経常利益の割合が数パーセントしかないため、景気変動や得意先からの値引き要求、仕入れ先からの値上げ要請等により、原価率がわずかに上昇しただけでも、最終利益が赤字に転落する可能性が高いのです。 例)ここに以下のような中小企業があると仮定します。 1)年商…1億円 2)原価率…70% 7,000万円 3)経費…2,800万円 4)経常利益…200万円(=経常利益率 2%) この会社の場合、原価率が2%以上上昇すると赤字に転落します。 原価…7,200万円、利益0円。 また、売上が666万円 6%減少すると赤字に転落します。【200万円÷30%】 [参考資料]これはある小売・飲食業の平成17年〜18年の月別売上の前期比推移表です。中小企業の景気変動の様子がよくわかります。貴社と比較してみてください。
このように、中小企業は景気の影響を受けやすく、一時的な収益悪化により赤字になりやすい構造があります。 (2)人件費の負担が大きい 中小企業は、販売管理費のうちに占める人件費の割合が大企業に比較して大きいため、売上アップのために人員1人を増員することが非常に困難です。中小企業は一般的に売上総利益の50%が人件費と言われ、上記例の会社で言えば、新人1名の人件費が400万円として、800万円の売上総利益が必要であり、利益率30%として、売上が2,666万円も必要となります。会社の業務に慣れ、1人前として売上に貢献できるようになるまで時間を要し、その期間の人件費負担が重圧となり、場合によってはその期間赤字覚悟でなければ人員増加が出来ないのです。 資金面から見ると、例え増員し、予定通り利益があがったとしても、人件費はその月中に支払いが発生します。しかし、増加した売上は現金商売でもない限り、売掛金として2〜3ヶ月の回収期間が発生し、その分資金が枯渇することも考えておかなければなりません。ソフト開発・人材派遣・ガードマン等のように主に労働力に依拠する商売の場合非常に重要です。 損益と資金の両面から中小企業の人材の先行投資は困難なのです。 (3)ヒト・モノ・カネの不足 中小企業は大企業と違い常に人材、資金、設備等の不足に直面しています。どうしても目先の利益、売上にとらわれ、将来に備えての研究開発や人材投資等ができないのが実情です。現在の主力商品の売上が急激に悪化した場合、多くの中小企業は迅速な対応ができず、一気に赤字に転落するという事態が発生します。乏しい経営資源を有効に活用し、緻密な計画に基づいて実行することこそ中小企業に求められます。 (4)パレードの法則 「パレードの法則」とは、一見平面的に見えることもよくみれば、2割で8割を占めているというイタリアのパレードの発見した法則を、経営に活用しようというものです。中小企業の多くが、2割の得意先で8割近い売上を上げているケースが多々あります。そのうちの1社からでも取引が停止されるとたちまち経営危機に陥ってしまいます。取引先の分散は重要な営業経営戦略と言えます。 (5)下請けの弱さ 中小企業の大部分は大企業の下請けであり、客観的には弱い立場にあります。値引き、裏金づくりへの加担等、今後の取引を考えたら断りにくく、結果として原価率の悪化、交際費・経費の増加で、赤字化することがあります。 (6)貸し倒れリスクの高さ 中小企業は取引先の財務情報が入手しにくく、また売上が欲しいため、常に貸し倒れのリスクを背負っています。また、経理、管理部門にカネ・ヒトをかけないため、売上債権管理機能が弱く、売掛債権年齢表、督促、回収システム化が遅れ、結果として【時すでに遅し】という結果になってしまいます。中小企業の経営者の多くが、売上・技術に目がいき、直接利益を生まない間接部門にお金をかけないことが起因しています。 【II】一時的な要因により債務超過になりやすい 中小企業は大企業に比べて自己資本が脆弱です。自己資本とは貸借対照表の資本の部と理解していいでしょう。自己資本が少ないとちょっとした赤字でも一気に債務超過(資本の部がマイナス)になってしまいます。また、大企業と比較しても、リストラ・経費圧縮の余地が少なく、黒字化や債務超過に時間がかかります。 この特性は中小企業の資金面、貸借対照表に現れます。具体的に見ていくと、 (1)内部留保の少なさ 中小企業はもともと資本金が少なく、また役員報酬等で利益が調整され、結果として会社の利益剰余金、未処分利益が計上されず、内部留保が少ないのが実情です。45年も会社が存続して利益剰余金がわずか1,000万円程度の会社がぞろぞろあります。国税庁の調査でも260万の中小企業のうちここ10年間ずっと赤字企業の割合が69%台で、このような会社が倒産しない理由は、法人が赤字でも多額の役員報酬を取り、それを役員が会社へ貸付けている以外にありません。私たちが考える以上に多くの会社の内部留保が薄く、一気に債務超過に陥る状態です。 (2)リストラ・経費圧縮の余地の少なさ 中小企業は日頃から余剰人員を抱えられるわけもなく、ギリギリの人数と設備で業務を行っているのが実情です。大企業のように経費削減の余地は少なく、大幅なリストラにより利益を確保できることが困難で、黒字化するのに時間がかかります。 【III】金融機関の借入金に頼る経営の弱点 中小企業の資産購入の元ではほとんどが銀行からの借入金で賄っています。
になっていますか? 中小企業に対する融資の特徴は、固定資産の耐用年数よりはるかに短期間で、返済が来る長期借入金で賄われていることです。 そして、設備の耐用年数10年〜15年よりはるかに短い3年〜5年で返済しなければならない借入金で賄われていることです。これだと5年経過したらまた2/3程度の借入金を起こすか、利益を出さなければ資金が回転しません。借入金返済のための借り入れが必要となるのです。本社ビルを建てて倒産する会社が多いのは、土地が減価償却せず、土地が自己資本か税引き後利益で返済できる利益を長期に渡って計上できるかが問われるからです。10億円の土地を買うことは、資本金+剰余金を超えたら税金を考慮して、16億円で購入したと思っていただきたいと思います。その返済が出来る利益16億円を借入金の返済期間で計上できなければ、倒産する可能性が生まれるのです。 自社ビルを立てたら倒産という事例が多いのは、このような財務・税務知識が会社やその関係者になかったことが一因です。 中小企業には倒産の危険性が常につきまとっています。人にはかかりつけの名医が絶対必要であるように、貴社に苦い薬を調合してくれる税理士等の専門家が必要ではないでしょうか?
1.貴社では10日以内に月次決算書が作成されているか!【パソコン会計の導入が必要】 統計では、10日以内に月次決算書が作成されている会社で、赤字の会社はほとんどなく、5日以内に作成されている会社では100%近く黒字です。月次決算書は貴社の現在位置を知らせてくれる大事な仕事。自分の会社の正しい経営成績を知らないままで、間違えのない経営の舵取りはできません。 2.売上原価は毎月の在庫の変動を調整しているか!「原価計算」・「在庫管理」の実施を 在庫の変動を調整しない月次決算書の利益はまさに架空の利益で、期末で実地棚卸を行い、これを調整すると利益が大幅に変わる会社も少なくありません。 原則として実地棚卸がどうしても困難な場合は、パレードの法則(80対20の法則)を応用して、貴社の在庫で売れ筋在庫の2割を棚卸すれば、8割の精度で在庫金額が把握できます。小さな在庫は無視して大きなもの、重要なものの棚卸から始めましょう。更に人手不足等でできない場合は、推定原価率から逆算して在庫金額を決定しましょう。
年何回かの実地棚卸、それ以外は概算棚卸でも在庫変動をさせないよりはずっといいでしょう。最大限、正確な月次決算書を経営者に提出しましょう。 3.経費に減価償却費や賞与等が毎月引き当て計上されているか!月次決算の経理を 特定の月に発生する経費(賞与等)や決算時に計上する経費(減価償却費、退職給与引当金等)を毎月引当計上している会社は少ないですが、正確な月次損益を把握するには必要です。 月割経費として、賞与引当金繰入、減価償却費や繰延資産償却は、経営計画の月次予算金額を最初の月に1年分入力しておけば面倒ではありません。決算で利益が大きく変動しないように前期の決算調整科目については発生原因を確かめ、予算化し、月割経費として月次決算書に反映させておきましよう。
4.毎月未払経費が計上されているか!月次決算の経理を 社会保険料の支払いや国金の借入返済等は、月末土日だと翌月決済となります。 月次決算の精度を上げるためには、未払経費処理はかかせません。
その他1円でも利益が違わない精度の高い経理を追及することです。 5.売上高や売上原価が商品別や地域別などの必要なセグメント別に出されているか! 自社でパソコン会計を導入する最大のメリットは、迅速に前月の経営成績の結果を知り、これを今月の営業活動に活かすことにあります。営業活動に活かすためには、自社の営業管理に必要なセグメント別にデータを収集していなければ意味がありません。店舗別・支店別・担当者別・地域別・商品別・現場別等、様々な経営管理に必要なデータを入手することができます。 例)店舗別・支店別・担当者別・地域別の売上・仕入(原価)・人件費・経費等を区分経理して、パソコンに入力していけば簡単にこれらのデータが入手できます。
6.パソコン経理でシンプル経理を目指そう 上記の結果、得意先・仕入先元帳が作成でき、売掛金残高表・買掛金残高表となり、回収・支払データとなります。一度入力すれば、自動的に集計まで行ってくれますので、現預金勘定の残高が現金実査したり、通帳と一致すれば、その集計は絶対に合っています。 ムダな経理業務の代表例は4つ。(1)振替伝票の起票 (2)売掛金集計・支払予定集計等 (3)仮払金精算作業 (4)銀行へ行く
7.期首に予算が計上され、毎月予算実績の対比がなされているか! 経営計画・月次予算が立てられ、その予算達成度をチェックすることが管理会計の基本です。その第一歩として予算が大切です。 8.3ヵ月先までの予想と3ヶ月の実績資金繰り表が毎月作成されているか! 予想・実績資金繰り表は、企業経営にとって非常に重要なことです。勘定合って銭足らず、とならないために予想・実績資金繰り表は必ず作成する必要があります。パソコンソフトで損益計画から予定資金計画を作成し、実績を毎月入力すれば、予想・実績資金繰りが自動計算されるものがあります。 9.毎月経過月実績+未経過月予算=予想損益 予想売上・利益、予想納税額を見ながら、対策を検討しているか! 1年などあっという間です。決算月を経過してしまったら、何ら対策は打てないため、毎月の役員会や経営会議で、赤字であった場合はその対策、黒字であった場合は決算・納税資金対策を立て実行しなければなりません。 10.決算書を30日以内に作成しているか! 毎月10日以内に月次決算書ができているのであれば、年1回の本決算書も30日以内に出来上がるはずです。 11.決算終了後、今期の反省と来期の具体的目標、経営計画(損益・資金計画・月次予算)が立てられているか! 今期の結果について素直に反省し、来期に同じ失敗をしないように具体的対策を検討します。 12.計画倒れになっていないか、計画と実績は連動しているか、毎月役員会に毎月経過月実績+未経過月予算=予想損益を提示しているか! 中小企業に経営計画が根付かないのは、経営計画が経営に何1つ生かされるシステムがないからです。経営陣が作成した目標、経営の意思としての経営計画書を毎月の月次決算と連動して、予想決算を見ながら経営をすれば、黒字経営は可能です。経営者に過去会計と未来会計の結合、管理会計と財務会計の結合した姿を提示することが中小企業に経営計画を根付かせることになります。 以上より、まず最初に月次決算書が10日以内に迅速に作成できることから始まり、最終的には中期経営計画の策定までに到達する必要があります。そして、計画を確実に達成するために、月次定例の経営会議を開催し、計画と実績の差異分析を行い、経営数値に基づいて経営の意思決定、判断ができる会社であれば赤字経営は無縁です。 |
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