ポスト金融円滑化法対策「銀行融資業務の実際」

2.担保・保証・実行後管理


(4)融資実行の管理2(資産査定)

 E社長は市内でも有数の資産家であり、土地の有効活用を目的とした賃貸不動産を多数保有しています。相続税対策も考慮し賃貸不動産の建築資金は借入金で賄っています。不動産所得があるため申告を行なっていますが、申告の都度銀行から資料の提出を求められます。融資残高も高いことから銀行内部で色々と調査しているものと思いますが、銀行内部では融資先に対してどのような管理を行なっているのでしょうか。

 銀行では、融資している貸出金の状態が良好なのか否か(=契約通り返済してくれるのか否か)について定期的に検証しています。銀行が融資する際の資金は、一般個人の方々等から預っている預金が基になっているため、銀行を監督する行政機関も貸出業務の運営状態の良否については注意を払っているからです。

 銀行が融資先の状態を検証する際に重要となる要素は以下の4項目です。

1)信用格付結果との連携
2)自己査定の基本的な考え方
3)債務者区分
4)金融検査マニュアル事例集の扱い


【信用格付結果との連携】

 信用格付の考え方については「1.融資取引と実行 (3)融資判断のポイント」を参照願いたいのですが、取引している債務者および個別の貸出案件について、一定基準(銀行独自の取引関係を加味した判断基準)の信用度に応じた分類を行うための統一的指標=「価値尺度」であり、銀行が抱える信用リスク(=信用度の変化に伴う債権価値の毀損)を客観的な基準により評価し、貸出金全体の状態の実態管理のために使用しています。また、個々の貸出の際の貸出金利の設定や1年間の融資方針の策定、審査の判断基準へ適用するなど、銀行全体の信用リスクに対する管理体制を強化するために活用されます。

 そのため、会社の実態を表す決算関連書類に関しては毎年提出を求め、事業の状態に変化が無いのか否か確認する作業を定期的に行っているのです。


【自己査定の基本的な考え方】

 資産の自己査定とは、銀行の保有する資産(貸出資産関係、有価証券等)を個別に回収の危険性または価値の毀損の危険性の度合いに従って区分して、預金者の預金などがどの程度安全確実な資産に見合っているか、言い換えれば、資産の不良化によりどの程度の危険にさらされているかを銀行が自ら判定するものです。

 銀行が行う自己査定作業としては融資先に対する「貸出金」の査定が中心となりますが基本的には以下3点について半年おきに現状を検証します。

 1. 債務者の財務状況、資金繰り、収益力等返済能力を判断するための決算情報の分析
 2. 貸出金の資金使途等の内容の分析
 3. 担保、保証の情況の分析

 また、自己査定を適切に行う為には常に最新の情報を整備確認する必要がありますが、個々の確認ポイントを纏めると以下のとおりとなります。

・債務者のデータの整理

 財務にかかわる基礎データを整備しておく必要があります。基本的には信用格付の定量的判断を行う際に必要な情報ですから正確な実態的情報も含め確認しなければなりません。また、企業グループを形成している債務者については、企業グループ全体の財務状況の把握(企業グループ全体の財務諸表を作成していない場合は、各社の財務計数を単純に合算して調整をする)します。

・代表者と同居家族の資産と収入状況の確認(返済能力の判定の際に必要となる)

 中小零細企業に対する貸出金の中には、法人という形態をとっていても、代表者やその家族の資産・収入等に依存していることが多く、実体的には個人に対する貸出と同一と考えるのが適当な場合があります。そこで、生計を一にする家族の所有不動産などの資産及び税込みベースの収入状況を確認することがあります。

・貸出金データの整備

 業況、資金繰り等財務基礎データの他、資金使途、返済財源、返済方法、他金融機関以外からの借入金の状況、そして設備投資資金については、その投資効果等を把握する情報等についても収集・確認します。

・信用格付との連携

 信用リスク管理体制強化の一環として、貸出先に対する信用格付を付与する場合、財務情報を新たに入手した時点で評価するのみではなく、債務者の事象変化を捉え、随時信用格付の見直しを実施すると同時に、信用格付と債務者区分(=債務者分類)との整合性を図るべく、格付結果に基づく債務者区分を適宜見直すことで、信用格付結果と貸出金の資産査定を常に連携した運用とする作業を行なっています。


【債務者区分】

 債務者区分とは「貸出した債権の回収の危険性と価値毀損の可能性を客観的に判断するための指標」として総合的な内部格付基準を制定して経営の状態を総合的に判断し「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」というように借主を評価する基準です。要注意先」に関しては、貸出している債権の契約状態についても判断基準として考慮しており、適用金利が本来あるべき条件よりも優遇されていたり、返済条件を緩和したり最終期限にしわ寄せする等返済方法を優遇している場合は「要管理先」として分類されます。

 取引をした際に貸出した資金が確実に返済できるか否かを、当該企業が持っている「人・物・金」という特性情報と、取引履歴に代表される動態的な取引情報を基準とした定性情報を用いて客観的に判定することも求められますが、資産査定という作業では、企業の経営状態の優劣と併せて貸出金を返済してもらえるのか否かを判断する際に担保や保証(信用保証協会融資含む)による保全状況も加味して、債務者区分と担保や保証により保全されている状態に基づき、貸出金=貸出債権そのものを分類して管理します。

 銀行の決算においては、保全されていない部分に関しては予防的に「引当金」を計上するように指導されています。企業の業績が悪化して今後回復の見込みが厳しく(=破綻懸念先や実質破綻先の評価)、且つ、担保や保証で保全されていないケースの場合は、対象となる貸出金について「個別引当金」を計上することが求められるため(=不良債権処理)、金融機関の決算そのものへ直接的に影響が現れることから、「債務者区分の判定」には注意を払っているのが現状です。

【債権分類の考え方】
自己査定においては、回収の危険性又は価値の毀損の度合いに応じて資産をI・II・III・IVの段階に分類します。
(1) 「分類」とは、II・III及びIV分類に分けることをいう。
(2) 「分類資産」とは、II・III及びIV分類とした資産のことをいう。
(3) 「正常資産」とは、分類資産以外の資産(I分類資産)のことをいう。
(4) 「債権区分」とは「金融機能再生のための緊急措置に関する法律」第6条第2項の規定により、「金融機能再生のための緊急措置に関する法律施行規則」第4条に定める資産の査定基準に基づき、債権を債務者の財政状態および経営成績等を基礎として、正常債権、要管理債権、危険債権、破産更生債権及びこれらに準ずる債権に区分することをいいます。


【金融検査マニュアル事例集の扱い】

 銀行では、貸出資産の状態を正確に把握するために「自己査定」という作業を行いますが、信用格付の結果と貸出金の状態、更には担保や保証で保全されている状態を総合的に判断しながら融資を行うことができるのか、融資を継続できるのか判断することになります。

 債務者区分が正常先であれば新規の融資については問題ありませんが、要注意先以下になると新規の融資を申し込んでも、判断が厳しくなります。破綻懸念先や実質破綻先の区分になれば、新規の融資を受けることはできず、返済を優先する扱いになります。

 そのため、実務的に債務者区分を最終判定する際に、要注意先以下の区分になる場合、借主の実態を正確に評価し、今後業績が回復できる見込があるなど実現可能性のある経営改善計画を立案できればこの債務者区分を引上げることが認められており「金融検査マニュアル中小企業編」においてその運用基準が定められています。

 事例的には26種類あり、銀行における債務者区分判定の考え方、貸出債権の扱いについて具体的な事例により説明されています。

金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」事例集 参照)