ポスト金融円滑化法対策「銀行融資業務の実際」

2.担保・保証・実行後管理


(1)担保の管理

 銀行とは長年取引をしており、自社工場を担保に長期資金の借り入れもあります。機械設備も老朽化が進み入れ替えを考えているところですが、銀行で融資を受けようと相談してみたら「担保が不足しているんですよ…」という回答があった。
 銀行では担保についてどのように考えているのでしょうか。また、担保として考えられるものにはどのような種類があるのでしょうか。

 銀行は長期にわたって継続的に融資取引をする際には、「融資先の信用状態の悪化によるリスクを回避し融資金の回収に支障が生じないように」物的な担保の提供を求めることが一般的です。「1.融資取引と実行 (4)融資契約の実務 参照」 銀行における「担保」に関する基本的な考え方を以下4項目に焦点をしぼり纏めることとします。

1)担保の種類
2)担保取得上の留意点
3)担保の評価
4)担保要件の確認ポイント


【担保の種類】

 銀行内部における融資業務運営上、債務者や第三者から提供を受ける担保物件に関しては次のようなものがあります。

1.債権担保

 銀行等の定期預金や積立金のように権利者が誰か特定できる「指名債権」が代表的です。

 その他にも、取引先が持っている売買代金債権、工事請負代金債権、敷金・入居保証金・建設協力金の返還請求権、保険金請求権等も担保として考えられます。

2.手形担保

 取引先が第三者から取得した商売上の手形を銀行宛に裏書きして提供するものです。

3.有価証券担保

 国債や社債、株式等の有価証券が対象となりますが、無記名の貸付信託受益証券や投資信託受益証券等も担保として考えられます。

4.不動産担保

 最も一般的なもので、土地と建物が主たる物件となります。その他不動産としては工場の土地や建物、船舶、立木、一団の不動産として見做す工場財団・鉄道財団・観光財団等も不動産担保として考えることができます。

5.動産担保

 取引先の店頭の商品や在庫商品、工場の製品・原材料、機械・器具、20トン未満の船舶や自動車等を動産担保として扱うケースも多くなっています。最近ではABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)というように動産を担保とた融資を積極的に扱う風潮にあります。

6.その他の財産担保

 財産権といわれる、地上権・永小作権、採掘権、漁業権、採石権、工業所有権(=特許権・実用新案権・意匠権・商標権)、著作権、電話加入権等も担保として考えることはできます。


【担保取得上の留意点】

 銀行は、融資した資金を契約通り返済してもらうために、取引企業の状態が悪化し返済が困難となった場合は、担保として提供されている物件から優先的に返済を受けることができるように質権・抵当権・譲渡担保権等の権利を取得する手続きを行います。

 これらの権利は、銀行=債権者と担保権設定者=物件の所有者との間における担保設定契約により成立することから約定担保物件」といわれます。

1.質権

 債権者である銀行が貸出金の担保として債務者の物件(第三者の場合もあり)の提供を受け、債務者が貸出金を弁済するまでこれを手元に置き、弁済されない場合はその物件を換価値して、他の債権者よりも優先的に弁済を受けることのできる権利です。(民法342条)

 銀行預金等を担保として申し受ける際に活用されますが、有効に成立させ第三者に対抗できるようにするために、名義人に担保差入証と預金証書の交付を受け確定日付の徴求を受けることが一般的です。

※確定日付= 変更のできない確定した日付のことで、その日にその証書(文書)が存在していたことを証明するものです。公証役場の公証人が私書証書に日付のある印章(確定日付印)を押捺した日付となります。

2.抵当権

 担保となる物件を債務者(又は第三者)のもとにとどめたまま移転しないで貸出金の担保として提供してもらい、貸出金が弁済されない場合は、当該物件を換価して他の債権者に先立って優先的に自己の債権の弁済を受けることができる権利です。(民法369条)

 抵当権は担保物権の中でも最もよく用いられているもので、土地・建物等の不動産の上に設定されるものです。

 不動産を担保として徴求する場合、(根)抵当権の設定契約を結び、担保権の登記を行いますが、契約をする際に以下の点について調査することが一般的です。



3.譲渡担保権

 担保権設定者である借主が、担保物件を所有する権利そのものを、借入金の担保とする事を目的として、担保権者となる銀行へ譲渡するもので、担保物件の所有権そのものが担保権者へ移るものです。

 機械設備や自動車等の質動産等を担保に提供する際、質権設定では担保対象物を債権者に渡すことが前提で継続的に使用できなくなりますが、譲渡担保であれば担保物をそのまま使用することも可能であり、登記ができない物件の場合利用されるケースがあります。

 また、債権等を担保とする場合は、譲渡担保として債権譲渡を受けることが一般的です。

4.仮登記担保権

 まれなケースですが、貸出先の不動産を借入金返済の代わりとして弁済してもらうことを目的に、契約通り弁済ができない場合は不動産の所有権を銀行に譲渡することを予約し、この予約上の権利=所有権移転請求権を保全するために仮登記することがあります。

 約定担保物件の他に、法律の規定により担保物件に権利が成立するものを法定担保物件」ということがあります。

 ・先取特権 債権者が法律の規定に従って債務者の総財産や債務者の特定の不動産や動産について、一般の債権者よりも優先して弁済を受ける権利。(民法303条)
 ・留置権 債権者が債権の弁済を受けるまで、物件の引渡しを拒絶して占有を続けることができる権利で、債務者に弁済を強制することができる権利。(民法295条)

 その他、正式な担保設定ではなく第三者に対する効力はありませんが、契約により担保として利用するものに「工事代金債権の代理受領に関する特約」や「売買代金の振込指定」とい方法があります。


【担保の評価】

1.不動産担保

 もっとも頻繁に利用されている担保で、お客様の所有不動産に担保設定を行う場合、根抵当権または抵当権の設定契約を行いますが、銀行は、概ね担保に差し入れた不動産評価額の約70%前後を、保全されているものとしてみなしています。不動産評価の方法としては、一般的に以下の方法で行われます。

土地の評価の仕方

1)対象物件の国税庁が公表する路線価(1平方メートルあたり)等を参考にします。

2)物件の面積(平方メートル)に上記の路線価をかけると土地の評価額が算出されます。

具体例→土地面積100平方メートル×路線価15万円=土地評価額1,500万円

建物の評価の仕方

1) 1平方メートルあたりの建築単価を調べます。そして建築単価に建物の面積(平方メートル)をかけます。これにより現在同じ建物を建築した場合の価格が算出されます。

2) 上記で算出された建築価格に現在価値割合(1−建物経過年数/減価償却耐用年数)をかけることで建物の評価額が算出されます。

具体例(鉄筋コンクリート造りの病院建物、建築後15年、耐用年数40年)建物床面積2,000平方メートル×建築単価(1平方メートル)20万円=建物を今建築した場合の価格4億円
4億円×現在価値割合(1−15年/40年)=2億5千万円(1万円未満切り捨て)


2.預金担保

 お客様の銀行預金を担保に貸出する方法です。ほぼ額面金額の100%を担保価値としてみなしています。

3.有価証券担保

 お客様の所有する有価証券、主に国債や上場株式等を担保に融資を行いますが、国債は額面金額の90%程度、上場株式は、現在株価の50%〜60%を保全されている価値とみなします。

4.売掛債権(売掛金)担保

 売上代金請求権(売掛金)を担保にする場合、売掛債権について個別債権担保と集合債権担保の2種類があります。

 個別債権担保とは、既にお客様がサービスを提供し売掛金が発生している場合、その売掛金に対し担保を設定します。集合債権担保とは、お客様の商売の中で今後継続的に発生していく売掛金(将来債権)を担保に融資を行う方法です。

 担保を設定するためには、個別債権担保であれば、お客様が売上代金を支払ってもらう先に対して、銀行に売掛金を譲渡する旨の通知を行い、譲渡の旨の承諾を(確定日付をつけて)得る方法が多く用いられます。集合債権担保では、債権譲渡登記手続きが頻繁に用いられます。この債権担保は、各銀行により評価の仕方が異なりますが、売掛金を支払う企業の経営状態の影響を受けますので、上場企業で確実に入金されるとなれば80%と評価する場合もあります。

(なお、この債権担保に関しては、平成25年2月に(株)全銀電子債権ネットワークの「でんさいネット」が開始したり、また民法の債権法改正の検討がなされているなど、今後情勢が変化する可能性があります。)

5.動産(商品や製品、設備)担保

 商品や製品、設備(機械等)を担保にするものですが、動産担保にも個別動産担保と集合動産担保の2通りがあります。個別動産担保は、お客様の所有する製品製造用の機械等を担保にする方法です。 集合動産担保は、お客様の倉庫内の商品(継続的に搬入、搬出がなされている)、つまり、倉庫内の場所や、倉庫にある商品の種類や範囲などを特定することで、担保設定を行うものです。担保の設定をするためには、動産譲渡登記や占有改定という手続きを行いますが、動産担保の場合、換価する時期により価格に開きがあることや処分の際に手間がかかること等、銀行によっては20%〜50%程度の割合を担保価値としています。特に商品の評価は銀行で困難なため、外部の評価会社に依頼するケースが大半です。


【担保要件の確認ポイント】

 担保の種類毎に概要については既に述べましたが、担保として最もよく利用される不動産担保に関して、銀行の融資業務において必ず確認すべきとされるポイントについてまとめます。

●登記簿の調査

 担保となる目的不動産にはいろいろな権利がついていたり、処分する際に制限を受けるような事実があったりしますが、これらの権利や事実に関しては登記簿に記載されているので、最新の登記簿の提出を受け、その内容について調査し、担保としての価値があるのか否か確認します。

代物弁済予約、停止条件付代物弁済予約、売買予約の仮登記
(仮)差押え仮処分の登記、競売開始の申立、租税滞納処分による差押えなどの登記
買戻し特約の登記、所有権末梢の予告登記

に関しては、担保としては不適格とみなされる場合があります。

●抵当権設定登記の手続き

 登記の申請は抵当権者(=銀行)と抵当権設定者(=物件所有者)の双方が登記申請するものとされていますが、登記手続きは司法書士等に委任して行われるのが一般的で、申請の際に必要となる下記の書類の内容を確認します。

登記原因証書である抵当権設定契約書
所有権の権利証(物件所有者が所有権取得の登記を申請した際の登記済証)
委任状と資格証明書証(銀行や担保定提供者が法人の場合は代表権限を証する商業登記簿謄本)
抵当権設定者の印鑑証明書および登記原因について第三者の許可・承諾が必要な場合はその書面

 また、登記が終了すると契約書が返還されますが、登記済証を確認すると同時に、対象不動産の登記簿謄本を取得し、当初の条件どおりに登記がなされているか確認します。