ポスト金融円滑化法対策「銀行融資業務の実際」

1.融資取引と実行


(4)融資契約の実務

 新しい機械を購入する資金について、取引銀行に融資をしてもらうべく相談したら、条件付きですが手続きをしてもらえることになりました。自宅は担保に提供していますが、今回は担保なしで、信用保証協会の保証付きの融資で対応するとのことです。契約手続きをしなければならないのですがどのような点に気をつければよいでしょうか。

 銀行に借入の申し込みをすると、銀行内部では「貸出ができるか否か」融資審査を行いますが、審査の結果、貸出ができると判断された後で、初めて借入の契約手続きに入ることになります。仮に、親しくしている銀行の窓口担当者が「問題ありません。大丈夫ですので契約に必要な書類を準備しておいてください」と言っても、実際、銀行内部での審査を通らなければ融資を受けることはできませんので、担当者の言葉を鵜呑みにすることのないように、正式な審査結果を聞くまでは安心しないようにするのが重要です。

 審査の結果、融資がOKとなり契約手続きを行う際には、あらためて以下の4項目について確認した方が良いでしょう

  1)契約手続きの方法
  2)融資条件の確認
  3)担保に関する契約事項
  4)保証に関する契約事項



【契約手続きの方法】

 銀行と融資取引をする場合、継続的に取引を行うことが多いため原則的に「銀行取引約定書」の差し入れを求められます。「(1)融資取引の相手…下段参照」その際、会社の実態を確認する意味から。商業登記簿謄本や印鑑証明書の提出を求められますが、新たに融資を受ける場合は最新のものを準備しておく必要があります。また、経営者として保証を求められるケースが大半ですので、社長個人の印鑑証明書も準備しておいた方がよいでしょう。

 借入の際に必要な契約書は、融資取引方法により異なりますが、設備資金の借入ですので期間も長期になることから金銭消費貸借契が一般的です。また、信用保証協会の保証付き融資で対応するとのことですので、初めての場合は信用保証協会向けに提出しなければならない書類を差し入れる必要があります。信用保証委託申込書・信用保証依頼書・信用保証委託契約書の書類の他、保証協会への提出用として会社の印鑑証明証や経営者の印鑑証明書を新たに準備する必要があります。


【融資条件の確認】

 銀行が融資を判断する際に考えるポイントは、融資したお金が契約通り回収することができるか否か、更には、手続きを行う際の人件費や経費を賄うことができるだけの収益性を確保することができるのかについて考慮し、融資契約の条件を決定しますので、提示された条件については、その理由も含め確認しておくことが重要でしょう。

 確認すべき項目としては「融資金額、適用金利、融資期間、返済方法、担保や保証の必要有無、手数料の有無」です。

融資金額…必要としている金額なのか否か、満たない場合はその理由は何故なのか?
適用金利…通常の金利より低いのか高いのか、その理由は何故なのか?
融資期間、返済方法…今後の事業計画(毎月・半年毎等)で返済できる金額なのか?
担保、保証…担保の差し入れが必要なのか否か、保証人を立てる必要があるのか否か?

 今回の場合、信用保証協会の保証付き融資での扱いとなっていますが、良くあるケースは国や地公体が中小企業向けに優遇した条件で資金提供する「制度融資」を提案するものです。適用する金利も低く抑えられていることから返済負担も軽くなりますし、本来銀行融資では担保が必要であって金額が不足する場合でも無担保として利用することができる場合がある等のメリットもあります。一方で、銀行側としては融資した資金を確実に回収できるように保全を強化する意味合いから、お客様メリットよりは銀行側都合で信用保証協会融資を進めるケースもありますので、何故「信用保証協会の保証付き融資」でなければダメなのか確認することが重要です。融資金利とは別に借入期間に相当する手数料を支払う必要もあるからです。


【担保に関する契約事項】

 銀行は長期にわたって継続的に融資取引をすることが多いことから、融資先の信用状態の悪化によるリスクを避けることは難しいと判断しています。信用状態が悪化した後で融資金の保全を図っても効果は限定的になることから、特に設備資金のように長期の契約になる場合は、融資取引をする際に最悪の事態を想定して「融資金の回収に支障が生じないよう」物的な担保を確保するケースが大半です。(担保に関する詳細内容に関しては2.担保・保証・実行後管理の(1)担保の管理で説明します。)

 基本的には、融資先(=借主)や第三者(=社長等)から特定の財産を提供してもらい、もし融資契約が不履行になった場合は、当該財産の交換価値から優先的に融資債権の弁済を受けることとなります。銀行としては、物的担保があれば安心して融資ができるので、土地や建物を抵当にとったり、定期預金を質にとったり、手形や有価証券を譲渡担保としてとるのですが、その際に銀行が特に重要視するのは、担保として提供してくれる意思が本当にあるのか否か、その意思を法的に成立できるか否かという点で、担保を取得する際には契約をすると同時に第三者に対抗するために登記を行ったり、公証人役場の確定日付をつけたりします。

 また、銀行が物的担保として優先する要件は次の5項目ですので、そのような物的担保を持っているか否かによって融資の受け易さに差が出ることもありますので重要な要因として覚えておくべきでしょう。

  1)担保にとる手続きが簡単である
  2)担保にとった後、管理に手間がかからない
  3)担保の価値が下がる懸念が少ない
  4)必要な場合に確実に処分できる
  5)処分の手続きが簡単


 という条件からすると、銀行に預けている定期預金は最も優先されます。土地や建物等の不動産は1)〜5)までを勘案すれば優先順位は低くなりますが、一般的に担保といえば「土地建物」が主になっているのが実情です。


【保証に関する契約事項】

 物的担保とは性格を異にしますが、融資先(=借主)以外の人(=社長)の一般財産を融資金の回収の保全として捉えることを「人的担保」と表現する場合もあります。「保証人」になってもらうことが一般的ですが、その際には銀行と個人の間で保証契約を締結することとなります。

 最近では、一般個人を保護する趣旨から会社に関係の無い第三者の個人の保証を契約することは禁止されていますが、会社の経営者である社長に関しては、借入の際に保証人になってもらうよう求められることが大半です。

 保証に関しては、銀行と保証人との間の合意によって成立するものですが、契約の成立を明らかにするために、保証人から約定書・借用証書・保証書・手形等に本人の自署と実印による押印を申し受けることが一般的です。

 但し、保証契約については、「連帯保証」なのか「一般保証」なのか契約内容を確認することが重要ですので、銀行側の考え方も含め必ず確かめておきましょう。

 『一般保証』では、借主が返済できない場合に銀行が保証人に返済を求めても「借主本人に請求してくれ」ということができます(=抗弁権といいます)が、『連帯保証』の場合この抗弁権がないのです。連帯保証は、借主と同等の義務を負うもので、連帯保証した人に請求があった場合は文句も言えずに、すぐに支払わなければいけないのです。

 銀行業界では、会社の経営に直接係わりの無い第三者に対して、会社の融資における連帯保証を求めることを禁止することになっていますので、経営に携わっていない社長の家族等に連帯保証を求めるようなことがあれば、断ることもできますので契約内容については十分注意するようにしましょう。