ポスト金融円滑化法対策「銀行融資業務の実際」

1.融資取引と実行


(1)融資取引の相手

 金融機関と融資取引をしたいと思いますが、どういう資格があればよいのでしょうか?
 商店会でイベントを行おうと考えていますが、○○商店会で金融機関から融資を受けることは可能なのでしょうか? 金融機関と融資取引が行うことができる条件を「取引相手」という観点から教えてください。

 金融機関が融資取引を行う際、「法的資格による分類」によって取引ができるか否か考えます。一般的に以下のように、「個人」「法人」「法人格のない団体」「組合」という区分けで考えられますが、融資取引を判断できる能力=「行為能力」があれば取引ができます


 融資取引を行う際に、取引相手に「行為能力があるのか否か」とい点が重要になりますが、行為能力とは、単独で有効に法律行為をなし得る地位または資格のことをいいます。地位や資格を有するのか否かを確認するために資料を申し受けることが一般的です。

 個人の場合、20歳以上の成人は行為能力があるという観点から本人を確認することで取引を行うことが一般的ですが、行為能力が制限される制限行為能力者(=未成年者や禁治産者、準禁治産者)と取引をすることも可能です。ただし、法定代理人(未成年者の場合は両親)や後見人(親権者がいない未成年者や禁治産者)、保佐人(準禁治産者)の同意を得た上で行う必要があり、戸籍謄本により確認することとなります。

 法人の場合は、人格があるのか否か=法人格を有するのか否か=登記をしているか否かを確認する上で、法人設立および代表者を確認する意味からも商業登記簿謄本または法人登記簿謄本により行われます。また、法人は、定款や寄付行為等の基本規則に定められた目的の範囲内において権利能力や行為能力を有するために、目的の範囲を確認する上でも「定款」等の提出を求めることとなります。

 組合の場合、法人格のない社団であるマンション管理組合の他に、「民法上の組合」と「商法上の匿名組合」というものがありますが、取引上では以下の点を考える必要があります。

・法人格のない社団 動産や預金等の法律上の資格を必要としないものは社団名義で取得できますが、不動産等法律上の資格を示して登記するものは社団名義で取得できないため代表者個人等の名義で行われます。一方で、借入=債務は、社団財産のみが引き当てになるため、各社団員が個人財産をもって返済する責任を負わないものとされていますので、金融機関としては融資判断には注意が必要となり、積極的には扱われないのが一般的です。

・民法上の組合 組合の財産は組合員の共有となりますが、組合員は精算前に財産の分割を請求できません。一方、借入=債務は、各組合員が損失分担の割合に応じて個人として負担しなければならりません。

 また、法人が銀行と融資取引をする際には、個別の融資取引契約とは別に「銀行取引約定書」の提出を求められますが、この契約書は、お客様と銀行が継続的な融資取引を行う場合の基本約定書であるとともに、融資取引全般に共通の事項を定めた共通約定書となります。

 融資取引は複雑で多岐にわたり、法律の規定にあるような典型的な取引ばかりではないため、お客様との取引にあたり融資取引に共通する重要で基本的な事項を定めたものです。あくまでも重要で基本的な事項だけの記載となっているため、取引の種類によっては、別途個別の契約書を申受け、詳細な条件などを改めて定めているのです。

 重要な条項は以下8項目ですが、ある意味で、銀行側のリスクを抑えるという意味合いがあるため、事業会社側は内容については十分に確認しておくことが必要でしょう

第 1条: 適用される取引内容を定めている条項
第 3条: 融資取引の利息・割引料などの条件とその変更方法を定めている条項
第 4条: 担保や保証全般に関することを定めた条項
第 5条: 返済期限前でも直ちに借入金額を返済してもらう場合の条件について定めている条項
第 8条: 借主側からの相殺を行うことを定めている条項
第12条: 借入により発生した損害の負担や責任範囲について定めた条項
第14条: 報告してもらう事象や内容を定めた条項
第15条: 反社会的勢力と取引を行わない旨の宣言

 因みに、個人の場合は、頻繁に色々な種類の借入を行うことはないため、個別の借入契約の中に上記の条項が盛り込まれているのが一般的です。