ポスト金融円滑化法対策「銀行融資業務の実際」

1.融資取引と実行


(2)融資取引の種類

 売上金の回収予定日が大幅に遅れることとなり、商品仕入代金の支払いと従業員の給与の資金が不足することが判明しました。取引している銀行から融資を受けようと考えていますが、銀行からお金を借りる場合、どのような方法があるのでしょうか。また、融資の種類別にどのような点に気をつければようでしょうか。

 銀行が取引先に貸出を行う際に考える最も重要なポイントは、借主は「誰」なのか、必要とする「資金の目的=資金使途」は何なのか、「期間」はどれくらいなのか、「担保や保証」は必要かの4点と思われます。

 という点は、(1)融資取引の相手で説明しましたが、法的資格によって、個人・公法人・一般法人(私法人)・法人格のない社団に分類されています。

 資金使途による分類に関しては以下のように体系化することができますが、一般法人向けには事業資金、個人向けには非事業資金(=個人ローン)という扱いが一般的です。


 期間による分類は、1年以内のものを「短期」、1年以上の場合は「長期」として区分しますが1〜3年のものを「中期」と分類するケースもあります。一般的に、期間によって適用する金利の水準や担保・保証の必要の有無に違いがあります。

 以上の点を考慮しながら、融資をする際に利用する方法を選択することになりますが、銀行が扱っている主な融資方法は次のとおりです。

1) 手形貸付

借入側(事業会社)が銀行を受取人とする約束手形を銀行に振り出し借入をする方法です。手形には裏書人がなく、手形上の債務者が借主(事業会社)だけであることから「単名手形」とも言われます。

最初に銀行取引約定所を差し入れ、借り入れをする都度約束手形を振り出すだけで「借用証書」の提出は必要ありませんが、1年以内の借入金で利用され、運転資金に用いられます

※法的留意点
 手形は金銭消費貸借契約に基づく貸金債権の弁済を確保するために差し入れるもので、銀行側は「手形債権」と「貸金債権」を併せ持っていることになり、いずれの権利を先に行使しても良いことになっています。

 貸金債権は商法では5年、民法では10年で時効が完成しますが、手形債権の時効は3年です。ですから、手形債権の時効により債務が消滅していても、貸金債権の方は時効により消滅しないことになります。金融機関側としては双方の権利を有するため、保全という観点からは利用を優先します。

2) 証書貸付

証書貸付とは、融資条件(融資金額、返済方法、利率等)を記載した金銭消費貸借契約証書(=借用証書)という書類を差し入れた上で行われる融資を証書貸付といいます。

証書貸付は1年超の借入金で利用され、設備資金や長期運転資金に利用されます。個人向けのローンの場合にも利用されます。

※返済方法
 証書貸付の場合、返済方法は一定時期(毎月○日等)に一定の金額を支払うことを約束して指定された預金口座から自動的に引き落とされる方法をとることが一般的ですが、元金と利息の返済方法により区別されます。

   ・元金均等方式 元金部分は返済回数による均等額を支払い、利息部分はその元金残高による利率(毎月払いは月利、ボーナス払いは半年賦利率)を乗じて算出し、その合計額を毎月の返済額とする返済方法です。最初のうちの返済額は多くなりますが、元金の減りに比例して利息分が減り返済額が小さくなります。元金が均等に減るため元利均等返済と比較すると利息総額(=返済総額)が少なくなります。(事業法人の借入の場合に利用されるケースが多い)

   ・元利均等方式 毎回の返済額が均等になるよう元金部分と利息部分を組み合わされて返済額を算出し、元金部分は利息の減少に従って増加してゆくものです。毎回の返済額が一定であるため、無理の無い返済が可能ですが、最初のうちの返済額の利息の割合が多く、元金の減りが遅くなります。そのため、元金均等返済と比較すると利息総額(=返済総額)が多くなります。(個人のローンの場合に利用されるケースが多い)

   ・アドオン方式 借入金額(元本)に利率(金利)と期間を掛けて利息額を算出し、この利息を元本に加えた金額を均等に分割して返済する方法です。通常の返済方式では、減っていく元本(残高)に対して金利を掛けるのに対して、本方式では、最初の元本に対して金利を掛けるため、適用金利より実質金利(実際に支払った利息から計算された金利)が高くなります。なお、現在は、アドオン金利の表示は禁止されており、実質金利での表示が義務付けられています。(クレジットカード会社や車等の割賦返済の際に利用されるケースが多い)

3) 手形割引

手形割引とは、商取引によって受け取った手形を手形の支払期日前に割引料を差し引いて、銀行等に買い取ってもらう方法です。

経常的な運転資金や一時的な運転資金の為に利用される短期の貸出に分類されます。手形上の債務者=支払者の信用を基に評価されるため一般の手形貸付より好まれますが、最近では手形による商取引が減っていること、更には電子債権化される等利用は減少傾向にあります。

また、商取引の裏付けのない融通手形として利用されるケースもあるという危険性もありますので割引く手形の調査は慎重に行われます。

4) 当座貸越

当座貸越とは、当座貸越契約書に基づき融資限度額を設定し、その決められた限度額まで自由に融資を受けたり返済できる方法をいいます。

当座勘定取引に付随して、当座預金が一時的に資金不足となった際に限度額まで自動的に立替払いして貸出する方法もあります。

また、近年は、印紙税を節約する目的から手形貸付の代わりに借入申込書を申受け、同様の貸出を行う「一般融資当座貸越」という方法もあります。

証書貸付や手形貸付では毎月何日に返済すると決まっていますが、当座貸越の場合はそれがありません。限度額内でしたら借りたままにすることも出来てしまうので、一般の貸出方法よりは審査が難しい融資になります。

5) 支払承諾(債務保証)

金融機関が取引先の債務を保証して保証料を申受ける取引です。借主=事業会社は金融機関の信用を利用して商取引を有利に行うことができるメリットがあります。

「借入金の保証」「商取引上の代金債務の保証」「契約履行の保証」「税金の延納の保証」「外国為替取引に関連した保証」等があります。

6) 代理貸付

委託金融機関と受託金融機関の間で業務委託契約が結ばれ、受託機関が委託機関の代理人として取引先に資金の貸付を行うものです。

委託金融機関(一般的には政府系の金融機関)は営業拠点なしに貸付を行うことができる利点があり、受託金融機関も自己の資金を使用せずに取引先の資金需要に応えることができ、手数料を得る利点があります。(但し、受託金融機関は貸付元利金の一定割合に対して保証責任を負っています。)

7) 消費者ローン

個人を対象とした貸出の内、住宅資金に対する貸出を住宅ローンとして扱いますが、その他の貸出も含め総称して「消費者ローン」として扱っています。

耐久消費財の購入や教育等資金使途が特定されている「目的型ローン」と、事業目的でなければ使途が自由な「使途自由ローン」とに分類できます。目的型ローンは毎月元利金を返済する証書貸付型が一般的であり、使途自由型ローンは一定限度内で借入と返済を繰返して行える当座貸越型が主流です。

 以上、金融機関が扱う一般的な融資の方法には資金使途や借入期間によって種類が分かれていますが、融資の種類によって利息の計算方法も複数ありますますので、計算方法がどのようになっているのか、契約書によって確認しておくことが大切です。

1) 日割計算
手形貸付、手形割引、証書貸付の一部に用いられます。
 ※利息額=融資金額×日数×年利率÷365
 100円単位で端数は切り捨て。日数は融資実行日から返済日までの両端入れです。返済日が休日の場合は次の営業日まで計算するのが一般的です。(うる年も365日で計算)

2) 月利計算
住宅ローン等の月賦償還方式の証書貸付に用いられます。
 ※利息額=融資金額(残存元本)×年利率÷12
 一ヶ月の日数の違いや返済日が休日であっても利息額は変わりません。

3) 積数計算
当座貸越の利息計算に用いられます。
 ※利息計算期間中の貸越利息=貸越積数×年利率÷365
 貸越積数は、利息計算期間中の毎日の貸越残高を合計して求めます。

4) アドオン計算
所要資金に利息額を加えたものを融資金額として、融資金額を返済月数で割って毎月の返済を求めます。
 ※融資金額=所要資金×(1+アドオン利率(年)×返済期間(年))
 毎月の返済額は「融資金額÷返済月数」となります。