目次 第2部 第3章 Q38


第3章 相続税


Q38 財産評価の見直しによる還付

 昨年父の相続が発生し、相続税の申告書の提出と納税を期限までに済ませましたが、申告期限までに時間がなかったために、あわてて相続財産の評価をして申告書を作成しました。その後、専門の税理士に相談し、相続財産である土地について改めて見直したところ、いわゆる広大地評価の適用ができるものや実際の価額と比べて明らかに評価額が高過ぎるものがあることがわかりました。

 この場合に、土地の評価をやり直して更正の請求をし、納め過ぎた相続税の還付を受けることができますか。


Answer


 申告書の提出期限の翌日から1年以内であれば、更正の請求をすることができますので、ご質問の場合にも、評価額が高過ぎる土地については評価をやり直して更正の請求をし、過大となった相続税額の還付を求めることができます。そして、再計算後の評価額および請求内容が適正であると税務署長が判断すれば、相続税の還付を受けることが可能です。


1 相続における財産評価

(1)財産評価の重要性

 相続が発生すると、相続開始の日の翌日から10か月以内に相続税の申告と納税が必要になりますが、この申告義務があるかどうかは、相続財産の価額の合計額が相続税の基礎控除額を超えるか否かで判断します。また、相続税額の計算においては、相続財産の価額の合計額の多寡に応じて超過累進税率が適用されますので、相続財産についてどのような財産評価を行うのかが、相続税の申告実務において最も重要なポイントとなります。

(2)財産評価の原則

 それでは、このように重要な財産評価はどのように行うのでしょうか。相続税法第22条では、財産の価額について次のように規定しています。同条によると、相続財産の評価額は相続開始の時における、いわゆる時価となります。

相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による(相法22)。

 ただし、金融資産と異なり、土地等の不動産については時価が明瞭ではないため、財産評価基本通達(以下「評基通」といいます)という規定を設け、すべての財産についてこの通達の定めに従って評価した価額を時価とみなすとしています(評基通1)。


2 財産評価の見直しによる更正の請求

(1)不動産評価における時価

 上記のように、不動産の評価は評基通によりそれぞれの状況に応じて細かく定められていますが、その規定は複雑多岐にわたりますので、実際の財産評価において評基通に基づく財産評価方法を適正に適用できていない場合があります。

 また、評基通による評価額が時価であるとはいえ、課税当局は、同評価方法以外を認めないというわけではありません。時価とは第三者間における正常な取引価額であり、土地等にはそれぞれ個別事情があるため、評基通だけでは適正に評価できない場合もあります。

 このように、不動産の評価は単純一律ではないため、ご質問のように土地について財産評価の見直しを行い、評基通に規定される広大地の評価減の適用ができていなかったり、評基通に基づいて計算した評価額が明らかに実際の価額よりも高過ぎることに気づき、鑑定等による評価額を適用して相続税の再申告(更正の請求)を行うことにより、納め過ぎた相続税額の還付を受けられる可能性があるのです。

(2)財産評価の計算誤りによる事例

 広大地の評価のように土地等の減額要因に気づかず、相続税の課税価格の計算に誤りがある事例としては、次のようなケースが挙げられます。なお、適用の可否は、いずれも市区町村役場等で調べることができます。

例[1])無道路地の評価(評基通20−2)
   道路に直接接していない宅地や接していても間口距離が建築基準法等の接道義務を満たしていない宅地について、評価減を行っていない場合。
例[2])容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価(評基通20−5)
   建築物を建設する上での容積率は宅地の評価に多大な影響を与えますが、その容積率が1画地に対して2以上ある場合には斟酌する必要があります。
例[3])広大地の評価(評基通24−4)
   著しく地積が広大な土地で一定の要件を満たすものについては、開発行為を行った時につぶれ地等が生じるとして、斟酌規定が設けられていますが、その適用ができていない場合。
例[4])セットバックが必要な宅地の評価(評基通24−6)
   建築基準法第42条第2項に規定する道路に接道する宅地について、セットバックの評価減の適用を受けていない場合。
例[5]) 都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24−7)
   都市計画道路の予定地となっている宅地について、減額補正ができていない場合。

(3)通達に基づく評価額が実際の時価と乖離している事例

 次のようなケースは、評基通にその取扱いが明記されているものではありませんが、その宅地の特殊性に鑑みて実際の時価が評基通に基づいて計算した価額に比して著しく低いと認められる場合には適用可能と考えます。

例[1])利用価値の著しく低下している宅地の評価
   付近の宅地の状況に比較して、著しい高低差や甚だしい騒音や震動、忌み等により利用価値が著しく低下していると認められる宅地については、その要素を考慮して減額評価することができます。
例[2])鑑定評価による評価減
   評基通に基づく評価額が実際の時価に比べて高過ぎる場合には、不動産鑑定士による鑑定評価や不動産業者等精通者の査定価額などにより申告することも考えられます。


3 更正の請求を行う場合の留意点

 財産評価のやり直しによる更正の請求を行うことは、納税者として正当な権利ではありますが、課税当局に認めてもらえる請求を行うためには、いくつかの留意点があります。

(1)  計算の誤りによる更生の請求をする場合には、対象地の図や資料、写真等を添付し、評価の誤りの経緯等の説明をきちんと添えること。
(2)  評基通に基づかない評価を行う場合には、求めた時価に客観性があり、評価額が公正妥当である旨を課税当局に納得してもらう必要があるので、慎重に判断した上で、詳細な資料を添付すること。

 また、いずれの場合にも、修正内容についての問合せや場合によっては現地確認、税務調査を求められることが予想されます。


4 更正の請求期限を経過してしまった場合

 ところで、更正の請求期限は相続税の法定申告期限の翌日から1年以内であるため、その期間を過ぎてしまいますと更正の請求を行うことができません。この場合には、税務署長に「嘆願書」を提出し、税額計算に係る誤りについて説明するとともに、税務署長の裁量で減額更正の上、還付してもらえるよう要請する方法をとります。

 ただし、この要請はあくまで税務署長に対する還付の嘆願にすぎず、還付をするか否かは税務署長の裁量に委ねられていますから、却下された場合でも異議申立てを行うことはできませんのでご留意ください。

 

目次 次ページ