目次 第2部 第1章 Q12


第2部 個別税目編


第1章 所得税


Q12 医療費控除による還付

 今年は3年ぶりに歯科にかかり、保険のきかない自由診療でセラミックを充填する治療を受けました。なお、その支払いはクレジットカードで行いました。また、子どもが入院を伴う治療を受け、生命保険会社からは入院に係る生命保険契約の給付金の支払いを受けました。

 このような場合に、医療費控除による還付を受けることができるのでしょうか。


Answer


 医療費のうち一定のものは、医療費控除として所得から控除することができます。医療費控除の対象となる医療費には、生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払ったものも含まれます。医療費控除を受けるためには確定申告をする必要があります。確定申告書には医療費の領収書の添付などが必要ですので、大切に保管しておきましょう。

 さて、ご質問のケースではいくつかのポイントが含まれていますので、そのポイント毎に解説します。

●自由診療について

 健康保険法で認められた保険診療の対象とならない自由診療であっても、歯科において金やセラミックを歯の治療材料として使用することは一般的に行われているので、これらを使った治療の対価は医療費控除の対象になります。自由診療で医療費控除の対象とならないのは、高価な材料を使用する場合などで治療代がかなり高額になり、一般的に支出される水準を著しく超えると認められる特殊なものが該当します。

●クレジットカードでの支払い

 医療費をクレジットカードで支払った場合は、カードでの精算時にカード会社が患者に代わって立替払いをしていますので、その時点で医療費の支出があったものとされます。
 これに対して未払いとなっている医療費については、現実に支払った時点で医療費控除の対象となるので、実際に支払われるまでは控除することはできません。

●生命保険金の取扱い

 医療費を補てんする保険金は、その給付の目的となった医療費の補てんに充てられ、補てんしきれない部分のみが医療費控除の対象となります。したがって、補てんする保険金がその対象となる医療費を上回っても他の医療費からは差し引きません。


1 対象となる医療費

 医療費控除の対象となる医療費は次に掲げるもので、その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とされています(所法73丸数字2、所令207)。

対象となる医療費 対象とならないものの例
医師または歯科医師による診療または治療の対価
医師等に対する謝礼金
健康診断の費用(異状が発見されない場合のもの。重大な疾患が発見され、その健康診断に引き続き疾病の治療を行った場合の診断の費用は該当します。)
美容整形の費用
インフルエンザの予防接種の代金
医師等による診療、治療、施術などを受けるために直接必要な入院費、医療用器具等の購入代、義手・義足・松葉杖などの購入費用
自己の都合で希望する特別室の差額ベッド代
通常のメガネの購入費
老齢者の使用する補聴器の購入費
医師の指示に基づかない血圧測定器の購入費
治療または療養に必要な医薬品の購入の対価
ビタミン剤などの疾病の予防や健康増進のために用いられる医薬品や健康食品の購入代金
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価
疲れを癒したり、体調を整えるといった治療に直接関係のないもの
医師や指圧師等の資格のない者に対する費用
医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設または助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価
自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金等
分娩のため実家に帰るための交通費
保健師、看護師、准看護師または特に依頼した人による療養上の世話の対価
所定の料金以外の心付け
親族に付添いを頼んだ場合の付添料
分娩後に雇う家政婦に支払う費用
助産師による分べんの介助の対価  
介護保険制度の下で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額  


2 控除額の計算

 医療費控除の対象となる金額は、次の算式で計算した金額です(所法73丸数字1)。

その年に支払った
医療費の合計
保険金などで補
てんされる金額
※1

− 10万円 =
※2
医療費控除額
(最高で200万円)
※1  社会保険または共済に関する法律により支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金、生命保険契約などに基づく入院費給付金など
※2  総所得金額等が200万円未満の者は、総所得金額等の5%の金額
(注1)  保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きしますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。
(注2)  補てんされる保険金等が確定申告書の提出までに確定していない場合は見込額をもって計算し、後日差異があったときは遡及して訂正します。(所基通73−10)


3 手続き

 医療費控除を受けるためには、確定申告をする必要があり、その確定申告書には医療費の支払いを証明する領収書等を添付するか提示しなければなりません。

 なお、確定申告を電子申告で行う場合には、領収書等の添付または提示を省略することができますが(平成20年国税庁告示第37号)。この場合には、税務署長の開示要求にいつでも応じられるよう確定申告期限から3年間は領収書等の保管が必要になります(平成19年国税庁告示第8号)。


4 計算例

 ご質問のケースに具体的な金額をあてはめて計算してみましょう。

(1)事例

 平成23年中に支払った医療費などは次のとおりであったとします。なお神田一郎氏の総所得金額は200万円以上です。

かかった人(続柄) 支払った医療費 保険金により補てんされる金額
神田一郎(本人)
神田太郎(子)
歯科   21万円
胃腸科 12万円

16万円(左記の胃腸科の補てん分)
  合計   33万円  

(2)計算

 (33万円−12万円※)−10万円=11万円 → 医療費控除額

 ※ 保険金により補てんされる金額は、医療費ごとに差し引きますので、補てんされる金額が上回った部分(16万円−12万円=4万円)について、他の医療費から差し引く必要はありません。

(3)還付額

 神田一郎氏の所得に対する税率が20%だとすると、還付額は22,000円(11万円×20%)となります。

 

目次 次ページ