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5 敵対的買収防衛策 |
敵対的買収の防衛策を検討するにあたって、留意すべき点は、各企業が過剰防衛策を導入し、結果として現経営陣の保身に利用され、その結果、現株主にとって不利な状況が発生することです。 (1) 欧米型買収防衛策 平時に導入すべきものと実際に買収提案があってから有事に実施する手法に区分されます。 欧米で導入あるいは、検討された買収防衛策は次の表のとおりです。 平時の防衛策
有事の防衛策
(2) 日本において会社法上導入可能な防衛策 経済産業省の企業価値研究会が平成17年5月27日に公表した「企業価値報告書」に従って、ポイントをまとめました。平成18年5月より施行された会社法では導入可能な手法も、証券取引所等の取扱いにより、実質的な導入について制限をされる場合もありますので、慎重な検討が必要です。 |
[1] 新株予約権を用いたライツプラン 新株予約権を用いたライツプランとは、買収者以外の株主だけが行使できる、差別的行使条件のついた新株予約権を用いた防衛策、または、一定割合以上の株式を有する者以外のものについてのみ新株予約権の割当を行う防衛策のことです。差別的行使条件のついた新株予約権の発行は、株主平等の原則に反するのではないかという議論がありますが、新株予約権の行使条件については制限がないこと、また、新株予約権の行使は、株主の権利義務との内容ではないことを理由に、株主平等原則に反するものではないと考えられています。 旧商法の下では、新株予約権を株式に転換するかどうかの判断は、株主に委ねられていましたが、会社法では、強制取得条項つまり会社が買収者以外の株主の新株予約権を自社株と強制的に交換する条項の付与された新株引受権の発行が可能となっています(会236vii)。 [2] 買収者の議決権のみを希釈化するライツプラン 買収者が一定割合以上の株式を取得した場合に、強制転換条項付株式を利用して、買収者の株式を強制的に議決権制限株式に転換すれば、新株予約権を用いたライツプラン同様の効果が期待できます。当該このような防衛策は、買収者の議決権は希釈化しますが、配当比率は希釈化しない仕組みとなります。 具体的には、買収者が一定割合以上の株式(典型的には10%から20%)を取得した場合に、買収者の有する強制転換条項付株式が強制的に議決権制限株式に転換する仕組みとなっています。株主総会の特別決議(旧商法では、株主全員の同意)を経て、当該強制転換条項付株式の内容を定款に定め(旧商222ノ8、会108vi)、持株比率に応じて、その強制転換条項付株式を株主に割当て、すべての普通株式を取得することになります(会108vii、171、111)。 [3] 黄金株や複数議決権株式 黄金株とは、会社の合併などの重要事項に関して拒否権を有する種類株式を友好的な第三者に発行しておく仕組みです。黄金株は、種類株式を活用することにより発行することができます。具体的には、株主総会の特別決議を経て、その種類株式の内容を定款に定めることになります(会188viii)。 一方、複数議決権付株式は、1株1票を超える議決権のある特殊な株式をいいます。複数議決権株式は、単元の異なる複数の種類株式を活用することにより、特定の第三者に発行することが可能となります。たとえば、友好的な第三者には、1株で1単元の種類株式を与え、その他の株主には、100株で1単元の種類株式を割当てる仕組みとなります。株主総会の特別決議を経て、その種類株式の内容を定款の定めることになります(会188iii) なお、旧商法では、特定の種類株式にのみ譲渡制限を付すことはできないが、会社法では、株式の種類ごとに譲渡制限を付したり、付さなかったりする設計が可能となります。具体的には、株主総会の特別決議を経て、会社の承認を要するその種類株式の内容について定款に定めることになります(会108iii)。 この防衛策は、特定の有効な第三者の協力を前提とした防衛策であり、防衛効果は高いため、株主総会の特別決議において、その副作用を十分に説明し、株主の理解を得ることが必要といわれています。 [4] 定款変更による防衛策 |
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(イ) 合併や取締役解任の要件加重 旧商法では、会社が合併の承認や取締役の解任についての決議要件を定款により加重できるかどうかについては、不明確となっていましたが、会社法では、株主総会の決議要件を定款で加重できることが明確となってい ます(会309)。 (ロ) 事業結合制限条項、公正価格条項、支配株式条項 敵対的買収者の場合や、合併との対価が公正でない場合には、定款によって合併等の決議要件を加重することで、いわゆる鮫よけ対策として米国において導入されている事業結合制限条項や公正価格条項と同様の規定を導入することができます。また、会社法では、種類株式として議決権の行使条件を定款において定めることが明確化されることにより、敵対的買収者がその保有する株式数未満しか議決権を行使できないような種類株式を発行することによって、米国で導入されている支配株式条項と同様の規定も可能となります。 以上のように、会社法上は、さまざまな敵対的買収防衛策が考えられますが、上場企業の場合、強い機能を有する買収防衛策を導入すると、経営者側に過剰な防衛策となるため、ライツプランを中心とした防衛策が現実には導入されています。 |
(3) ライツプランの税務上の取扱い ライツプランの税務上の取扱いについては、国税庁が基本的考え方を明らかにしています。 ライツプランを以下の3つに分類しています。 |
[1] 事前警告型ライツプラン ライツプランの導入については事前警告のみ行い、敵対的買収者が現れた時点で新株予約権を付与する方法 [2] 信託型ライツプラン(直接型) [3] 信託型ライツプラン(SPC型) |
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(イ) プラン導入時 ライツプランの税務は、プラン導入時の課税関係が最大の焦点であったが、[1]、[2]、[3]いずれについても、新株予約権の譲渡が制限されることを条件に、信託銀行やSPCへの新株予約権の発行時に課税されません。 (ロ) 発動時 ライツプランは、基本的には発動を前提にしていないが、もし発動された場合には、株主に対して新株予約権付与時(個人株主については新株予約権の行使時)に課税されます。 SPC型の場合には、個人株主・法人株主双方、SPCからの譲渡時に課税されます。 |
課税関係をまとめると次のとおりです。 事前警告型ライツプランに係る税務上の取扱い(第1類型)
○ 原則的な課税関係
信託型ライツプラン(直接型)に係る税務上の取扱い(第2類型)
○ 原則的な課税関係
信託型ライツプラン(SPC型)に係る税務上の取扱い(第3類型)
○ 原則的な課税関係
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