目次 第3部 1-1(1)


 第3部 相続財産別の節税手法

第1章 不動産等(土地)

1 .基本的評価方法

(1) 評価手順

[1] 評価対象となる土地の認識・特定

 相続財産を評価するためには、まず被相続人が所有していた財産を把握することから始めます。相続人が、被相続人の生前に財産について話してあっておくこと、あるいは遺言書を作成しておいてもらうことが望ましいですが、そのような機会が持てない場合には、さまざまな資料を基に相続財産を把握する必要があります。

 ・ 被相続人が、確定申告を行っている場合には、確定申告書の内容から財産を把握します。また、所得が比較的多く確定申告の際に「財産債務の明細書」を提出している場合には、その内容を参考にします。
 ・ 自宅の金庫あるいは銀行の貸金庫に、権利書、契約書などがないかを確認します。
 ・ 被相続人の銀行の預金通帳の入出金の中に、賃貸借料の入出金などがないかを確認します。
 ・ 被相続人の日記や手帳などの内容により、不動産の売買記録、管理記録などがないかを確認します。また、被相続人が使っていたパソコンにあるデータを確認します。
 ・ 名刺や携帯電話の電話番号登録により、不動産関係者との関係を把握します。


[2] 資料・情報の収集

 土地はその権利関係、利用状況、形状等によって評価方法が異なります。したがって一般的には以下のような資料を収集します。

準備資料 入手場所 目的
登記簿謄本(登記事項証明書) 法務局 権利関係の把握
固定資産税評価証明書、名寄帳 相続人、管轄の市区町村役場 権利関係の把握、評価額の調査
ブルーマップ 法務局 現況の調査
住宅地図 書店 現況の調査
現地の写真 現地で撮影 現況の調査
航空写真 インターネット等 現況の調査
公図、地積図 法務局 現況の調査
都市計画図 各市区長村役場 現況の調査
道路台帳図面 各市区長村役場 現況の調査
道路種別図 各市区長村役場 現況の調査
固定資産評価証明書 各市区長村役場 評価額の調査
路線価図、評価倍率表 国税庁のホームページ 評価額の調査

 また、貸地、借地などの場合には以下のような資料により権利内容を把握します。

準備資料 入手場所 目的
賃貸借契約書 (注) 権利関係の把握
借地等に関する契約書 (注) 権利関係の把握
貸家に関する契約書 (注) 権利関係の把握
土地の無償返還に関する届出書の提出の有無 (注) 権利関係の把握
(注)被相続人の生前に確認しておく必要があります。

 また、資料だけでは把握できない土地の利用状況、形状等を確認するために現地を視察する必要がある場合もあります。

◎「不動産登記簿」のサンプル
「不動産登記簿」のサンプル


[3] 評価方法の検討

 上記[2]の結果を基に、地目・評価単位の判定をし、それぞれの評価上の分類(自用地、貸地、農地など)に沿って評価方法の検討を行います。


[4] 路線価地域、倍率地域、その他の調整補正

 具体的な評価方法は各評価上の分類ごとに後述しますが、大きく分けて路線価地域と倍率地域があります。

イ.路線価地域

 国税庁の公表する路線価図から路線価を調べ、それに地積を乗じて評価額を計算します。

評価額 路線価 × 地積

 i) 路線価

 路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定されており、標準的な画地を有する宅地の1平方メートル当たりの価額となっています(評基通14)。

 路線価図は、毎年、各国税局長が、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として定めて公表しており、国税庁ホームページで閲覧することができます。

◎「路線価図」サンプル
「路線価図」サンプル

 ii) 地区区分

 画地の調整を行う場合は、宅地の利用状況によって価格形成に影響する度合いが異なることから、宅地の利用状況がおおむね同一と認められる一定の地域ごとに、以下の7地区に区分して定められています(評基通14−2)。

・ビル街地区
 大都市における商業地域内にあって、高層の大型ビル、オフィスビル、店舗等が街区を形成し、かつ、敷地規模が大きい地区をいいます。

(路線価図の記号)
道路を中心として全地域  道路を中心として全地域    北側全地域  北側全地域
・高度商業地区
 大都市の都心若しくは副都心又は地方中核都市の都心等における商業地域内で、中高層の百貨店、専門店舗等が並み立つ高度小売商業地区又は中高層の事務所等が並み立つ高度業務地区をいいます。

(路線価図の記号)
全地域  全地域       道路沿い  道路沿い
・繁華街地区
 大都市又は地方中核都市において各種小売店舗等が並み立つ著名な商業地又は飲食店舗、レジャー施設等が多い歓楽街等、人通りが多い繁華性の高い中心的な商業地区をいい、高度商業地区と異なり幅員の比較的狭い街路に中層以下の平均的に小さい規模の建物が並み立つ地域をいいます。

(路線価図の記号)
南側道路沿い  南側道路沿い     南側全地域  南側全地域
・普通商業・併用住宅地区
 普通商業地区は、商業地域若しくは近隣商業地域にあって、又は住居地域若しくは準工業地域内の幹線道路(国県道等)沿いにあって、中低層の店舗、事務所等が並み立つ商業地区をいいます。併用住宅地区は、商業地区の周辺部(主として近隣商業地域内)又は住居地域若しくは準工業地域内の幹線道路(国県道等)沿いにあって、住宅が混在する小規模の店舗、事務所等の低層利用の建物が多い地区をいいます。

(路線価図の記号)
全地域  全地域        北側全地域南側道路沿い  北側全地域
 南側道路沿い
・普通住宅地区
 主として第1種住居専用地域及び第2種住居専用地域、住居地域又は準工業地域内にあって、主として居住用建物が連続している地区をいいます。

(路線価図の記号)
無印は全地域  無印は全地域
・中小工場地区
 主として準工業地域、工業地域又は工業専用地域内にあって、敷地規模が9,000平方メートル程度までの工場、倉庫、流通センター、研究開発施設等が集中している地区をいいます。

(路線価図の記号)
北側道路沿い南側全地域  北側道路沿い
 南側全地域
     北側道路沿い  北側道路沿い
・大工場地区
 主として準工業地域、工業地域又は工業専用地域内にあって、敷地規模がおおむね9,000平方メートルを超える工場、倉庫、流通センター、研究開発施設等が集中している地区又は単独で30,000平方メートル以上の敷地規模のある画地によって形成される地区(ただし、用途地域が定められていない地区であっても、工業団地、流通業務団地等においては、1画地の平均規模が9,000平方メートル以上の団地は大工場地区に該当する)をいいます。

(路線価図の記号)
南側全地域  南側全地域      北側全地域  北側全地域

 iii) 特定路線価

 路線価方式で評価する宅地が、路線価の設定されていない道路のみに接している場合には、当該道路を路線とみなして当該宅地を評価するための路線価(特定路線価)を納税義務者からの申出等に基づき設定することができます(評基通14−3)。

 特定路線価は、その特定路線価を設定しようとする道路に接続する路線及び当該道路の付の路線に設定されている路線価を基に、当該道路の状況、地区の別等を考慮して税務署長が評定した1平方メートル当たりの価額となります。

 特定路線価は、「特定路線価設定申出書」の提出に基づいて評定されますが、その提出先は納税地を管轄する税務署長になります。

◎「特定路線価設定申出書」サンプル
「特定路線価設定申出書」サンプル

ロ.倍率地域

 市区町村より入手した固定資産税評価証明書、あるいは固定資産税課税明細書から固定資産税評価額を調べ、国税庁の公表する評価倍率表にある評価倍率を乗じて評価額を計算します。

評価額 固定資産税評価額 × 評価倍率

ハ.その他の調整補正

 評価対象地の形状や権利状況により、路線価地域であれば各種調整率(奥行価格補正、不整形地補正など)による補正を行い、借地権など土地の上に存する権利がある場合はその影響も加味して評価します。

◎「倍率表」サンプル
「倍率表」サンプル

 

目次 次ページ