目次 II−3


3 遺 贈

1.包括遺贈

 「包括遺贈」とは、たとえば「遺産の○分の○を何某に遺贈する」というように、遺産の全部またはその一定割合を与える旨の遺贈をいう。包括遺贈を受けた者(包括受遺者)は相続人と同一の権利義務を有し(民990)、遺言者の死亡により遺言者の権利のみならず相続債務をも包括的に承継する(物権的効力説)。より具体的には、包括受遺者は他の共同相続人と遺産を共有し(民898)、遺産分割に参加することができる(民906以下)こととなる。問題となるのは、相続人でない包括受遺者に特別受益または寄与分の規定が適用されるかであるが、遺言者が通常これらを考慮に入れているであろうことを理由に、否定する見解が有力である(『新版注釈民法(27)相続(2)』有斐閣221頁)。

 また、包括受遺者には相続登記の単独申請の規定(不登法63マル数字2)も適用されず、受遺者と遺言執行者または相続人とが共同して、「遺贈」を原因とする移転登記を申請しなければならない。

 なお、複数の包括受遺者間において遺産分割が成立した場合でも、遺産共有状態の登記を経由した上で、目的不動産の取得者に対する持分移転登記をしなければならないとされている(『登記研究』テイハン571号75頁)。他方、一部包括受遺者と相続人との間において遺産分割が成立した場合に遺産共有状態の登記を省略できるかについては明らかでないが、受遺者と相続人との共有状態を登記する場合には、先に遺贈による一部移転を、その後に相続による残部の移転を申請しなければならない(昭和30年10月15日民甲第2216号)。


2.特定遺贈

 「特定遺贈」とは、たとえば「甲不動産を何某に遺贈する」というように、遺産中の具体的な財産を与える旨の遺贈をいう。目的物が特定物である場合には、遺言の効力発生と同時にその所有権が受遺者に移転し(物権的効力説。大判大正5年11月8日民録22輯2078頁)、かつ、それが不動産であるときは、受遺者は権利の取得を登記なくして第三者に対抗することができない(最判昭和39年3月6日民集18巻3号437頁)。

 特定遺贈による登記の申請手続については、受遺者と遺言執行者または相続人との共同申請による点、登記原因を「遺贈」とする点において包括遺贈と同様であるが、後日の遺産分割によって持分が修正される余地はない。

 特定遺贈については、遺言が効力を生じてから遺贈義務者が義務を履行するまでの法律関係について(民991ないし民993)、遺贈義務者の担保責任について(民996ないし998、1000)、遺贈の目的物に滅失等があった場合の物上代位について(民999、民1001)、詳細な規定が置かれているが、これらは遺言解釈の補充規定であり、遺言に別段の定めがあれば、遺言者の意思が優先することになる。

 

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