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2 相続分の指定・遺産分割方法の指定 |
1.相続分の指定 「相続分の指定」(民902)とは、遺言により、共同相続人の全部または一部の者について、法定相続分の割合とは異なった割合で相続分を定め、またはこれを定めることを第三者に委託することをいう。通常は、「甲野春子、甲野一郎、甲野二郎の相続分を各3分の1ずつとする」というように、相続財産全体に対する分数的割合で指定がされる。相続分の指定があると、法定相続分に優先して各共同相続人の相続分が定まり(第三者に指定の委託があった場合には、指定の効果が相続開始時に遡及する)、共同相続人は、指定相続分に応じて遺産分割を実行することとなる。また、他に相続人に対する遺贈(または贈与)がある場合には、相続分の指定により、当該遺贈(または贈与)について特別受益としての持戻しを免除したものと解するのが通常である。 指定相続分に従わない遺産分割の効力が一応問題となり得るが、協議分割による場合は、各相続人の自由な意思に基づく限り有効であると解されている。 相続分の指定があった場合の登記手続は、(1)遺産分割前において指定相続分による共同相続登記をした上で、遺産分割後に「遺産分割」を原因として当該不動産を取得した相続人への持分移転登記をすることも可能であるし、(2)遺産分割が終了した後に被相続人から当該不動産を取得した相続人へ直接相続登記をすることも可能である。通常は後者による。 2.遺産分割方法の指定 「遺産分割方法の指定」(民908)とは、本来は、法定相続分を動かすことなく、「甲不動産を換価して分割するものとする」というように、遺言によって遺産をどのように分割するかを指定し、またはその指定を第三者に委託することを意味していた。すなわち、現物分割、換価分割、代償分割、共有とする分割または用益権の設定といった方法のうち、いずれによるかの指定である。しかしながら現在においては、さらに「甲不動産をAに、乙不動産をBに相続させる」といったいわゆる「相続させる旨の遺言」も、遺産分割方法の指定であると解釈されるに至っている(前掲最判平成3年4月19日、いわゆる「香川判決」)。本来の意味における遺産分割方法の指定であれば、遺言の効力発生後には当然に遺産分割を要するが、「相続させる旨の遺言」がされた場合には、当該特定財産について遺産分割は不要である(同判例)。 登記手続上も、本来の意味における遺産分割方法の指定があった場合において不動産取得者が相続登記をするためには、遺産分割協議書等を登記原因証明情報の一部として添付しなければならない(なお、換価分割であれば、法定相続分による相続登記を経由した上で、買受人に対する売買による移転登記をすることになる)。これに対し「相続させる旨の遺言」であれば、遺産分割の証明は問題とならず、不動産の割付けを受けた相続人が遺言書を登記原因証明情報の一部として添付し、相続登記をすることができる。 3.第三者に対する指定の委託 相続分の指定及び遺産分割方法の指定のいずれも、第三者にその指定を委託することができる(民902、908)。第三者は委託を拒否することができ、第三者が委託を拒否した場合や委託を承諾したにもかかわらず指定をしない場合に問題となり得るが、特に規定は設けられていない。また、相続人または包括受遺者に対して指定の委託をすることができるかについても争いがあるため、実務上注意を要する。 4.遺産分割の禁止 被相続人は、遺言によって、相続開始の時から5年間遺産分割を禁止することができる(民908)。 【例―自筆証書遺言】
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