目次 II−1


II.遺言相続と遺贈


1 総 論

 法定相続に対する概念として、「遺言相続」という語が用いられる。この語の意味するところは、遺言により相続分の指定(民902)または遺産分割方法の指定(民908)がされた場合を指すのが一般であるが、さらに遺贈による財産の処分(民964本文)を含むこともある。

 実際の遺言の解釈にあたっては、遺言者の意思が上記三者のうちいずれにあるか疑問となることも少なくないが、登記手続においては、この三者は明確に異なっている。概論すると、(1)まず相続分の指定であれば、遺産分割を経た上で不動産取得者の単独申請により相続登記をするか、指定相続分による遺産共有状態で相続登記をし、後日に他の相続人との共同申請により「遺産分割」を原因とする持分移転登記をするかを選択することができる。(2)次に、遺産分割方法の指定については、いわゆる「相続させる旨の遺言」であれば遺産分割は不要となり、不動産取得者は単独で目的不動産の相続登記をすることができる。(3)これらに対し、遺贈であれば登記原因は「遺贈」となり、受遺者は、相続人または遺言執行者との共同申請により移転登記をしなければならない。一部包括遺贈の場合には遺産共有状態を登記した上で「遺産分割」による持分移転登記をすることになるが、この場合でも受遺者への遺贈による移転登記を共同申請によるべきことに変わりはない。また、遺贈による登記は、相続人に対する遺贈を除き、相続登記に比べて登録免許税率が高く設定されている。

 司法統計によれば、平成18年の遺言検認事件の新受件数は12,595件となっており、平成8年の統計(8,175件)から大幅な増加が見られる。また、近時は、信託銀行や都市銀行も遺言作成・執行業務を積極的に行っているし、任意後見制度の利用者が併せて遺言書を作成するという現象も起きているようである。しかし一方で、専門家のコンサルティングを受けていない自筆証書遺言の中には、遺言の趣旨が明確でないものはもとより、重度の方式違背により残念ながら無効とならざるを得ないものや、認知症による判断能力喪失後に他者の影響の下に作成されたようなものも散見される。遺言の作成段階において、登記実務が果たすべき役割は大きいと思われる。


【申請書情報記録例】


登 記 申 請 書

登記の目的  所有権移転
登記原因  平成○年○月○日遺贈
権 利 者  ○県○市○町○丁目○番○号
  持分2分の1 乙野 一郎
   ○県○市○町○丁目○番○号
 (住民票コード 12345678901)
     2分の1 乙野 二郎
義 務 者  ○県○市○町○丁目○番○号
  亡甲野 太郎
添付情報  登記原因証明情報   登記識別情報
 印鑑証明書        住所証明情報
 代理権限証明情報
(なお、登記識別情報の通知を希望しない。)
平成○年○月○日申請 ○○法務局○○支局(出張所) 御中
代 理 人  ○県○市○町○丁目○番○号
  司法 太郎     印
 (連絡先電話番号 ○○−○○○○−○○○○)
課税価格  金○円
登録免許税  金○円
不動産の表示  後記物件目録記載のとおり

 物件目録(省略)

 

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