目次 I−6


6 相続分の譲渡

1.相続分の譲渡の意義

 被相続人が死亡した場合は、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継することとなる。すなわち、ここでいう相続分は、本来、各共同相続人が遺産分割によって取得し得る財産の価額(または各共同相続人が被相続人から承継する債務の額)を表象する分数的割合にすぎず、相続分そのものが財産権としての具体的価値を有しているわけではない。

 ところが、民法は、共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができるとし(民905)、間接的に「相続分」の譲渡性を認めている。そのため、本条の「相続分」は、上述した意味での相続分とは異なり、各共同相続人が包括的な意味での遺産(積極財産及び消極財産)の上に有する持分ないし法律上の地位をいうものと解されている。

【参考判例】最三小判平成13年7月10日民集55巻5号955頁
 共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時に遡って被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。


2.相続分の譲渡の効果

 相続分を有する者が、その相続分の全部または一部を他人に譲渡したときは、次のような効果を生じる。

(1) 譲受人が共同相続人以外の第三者であるとき

 a  遺産分割の当事者としての地位の移転

 共同相続人中の一部の者からその有する相続分の全部を譲り受けた第三者は、譲渡人に代わって遺産分割の当事者となる。

 なお、相続分の譲受人である第三者は、自身の行為が特別の寄与に当たるとして、遺産分割に際して寄与分(民904の2)を有する旨を主張することができる(通説)。

 b  債務(消極財産)の承継

 被相続人から承継した債務については、譲渡当事者間においては相続分の譲渡に伴って譲受人に移転するが、債権者は、譲受人が免責的に債務を引き受けることに同意した場合等でない限り、譲渡人及び譲受人のいずれに対してもその履行を請求することができると解される(『新版注釈民法(27)』有斐閣295頁)。

(2) 譲受人が共同相続人であるとき

 a  遺産分割の当事者としての地位の喪失

 共同相続人中の一部の者が、他の共同相続人に対してその相続分の全部を譲渡したときは、譲渡人である相続人は、遺産分割の当事者から除かれる。

 b  相続分の修正

 共同相続人中の一部の者が、他の共同相続人に対してその相続分の一部を譲渡したにとどまるときは、譲渡当事者双方の相続分がそれぞれ増加または減少することとなる。なお、相続分の譲渡には遡及効がない(前掲最三小判平成13年7月10日参照。もっとも、相続分譲渡の後にされた遺産分割の効力は、相続開始の時に遡る)。

 c  債務(消極財産)の承継

  (1)と同様に解される。

 

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