目次 I−5


5 協議による遺産分割

 被相続人が相続開始の時において有した財産(いわゆる「遺産」)のうち、当然に分割されるもの(可分債権等。最一小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)、特定遺贈(民964)の対象であるもの及びいわゆる「相続させる旨の遺言」の対象であるもの(最二小判平成3年4月19日民集45巻4号477頁。香川判決)を除いた部分は、共同相続人(包括受遺者及び相続分の譲渡を受けた者を含む。以下本項において同じ)による共有状態にある(この共有状態は、一般に「遺産共有」と称され、財産法上の共有(物権共有。民249以下)とは一応区別されている)。

 遺産共有の法的性質について、学説上は争いがあるが、判例は物権共有と異なるものではないと解している(最三小判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)。もっとも、たとえば共有者間に分割の協議が整わないときは、物権共有であれば訴訟事件として通常裁判所における手続により、遺産共有であれば家事事件として家庭裁判所における手続により、共有財産の分割を求めることとなる(判例によれば、遺産分割は「遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法第906条所定の基準に従って分割することを目的とするものである」から、「本来共同相続人という身分関係にある者または包括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者」を当事者として、「原則として遺産の全部について進められるべきものである」。最二小判昭和50年11月7日民集29巻10号1,525頁)。

 「遺産分割」とは、共同相続人がその共有する遺産を(原則として)法定相続分(ないし具体的相続分)に基づいて分割し、その最終的な承継者を確定させて、遺産共有を解消するための手続である。


【例―相続関係説明図(遺産共有の登記前に遺産分割協議が成立した場合)】

被相続人甲野一郎の相続関係説明図

 

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