目次 I−4


4 寄与分

1.寄与分の意義

 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者(以下「寄与分権利者」という)があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めた寄与分権利者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、民法第900条から第902条までの規定により算定した相続分に、寄与分を加えた額をもって寄与分権利者の相続分とする(民904の2マル数字1)。

 前節で述べた特別受益者制度は、相続の発生が相続人の潜在的持分を清算する契機とされていることにかんがみ、特定の相続人に対する“相続財産の前渡し”と評価すべき遺贈または贈与があった場合に、受遺者または受贈者である相続人(特別受益者)と他の共同相続人との実質的衡平を図るものといえる。本節で述べる「寄与分の制度」は、究極の目的において特別受益者制度と異なるところがないが、遺産分割に際して寄与分権利者が相応の“見返り”を受けられるよう、その地位に法的な裏付けを与えるものである。

 ところで、上述したとおり、寄与分の有無及びその具体的な価額は共同相続人間の協議により定めるべきものとされているが、寄与分について考慮することなく遺産分割の協議をしたとしても、そのことは当然には遺産分割の効力を左右しない(協議の結果、共同相続人中の一部の者(本来の寄与分権利者に限らない)が法定相続分を上回る遺産を取得したというような事案では、共同相続人間で相続分の全部または一部の譲渡があったと解すること等により(民905参照)、その適法性を容易に肯定し得る)。寄与分の制度は、事実上、共同相続人間に遺産分割の協議が整わないとき、またはその協議をすることができないときにこそ威力を発揮するといえよう(これらの場合には、寄与分権利者は、家庭裁判所に対し、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、自己のために寄与分を定めるよう請求することができる。民904の2マル数字3。なお同マル数字4参照)。

 なお、寄与分の制度は、「民法及び家事審判法の一部を改正する法律」(昭和55年法律第51号)により創設されたものであり、同法の施行の日(昭和56年1月1日)以後に開始した相続を対象とする(同法附則1、2)。


2.寄与分権利者

 寄与分の存在を主張することができる者は、「共同相続人」に限られる(民904の2マル数字1))。上述したとおり、寄与分の有無及びその具体的な価額は、一般に遺産分割の協議(これに代わる調停、審判(家審9マル数字1乙類十、11)を含む。なお、民904の2マル数字4参照)において定めるべき性質のものであるから、遺産分割に参加することができない者が寄与分権利者となる余地はない(ただし、「寄与補助者」として評価される場合がある)。

 特別受益者(民903)は、具体的相続分を有しないものであっても、遺産分割の協議に参加することは可能であるから、寄与分の存在を主張することができる。

 これに対し、包括受遺者(民990)については、寄与分制度の適用について積極、消極双方の見解が対立しているが、通説は後者である。(1)包括受遺者は「相続人と同一の権利義務を有する」ものの、ここでいう「共同相続人」には当たらない、(2)包括遺贈は、多くの場合、受遺者の寄与に報いる趣旨が含まれているであろうから、別途寄与分を認める必要はない、等の理由による。

 代襲相続人は、代襲原因を問わず、被代襲者の寄与を主張することができると解されている(東京高決平成元年12月28日家月42巻8号45頁、横浜家審平成6年7月27日家月47巻8号72頁)。また、他の共同相続人と同順位である以上、代襲相続人が自らの寄与を主張することも可能である(寄与の時期は問わない)。

 相続分の譲渡を受けた者は、結論は明らかでないが、寄与分が必ずしも一身専属的なものとされていない前掲審判例からは、少なくとも譲渡人の寄与を主張することは可能と解される。

 また、通説によれば、被相続人について相続が開始した後、その遺産分割前に寄与分を有する相続人(本項において「中間相続人」という)が死亡し、中間相続人についても相続が開始した場合(いわゆる「再転相続」の場合)、再転相続人は、中間相続人の寄与分を自己のために主張することができる(再転相続人は、中間相続人の相続人として、被相続人の相続に関する遺産分割協議に参加することができる。昭和29年5月22日民甲第1037号回答)。

 なお、寄与分は、少なくとも相続開始後、遺産分割が完了するまでの間は、その協議(これに代わる調停を含む)の中で、または他の共同相続人全員に対する別段の意思表示によって、任意に放棄することができる(通説)。

 

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