目次 I−2


2 相続欠格

1.相続欠格

 推定相続人(被相続人となるべき者の存命中のある時点において、仮に相続が開始したとすれば、法令上、その相続人となるべき立場にある者をいう。この地位は、先順位相続人の出現等によって変動する不確定なものにすぎない)のうち、次に掲げる者は、相続人となることができない。これを「相続欠格」という。

ア) 故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者(民891一)

被相続人の死亡という結果について「故意」であることを要するから、過失致死(刑210)、傷害致死(刑205)は含まれない(大判大正11年9月25日民集1巻534頁)。他方、被相続人を「死に至らせようとした」行為には、殺人予備(刑201)の実行行為を含む。

刑事責任無能力者(刑41)であるため、または正当防衛(刑36マル数字1)が成立したため、刑を受けなかった場合は、欠格事由とならない。執行猶予の期間が満了し、刑の言渡しが効力を失ったとき(刑27)も同様である。なお、「刑に処せられた」時期は問わない(相続開始の後に処刑された者を含む)。

イ) 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(民891二本文。なお、その者が是非の弁別を有しないとき、または殺害者がその者の配偶者もしくは直系血族であったときを除く。同但書)

捜査機関に犯罪が明らかとなり、もはや告発、告訴を要しないこととなった後にその事実を知った者については、本号の適用はない(大判昭和7年11月4日法学2巻829頁)。

ウ) 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者(民891三)

エ) 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者(民891四)

オ) 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者(民891五)

ウ)からオ)までにつき、「相続に関する」事項以外の事項についての遺言は、対象とならない。

瑕疵ある無効な遺言書につき、遺言者の意思を実現するためその瑕疵を治癒する目的で字句の訂正等をした場合は、本号の「偽造」ないし「変造」があったとはいえない、と解する説が有力である(最判昭和56年4月3日民集35巻431頁)。

相続欠格者は、当然に(何ら手続を経ることなく)、相続人となり得る資格を失う(民891柱書。昭和3年1月18日民第83号回答)。また、受遺者となることもできない(民965)。なお、欠格事由が相続開始の後に生じた場合には、その効力は、相続開始の時に遡及する(大判大正3年12月1日民録20輯1,091頁)。


2.相続欠格の効果

 相続欠格の効果は、その事由と直接関係のある被相続人との間においてのみ生ずる。たとえば、父を殺害して刑に処せられた子は、父の相続及びその妻(母)の相続において欠格者となるが、自己の子との関係では、他に欠格事由がない限り、その相続人となり得る資格を失わない。

 他方、相続欠格者が、事実上相続財産を管理している場合に、その全部または一部を処分したときは、その相手方となった第三者は、真正な相続人との関係で、自己の権利取得を対抗することができない。取引関係の安全よりも、相続人の利益を優先的に保護する趣旨である。ただし、当該第三者が、相続欠格者に対し、損害賠償請求その他の方法により債務不履行ないし不法行為の責任を追及できることはもとよりである。

 なお、相続欠格は法定の効果であり、これを免除する方法について特段の規定がないことから、被相続人が相続欠格者を許し(欠格事由の存在を不問に付し)、その相続権を回復させることはできないと解するのが通説の立場とされる。

 

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