目次 B-IX-3


 Bゾーン 相続発生前1年内の対策

 IX 養子縁組の活用による相続税対策

 3 養子縁組による相続税の軽減効果

 相続対策や相続税等の計算において、養子縁組は届け出たその日から効力が発生することから、即効性のある対策といえます。養子縁組により得られる効果で主なものは次のとおりです。


(1)遺産に係る基礎控除額の計算

 相続税の総額を計算する場合に課税価格の合計額から控除することができる基礎控除額は、平成27年1月1日以後に開始した相続から「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、養子縁組により法定相続人が増えることで基礎控除額も増加することとなります。


(2)相続税の総額を計算する場合の累進税率の緩和

 相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分に従って分けたものとみなした場合における各取得金額に累進税率を適用して計算します。したがって、養子縁組により法定相続人が増えることで適用される累進税率が低くなる可能性があります。

設 例  

1.被相続人  父(平成27年4月死亡)
2.相続人   母と子1人
3.相続財産  5億円
4.遺産分割  法定相続分どおり相続する。なお、母の固有の財産はないものと仮定する。
5.養子縁組  子の配偶者を養子縁組した場合の効果の確認
(単位:万円)
  第一次相続(父の相続) 第二次相続(母の相続) 合計税額
母の相続税 子の相続税 子の相続税
母と子1人 7,605 6,930 14,535
母と子2人 6,555 4,920 11,475
軽減効果額 1,050 2,010  3,060

 父が養子縁組をしていれば、第一次相続において1,050万円、第二次相続では2,010万円、通算相続税では、3,060万円相続税が軽減されます。

【相続人が法定相続分により相続した場合の相続税額の早見表】

<母(配偶者)と子が相続人である場合の相続税額> (単位:万円)
相続人 遺産の総額
3億円 4億円 5億円 7億円 10億円
母と子1人 3,460 5,460 7,605 12,250 19,750
母と子2人 2,860 4,610 6,555 10,870 17,810
母と子3人 2,540 4,155 5,962  9,885 16,635

<子のみが相続人である場合の相続税額> (単位:万円)
相続人 遺産の総額
1.5億円 2億円 2.5億円 3.5億円 5億円
子1人 2,860 4,860 6,930 11,500 19,000
子2人 1,840 3,340 4,920  8,920 15,210
子3人 1,440 2,460 3,960  6,980 12,980


(3)生命保険金等・退職手当金等の非課税限度額の計算

 相続人が受け取った生命保険金等及び退職手当金等については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」まで非課税とされています。養子縁組により法定相続人が増えることで非課税限度額も増加することとなります。

 なお、上記(1)から(3)までの法定相続人には、相続の放棄があった場合にはなかったものとし、養子がいる場合に、原則として実子がいる場合には1人まで、実子がいない場合には2人までとして計算した人数によることとされます。


(4)未成年者控除・障害者控除

 法定相続人が、未成年者又は障害者である場合には、一定の税額控除が認められています。したがって、養子縁組により未成年者又は障害者が法定相続人となった場合で、一定の要件に該当するときには、これらの税額控除の適用を受けることができます。この場合、法定相続人の数に算入する養子の数の制限は設けられていませんので、養子全員が未成年者控除・障害者控除の対象となります。

設 例  

1.被相続人  母
  (平成27年1月に死亡したものと仮定・相続人等の年齢は相続開始時の年齢)
2.相続人   長男(特別障害者・45歳)
3.長男の家族 妻(一般障害者・42歳)、子(一般障害者・15歳)
4.母の財産  3億円(法定相続分どおり相続する)
5.養子縁組  長男の妻と子を母と養子縁組を行う
6.養子縁組の効果の検証
(単位:万円)
  縁組前 縁組後
長男 長男 長男の妻 長男の子 合計
課税価格 30,000 10,000 10,000 10,000 30,000
基礎控除額  3,600      4,200(注1)  4,200
課税遺産総額 26,400 25,800 25,800
相続税の総額  9,180      6,920(注2)  6,920
各人の算出税額  9,180  2,307  2,307  2,306  6,920
相続税額の2割加算    461    461
未成年者控除    △50    △50
障害者控除   △800   △800   △430   △700 △1,930
納付税額  8,380  1,507  1,877  2,017  5,401
(注1)  法定相続人は、長男と2人の養子(長男の妻と長男の子)は1人とカウントすることから、(3,000万円+600万円×2人)4,200万円となります。
(注2)  課税遺産総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額(千円未満切捨て)を計算し、この取得金額に税率を乗じて相続税の総額の基となる税額を算出します。(設例の場合の法定相続人の数は2人(養子は2人を1人としてカウント)として計算します。)
 このようにして計算した各法定相続人ごとの算出税額を合計して相続税の総額を計算します。


(5)相続税額の2 割加算の不適用

 被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含みます。)及び配偶者以外の人が、相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その人の相続税額は2割加算されることとなっています。しかし、養子縁組を行うと、養子は民法上の一親等の血族に該当することになり、2割加算の適用はありません。

 ただし、被相続人の養子となった当該被相続人の直系卑属である孫など(代襲相続人である者を除きます。)については2割加算の対象者とされます。

民法上の一親等の血族 相続税額の2割加
算の対象となる者
相続税額の
加算
実親・実子(自然血族) 非該当
養親(法定血族) 非該当
養子
(法定血族)
被相続人の
直系卑属が
養子となっ
ている場合
一親等の血族の死亡、廃除、相続欠格により代襲相続人となった直系卑属 非該当
上記以外の直系卑属 該当
上記以外の養子 非該当


(6)相続の一代飛ばし

 孫と養子縁組をして財産を相続させると、相続税の課税を一世代飛ばすことができます。例えば、父から子へ、そして子から孫へ財産が相続される場合には、その都度相続税が課税されますが、父から直接孫へ相続させれば相続税の課税は1度で済みます。(ただし、相続税額の2割加算の対象者となります。)


(7)養子縁組と遺留分

 養子縁組をすると、相続税法上は、法定相続人に算入される養子の数には制限がありますが、民法上は何人でも養子は法定相続人となります。よって、遺産分割の対策として、財産をなるべく渡したくない相続人がいる場合に、遺言書を作成して他の方に渡すこととしておいても、遺留分により最低限は取り戻されてしまいます。そこで、養子縁組を行うことで、法定相続人を増やすと、1人当たりの遺留分の割合を少なくすることができます。

 この場合、養親となる者の意思能力の有無を巡って紛争の発生を防止するために、養子縁組の届出書に養親本人の自署を求め、それが不可能なときには、届出書の作成に当たって養親の意思を確認するに足りる公正な第三者を立会させる等の配慮が必要です。共同相続人の相続分ないし遺留分の割合を減少させようとすることのみを目的とする養子縁組は、法律上の親子関係を形成しなければならない特段の必要性はなく、民法第802条第1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に該当し、養子縁組が無効とされる可能性があります。養子縁組が相続争いの火種とならないよう細心の注意が必要です。

設 例  

1.被相続人  父(平成27年4月死亡)
2.相続人   長男、長女
3.養子縁組  長男の妻と子を養子縁組
4.父の財産  4億円
5.遺言書による遺産分割(長女の遺留分に配慮した遺言書にしてある)
 (1)養子縁組なし:長男3億円、長女1億円
 (2)養子縁組あり:長男3億円、長女5千万円、長男の妻4千万円、長男の子1千万円
*長女の遺留分
 養子縁組なし:4億円×1/2(全体遺留分)×1/2(個別遺留分)=1億円
 養子縁組あり:4億円×1/2(全体遺留分)×1/4(個別遺留分)=5千万円

相続税の計算 (単位:万円)
  養子縁組なし 養子縁組あり
長男 長女 合計 長男 長女 養子
(長男の妻)
養子
(長男の子)
合計
課税価格 30,000 10,000 40,000 30,000 5,000 4,000 1,000 40,000
基礎控除額 4,200 4,200 4,800(注) 4,800
相続税の
総額
10,920 10,920 8,980 8,980
各人の
算出税額
8,190 2,730 10,920 6,735 1,123 898 224 8,980
相続税額の
2割加算
45 45
納付税額 8,190 2,730 10,920 6,735 1,123 898 269 9,025
(注) 実子がいるため、養子は1人と数えて基礎控除額を計算します。


(8)法定相続人が兄弟姉妹の場合の養子縁組

 この場合、養子縁組を行うと、その養子は第1順位の相続人となりますので、養子のみが法定相続人となります。つまり、養子にすべての財産を相続させることができます。自分より年少者であれば養子縁組できますので、自分の弟か妹かの1人を養子にして、全財産を相続させることもでき、さらに、相続税額の2割加算の適用もなくなります。しかし、元々の法定相続人の数が多い場合には、養子縁組することで、法定相続人の数が少なくなり、基礎控除額が下がるなど、相続税の計算上不利となることもありますので、注意が必要です。

設 例  

1.被相続人  甲(平成27年4月死亡)
2.相続人
 (1)養子縁組前 妻・兄・姉・弟・妹
 (2)養子縁組後 妻・養子(妹の子)
3.相続財産  4億円
4.遺言書による遺産分割 妻3億円、養子(妹の子)1億円
5.相続税の計算
(単位:万円)
  養子縁組なし 養子縁組あり
妹の子 合計 養子 合計
課税価格 30,000 10,000 40,000 30,000 10,000 40,000
基礎控除額       6,000(注1) 6,000   4,200(注2) 4,200
相続税の総額       9,850 9,850   10,920 10,920
各人の算出税額 7,387 2,463 9,850 8,190 2,730 10,920
相続税額の2割加算 492 492
配偶者の税額軽減 (注3)△7,387 △7,387 △5,460 △5,460
納付税額 2,955 2,955 2,730 2,730 5,460
(注1)  法定相続人は、妻、兄、姉、弟、妹の5人で、基礎控除額は(3,000万円+600万円×5人)6,000万円となります。
(注2)  法定相続人は、妻、養子の2人で、基礎控除額は(3,000万円+600万円×2人)4,200万円となります。
(注3)  配偶者の税額軽減は、法定相続分(3/4)に相当する3億円に対する相続税額となります。

 

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