目次 III−1−(2)


(2) 物的担保の種類

 物的担保には、大きく分けて法定担保物権と約定担保物権があることは先に説明しました。約定担保は、当事者同士の合意により物的担保として、ある物件をその物件の所有者(物上保証人)から債権者に差し入れるものです。物的担保を、債権額よりも大きな価値を有する物件に設定した場合には、他の債権者より優先して、その物件を換価した金銭から全額回収を受けることができます。


[1] 抵当権(根抵当権)

 抵当権とは、債権者が債権を担保するために、債務者や第三者が所有する不動産に対して、その占有を移転することなく設定する担保物権です。抵当権は約定担保物件ですから、不動産所有者と債権者の抵当権設定契約によって成立します。債権者は、債務者が債務を履行しない場合、抵当権を実行し、その不動産を競売手続きにかけることにより不動産を金銭に換価し、競売代金から他の債権者に優先して債権の回収を図ります。抵当権設定者は、占有権を移転する必要がないため、従来どおりその不動産の使用、収益をすることができます。抵当権は、不動産の所有権や地上権、永小作権に設定することができます。

 抵当権は、次の2種類に分けられます。

普通抵当権 債権者が特定の債権を担保するために設定するもの
根抵当権 債権者が一定の範囲の不特定の債権を極度額の限度で担保するために設定するもの

 普通抵当権は、その設定時に債権額が確定している必要がありますので、会社間の継続した商品売買取引に基づく売買代金を担保するために設定することはできません。会社間の継続した商品売買取引に基づく売買代金を担保するためには、根抵当権の設定が適しています。

 抵当権は通常、住宅ローン債権者が住宅ローンを担保するためや、金銭消費貸借契約を担保するために設定されます。

 根抵当権で担保できる債権の範囲は、次のような債権でなければなりません。

債務者との特定の継続的取引契約によって生じる債権
例)平成19年8月1日付継続的売買契約に基づく債権
債務者との一定の種類の取引によって生じる債権
例)手形債権、小切手債権

 同じ不動産に複数の抵当権(根抵当権)が設定された場合には、抵当権(根抵当権)設定登記がなされた順序によって、優先的に弁済を受ける権利が決められます。

 同じ不動産に複数の債権者が抵当権を設定することは可能ですが、自分がその不動産の換価価値から一番に弁済を受けるためには、他の債権者よりも早く抵当権設定登記をする必要があります。例えば、抵当権設定を1番にした債権者が1,000万円の債権を有し、2番に抵当権設定登記をした債権者が1,500万円の債権を有している場合に、その担保不動産が2,000万円で競売された場合には、1番抵当権者は、債権額の満額である1,000万円の弁済を受けることができますが、2番抵当権者は債権額の満額である1,500万円の弁済を受けることができず、1番抵当権者が弁済を受けた後の残額である1,000万円しか弁済を受けることができません。


[2] 質権

 質権とは、債権者が債権を担保するために債務者や第三者から提供を受けた財産を債権者が占有する担保物権です。債権者は債務者に債務不履行があった場合には、その財産の所有権を債権者が取得したり、その財産を売却することにより金銭に換価し、他の債権者に優先して弁済を受けることができます。

 質権を設定するには、債務者又は物上保証人は、質権者にその財産を引き渡さなければなりません。そのために、質権の目的となる財産は、譲り渡すことができる物でなければなりません。また、質権者は、質権設定者に質権を設定した物(質物)の占有をさせることができません。よって、質権設定者が通常占有しておく必要がある物には、質権を設定することができません。質物となりうる物の例としては、株券をあげることができます。

 通常は、質権設定契約と同時に、債務者の債務不履行があった場合には、質権者が質物の所有権を取得したり、任意に売却することができるように流質契約を締結するケースが多いようです。


[3] 仮登記担保

 仮登記担保は、債権者が自己の金銭債権を担保するために、債務者に債務不履行があった場合には、債務者又は第三者が有する財産の所有権を取得することを目的として代物弁済予約契約や停止条件付代物弁済契約等を締結し、その旨の登記をする担保物権です。

 債権者は、債務不履行があった場合に、その仮登記に基づき本登記をすることにより、その物権の所有権を取得したり、その物権を売却した売却代金から他の債権者に優先して弁済を受けることができます。


[4] 留置権

 留置権は、法定担保物権の一つであり、他人の物を占有している者がその物に関して生じた債権を有している場合に、債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利のことをいいます。その物に生じた債権を有していたとしても、その債権の弁済期がまだ到来していない場合には、債権者は留置権を主張することはできません。


[5] 先取特権

 先取特権は、法定担保物権の一つであり、次の種類の先取特権が法律で定められています。それぞれの行為をした債権者は、法律で定められたそれぞれの財産から優先弁済を受けることができます。

一般の先取特権(債務者の総財産に対する先取特権)
共益の費用・雇用関係
葬式の費用・日用品の供給
動産の先取特権(債務者の特定の動産に対する先取特権)
不動産の賃貸借・旅館の宿泊
旅客又は荷物の運輸
動産の保存
動産の売買
種苗又は肥料の供給
農業の労務
工業の労務 不動産の先取特権(債務者の特定の不動産に対する先取特権)
不動産の保存・不動産の工事
不動産の売買

 

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