目次 III−2


2 売上債権の回収

 企業は、売上債権を回収できなければ、事業を継続することができません。売上債権を回収するためには、取引先の信用状況について日頃から調査し、その取引先について危険な兆候をつかんだ場合は、その取引先と取引を中断することが得策です。

 信用調査の方法としては、さまざまな方法があります。

[1] 商業登記簿の調査
   取引先の資本金や、設立年月日、役員構成などを調査できます。
 また、契約書などを交わす際には、その契約当事者がその会社で実際にその契約締結の権限を有した者かどうかも確認する必要があります。そのためにも、取引に入る前には、相手方の商業登記簿謄本を取得しておく必要があるでしょう。
[2] 不動産登記簿の調査
   取引先の会社の本店等が会社所有不動産である場合には、その不動産の登記簿謄本を取得します。その不動産登記簿謄本からは(根)抵当権設定の有無を確認することができます。その会社がどの程度の借金を抱えているかの判断材料となります。また、どのような金融機関がその企業に融資をしているかを知ることもできます。また、差押えの登記等の処分制限の登記がなされている場合は、その企業は資金繰りにかなり苦労しているものと思われます。そのような企業との取引は極力避けるようにしましょう。
 社長個人の自宅住所がわかる場合は、その不動産登記簿謄本を取得することもよいでしょう。
[3] 帝国データバンク等の利用
   相手方が、帝国データバンク等の企業情報機関に登録されている場合には、その情報を利用するのもよいでしょう。費用がかかりますが、信用性は高いといえます。

 綿密に信用調査をした上で取引を開始しても、多くの取引先の中には、支払期日に支払いをしてくれない取引先はでてきます。支払い期日に支払いがない場合は、まず電話等で支払いの交渉をしましょう。それでも支払いがない場合には、次のような方法で、売上債権の回収を図る必要があります。


[1] 配達証明付内容証明郵便の送付

 電話や訪問で支払いの督促をしていたとしても、実際に督促をしたかどうかの証拠を残すことは難しいものです。売上債権には、時効がありますので、正式に請求をしない期間が長くなればなるほど、時効にかかってしまい、取引先から時効を主張されると、その後に請求する権利を失ってしまいます。そのために、きちんと請求したことを証拠として残しておく必要があります。

 内容証明郵便とは、郵便局に郵便物の内容と郵送した日を残すことができる郵便方法のことです。郵便を出した者にも、その郵便物を送付したことを郵便局が証明したものを残すことができますので、後日、訴訟になった場合は証拠にすることができます。また、配達証明を付けると、相手方にその郵便物が配達されたことを証明したものを郵便局が交付してくれます。相手方に、こちらがきちんと請求している事実が届いていることを証明することは、訴訟になった場合に重要な証拠になります。

 内容証明郵便の法的効果は、民法上の「催告」とされています。催告をした場合は、6か月以内に裁判所に訴訟の申立等をしなければ、時効の進行を止めることができません。内容証明郵便を送付してもなお、支払いをしない取引先には、裁判所に訴訟の申立等をしましょう。

 内容証明郵便は、一般的に当事者の信頼関係を構築し続けることが困難になった場合に送付するものです。内容証明郵便を送付する前には、やはりねばり強く交渉をする必要があるでしょう。内容証明郵便を送付することによって、更に関係が悪化することもありえますので、送付のタイミングは相手方との関係を検討しなければなりません。


[2] 裁判所での即決和解

 相手方が支払うことを約束している場合には、その約束内容を裁判所での即決和解にしておくことをおすすめします。この手続は、相手方の協力がなければすることができません。この即決和解を取得することにより、時効の進行を止めることができます。また、その即決和解調書をもって、強制執行することが可能です。


[3] 裁判所の調停又は少額訴訟

 内容証明郵便を送付しても、何らの対応もしない取引先には、最終手段として裁判所へ申立をします。裁判所の手続は、さまざまな方法がありますが、一般的に売上債権の回収に使われる手続は、次のものです。

民事調停手続
 民事調停手続は、相手方を裁判所に呼び出して、裁判所で支払方法について合意(和解)する手続です。この手続は、相手方が裁判所に出頭しない場合には、意味がありません。
支払督促
 支払督促は、取引先の本店所在地を管轄する簡易裁判所の書記官に申立をします。この支払督促の手続は、裁判所から相手方に支払督促の書面を送付し、相手方から何も異議がなかった場合には、仮執行宣言付支払督促が確定し、その効力は確定判決と同じです。ただし、支払督促が確定したとしても、必ず売上債権を回収できるものではありません。支払督促が確定してもなお、相手方が何も対応してこない場合には、相手方の財産を強制執行する必要があります。
強制執行
 強制執行手続は、執行裁判所に申立をします。強制執行手続の種類としては、差押や、仮差押、処分禁止の仮処分等があります。相手方の銀行口座等の相手方の財産を把握していなければ、強制執行の申立をすることができません。

 

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