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III.売上債権の保全と回収


1 担保・保証

 会社は、日々、さまざまな商取引を行いながら活動しています。その商取引の中で、必ず売上債権が発生し、その債権を回収する必要があります。債権とは、相手方にお金を請求することができる権利のことです。反対に、債務とは相手方にお金を支払わなければならない義務のことをいいます。

 会社が業務を行った対価として請求書を切った後は、売上債権となり、相手方にその金額を請求できる権利を有することになります。売上債権は、売掛金ともいわれます。

 売上債権をきちんと回収することができなければ、会社は自身が支払うべき債務(経費)を支払うことができないため、売上債権の回収は、会社にとって、非常に大切な業務といえます。

 ここでは、売上債権を確実に回収するために必要な知識を説明していきます。


(1) 担保の取得

 あらかじめ取引先が債務不履行に陥った場合に備えて、自身の債権について優先的に弁済を受けるために債務者からあらかじめ提供を受けておくもののことを「担保」といいます。取引先に複数の債権者が存在する場合に、その取引先が倒産状況に陥った場合、担保を有していない債権者は、それぞれ有している債権額に応じて、取引先の財産から平等に回収することになります。これを債権者平等の原則といいます。取引先が倒産状況に陥った場合でも、債権額全額を回収するためには、取引に際して担保を取得しておく必要があります。信用調査の結果、取引の相手方の信用状況に不安がある場合は、特に担保を取得しておく必要性は高いでしょう。

 担保には、次のとおり大きく2種類に分けられます。

人的担保 債務者が弁済しない場合に、債務者以外の者の財産から債務の弁済を受けるために取得するもの
例)保証人、連帯保証人
物的担保 債務者が弁済をしない場合に、特定の財産から債務の弁済を受けるために取得するもの
例)抵当権、留置権、等


[1] 人的担保

 人的担保は、保証人との保証契約によって、取得します。保証人が同意しなければ取得することはできません。取引先と取引基本契約を締結する場合は、その契約自体に保証人をつけておくとよいでしょう。実務では、取引先が会社の場合、保証人は、その会社の社長個人がなる場合が多いようです。

 人的担保としての保証の性質も、大きく次の2種類に分けられます。

通常保証 催告の抗弁権あり
検索の抗弁権あり
分別の利益あり
連帯保証 催告の抗弁権なし
検索の抗弁権なし
分別の利益なし

 通常保証と連帯保証では、「催告の抗弁権」、「検索の抗弁権」及び「分別の利益」の有無で大きく異なります。

 「催告の抗弁権」とは、債権者が保証人に弁済するように請求してきた場合に、保証人は、まずは主たる債務者に請求するように抗弁することができる権利のことをいいます。ただし、主たる債務者が、破産決定を受けていたり、行方不明である場合は、催告の抗弁権を主張することはできません。

 「検索の抗弁権」とは、債権者が保証人から催告の抗弁権を主張され、主たる債務者に弁済の請求をした上でも、なお主たる債務者から弁済を受けることができなかった場合であっても、保証人は主たる債務者に弁済する資力があり、かつその財産の執行が容易であることを証明すれば、債権者に対してまずは主たる債務者の財産を執行するように主張することができる権利のことをいいます。

 催告の抗弁権と検索の抗弁権は、保証人が債権者から請求を受けた場合に、すぐに弁済をする必要がないという保証人の権利を定めたものですから、債権者にとっては、催告の抗弁権や検索の抗弁権がない連帯保証の方が有利になります。

 また、「分別の利益」とは、保証人が複数いる場合に、各保証人は、弁済額を保証人の人数で等分した金額のみを支払う責任を有することをいいます。分別の利益がない連帯保証の場合は、保証人が複数いる場合であっても、各保証人に全額請求することができますので、債権者にとっては、連帯保証の方が有利といえるでしょう。

 連帯保証か通常保証かについては、一般に、連帯保証である旨の特約がなければ、通常保証としての保証契約を締結したことになります。しかし、商取引に関して保証契約を締結する場合は、特約がなくても連帯保証契約を締結したことになります。特約がなくても、連帯保証になる場合は、次のとおりです。

主たる債務が債務者の商行為によって生じたものである場合
保証が商行為である場合


[2] 物的担保

 物的担保は、大きく次の2つに分けられます。

法定担保物権 当事者の合意なく、法律上当然に生じる担保権
例)留置権、先取特権
約定担保物権 当事者の合意によって、その債権の優先弁済を受けるために取得する担保権
例)質権、抵当権、譲渡担保権、所有権留保、仮登記担保

 また、担保権には、原則として次のような性質があります。

優先弁済性 他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けることができる性質
付従性 債権がなければ担保権が成立しない性質
随伴性 債権が移転すると同時に担保権も移転する性質
不可分性 債権全額の弁済を受けるまで、担保物権の全部に対して担保権を行使することができる性質
物上代位性 担保物権が他の権利に代わっても、その代わった物の上にも担保権としての効力が及ぶ性質

 このように、担保権はさまざまな性質を有しており、債権者の権利を保全するために有益なものです。物的担保は、その担保物の価値がなくなりさえしなければ、安全に債権回収を図ることができるでしょう。

 

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