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4 手形・小切手 |
商取引における代金の支払いの際には、現金で支払うのではなく、手形や小切手による決済を利用する場合が多く見られます。それは、手形・小切手による支払いであれば、大きな支払い金額であったとしても、その場に現金を用意することなく1枚の紙で決済することができるからです。ただ、手形や小切手にまつわるトラブルも多く発生しており、利用するにはリスクも伴います。手形、小切手を利用するには、手形、小切手に関する法律に精通する必要があります。 |
(1) 手形 |
手形には、次の2種類があります。
[1] 約束手形 約束手形に記載するべき事項は、次のとおりです。
これらの記載するべき事項が記載されていない約束手形は、次の場合を除いて、無効となります。
約束手形を振り出す行為は、振出人が手形債務を負う法律行為です。振出人は、手形金額の債務を負担し、満期日にその手形金額を支払わなければなりません。 実務では、必ず記載しなければならない事項が記載されていない状態で手形が振り出され、流通している手形があります。これを「白地手形」といいます。白地手形は、振出人と受取人の合意の上で、受取人が白地部分の記載を補充します。補充された記載内容が振出人の意思に反する場合であっても、事情を知らない第三者の手に渡った場合には、その記載事項が無効であることを振出人はその第三者に主張することができません。その第三者から支払呈示を受けた場合は、その手形に基づき支払いをする必要があります。 [2] 裏書 手形に裏書きすることにより、手形の受取人は支払期日前にその手形を現金にすることができます。手形の裏書きは、手形債権の譲渡と同様の効果があります。手形に裏書きをし、手形を譲り渡す者を裏書人といい、裏書きによって手形を譲り受ける者を被裏書人といいます。 i 裏書きの連続 裏書きは、手形に裏書人が記名押印して行います。手形には裏書欄があり、その裏書欄に記名押印しますが、その裏書欄が埋まっている場合は、補箋(ほせん)という手形に貼り付けた用紙に記名押印します。捺印する印鑑は、銀行印である必要はありません。裏書きの記載が連続していなければ、手形の所持人は手形の権利を行使することができません。たとえば、手形の振出人がA、受取人がBとなっている手形に、「B(裏書人)・C(被裏書人)」→「C(裏書人)・D(被裏書人)」と裏書人、被裏書人が連続している手形を受け取った者は、その手形の権利を行使することができますが、裏書人欄に、「B(裏書人)・C(被裏書人)」→「D(裏書人)・E(被裏書人)」と記載している手形を受け取った者は、手形の権利を行使することができません。手形を受け取る際は、裏書人欄が連続しているかどうかを確認する必要があります。 ii 裏書の効力 裏書には、次のような効力があります。
裏書人は、「裏書禁止」の文言を記載することができます。この場合であっても、その被裏書人は裏書により手形を譲渡することができます。裏書禁止の文言を記載した裏書人は、自己が直接裏書きした被裏書人に対しては、その手形に基づく担保責任を負いますが、その被裏書人がさらに裏書きした相手には担保責任を負いません。 手形の所持人は、「回収のため」や「取立のため」「代理のため」だけに裏書きをすることができます。この場合、それらの文言を裏書きに記載しなければなりません。これを、取立委任裏書といいます。実務上多くは、取立委任裏書の被裏書人は、手形の所持人の取引銀行がなります。 [3] 呈示 手形の所持人は、満期日及びその満期日から2日以内に、手形による支払いを受けるために、振出人に手形を呈示しなければなりません。手形による支払いを受けるために、手形を振出人に呈示しなければならない期間を手形呈示期間といいます。実務では、振出人に直接手形を呈示することはほとんど実施されておらず、手形の所持人が自分の取引銀行に手形の取立を委任します。 手形交換所に手形を呈示することにより、振出人に手形を呈示したことと同じ効力を有しますので、手形の取立委任を受けた取引銀行は、その手形を手形交換所に呈示し、振出人から支払いを受けます。
[4] 不渡手形 手形の支払いのために、呈示期間内に手形を呈示したにもかかわらず、支払銀行で支払いを拒絶された手形のことを不渡手形といいます。支払銀行が、手形を不渡手形にする理由(不渡事由)は、次のとおりです。
不渡事由が1号又は2号の場合、支払銀行と持出銀行は、手形交換所にその旨を通知します。この通知を「不渡届」といいます。手形交換所が不渡届を受領すると、不渡手形を出した者の氏名を各銀行に通知します。これを「不渡報告」といいます。2号不渡事由による場合は、振出人は不渡報告を実施しないよう支払銀行に依頼することができます。この依頼を受け、支払銀行は手形交換所へ不渡異議申立を行います。この異議申立を行うには、支払銀行がその手形の支払金額と同額のお金を手形交換所に提供する必要があります(不渡異議申立提供金)ので、手形の振出人はそれと同額のお金を支払銀行に預託しなければなりません。このお金を「異議申立預託金」といいます。異議申立預託金は、不渡事由が偽造や変造の場合には、免除されます。 不渡届が出された者が、その6か月以内に2回目の不渡りを出した場合は、銀行取引停止処分になります。この場合、銀行取引停止処分を受けた者は、2年間、手形交換所に加盟しているすべての銀行と当座勘定取引や貸付取引をすることができません。 不渡事由が0号の場合には、不渡届は出されませんので、銀行取引停止処分の対象になりません。 手形が不渡手形になると、支払銀行はその手形の表面の左上に不渡りになった旨及びその理由を記載した付箋を貼ります。これを「不渡付箋」といいます。支払銀行は、不渡付箋の貼られた不渡手形を持出銀行に返却して、お金(代り金)を返金してもらうことになります。代り金の受領手続きも手形交換システムを利用して実施するのが通常です。 手形が不渡手形となった場合には、手形の所持人は裏書人に対して、手形金の請求をすることができます。この手形の所持人の権利を「遡及権」といいます。手形の所持人が遡及権を行使するための条件は、次のとおりです。
支払拒絶証書とは、手形の所持人が手形の支払を拒絶した場合に、公正証書によりその旨を証明したもののことをいいます。ただし、手形に「拒絶証書不要」との文言が記載されていれば、所持人が支払いを拒絶された場合に、支払拒絶証書を作成しなくても遡及権を行使することができます。現在の実務では、統一手形用紙に「拒絶証書不要」の文言が記載されているので、ほとんど支払拒絶証書は作成されていません。 手形の所持人は、手形が不渡りになった場合には裏書人に対して、不渡りになった旨を通知します。これは、手形の所持人が遡及権を行使し、裏書人に手形金を支払ってもらう用意をしてもらうためです。後に紛争になった場合の証拠にもなりますので、内容証明郵便で通知を送付することをお薦めします。また、裏書人への遡及権は、持出銀行から手形の受け戻した日から6か月以内で時効にかかりますので、早急に対応する必要があります。 [5] 手形割引 手形の所持人は、手形の満期日までに取引銀行などに手形を裏書譲渡し、満期日までの金利等を支払金額から差し引いた金額のお金を受領することができます。これを「手形割引」といいます。これは、手形を所持しているだけでは、満期日まで現金にすることができないため、所持人が早く手形を現金にする必要がある場合に利用されます。 手形割引を銀行に依頼する場合は、銀行とその割引依頼者は、銀行取引約定書を締結します。この約定書に基づき、手形割引をした手形が不渡りになった場合等は、銀行は依頼者に手形を買い戻すよう請求することができます。これを割引手形の買戻請求権といいます。 [6] 手形延期 手形の振出人が手形の支払期日にその支払いのためのお金を用意できない場合に、その手形の所持人が手形の支払期日の延期を認めることを手形延期といいます。実務では、「手形のジャンプ」といわれています。また、手形延期をした手形のことを「延期手形」といいます。 手形の所持人は、手形の振出人から手形のジャンプを依頼されても、それに応じる義務はありません。手形の振出人は資金繰りに苦慮しているからこそ手形のジャンプを依頼してくるのですから、手形をジャンプした後に支払いを受けることができる可能性はきわめて低いといえます。余程のことがない限り、手形のジャンプには応じないほうがよいでしょう。 [7] 手形の紛失 手形を紛失した場合は、次のとおりの処理をする必要があります。
何らの処理をしない間に、紛失した手形が何も事情を知らない第三者の手に渡ると、振出人はその第三者に支払う義務がありますので、手形を紛失したことが判明した場合には、早急に対応する必要があります。 公示催告の申立をし、裁判所から除権判決を取得すると、その手形は無効になります。 |