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(5) 取締役会の実務

[1] 取締役会での決議事項

 取締役会は、取締役全員で構成される機関であり、業務執行についての意思決定をし、取締役の業務の監督をします。すべての業務に関して取締役会で意思決定を行うとなると、やはり会議を開くまでに時間がかかり、迅速な業務執行ができない可能性があるので、一定の業務に関しては、取締役会は、代表取締役や業務執行取締役に意思決定を委任することができるとされています。業務執行取締役とは、取締役会の決議によって、業務を執行する取締役として選定された取締役のことをいいます。

 実務上の運営で、意思決定を委任することが可能とされている一方で、重要な事項については、必ず取締役会で意思決定を行うものと法定されています。

 取締役会で意思決定しなければならない事項として法定されている事項は、次のとおりです。

ア) 重要な財産の処分及び譲り受け
イ) 多額の借財
ウ) 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
エ) 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
オ) 社債を引き受ける者の募集に関する重要事項として法務省令で定める事項
カ) 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適性を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
キ) 役員等の責任の一部免除に関する事項
ク) 譲渡制限株式の譲渡による取得を承認するか否かの決定、承認しない場合の指定買取人の決定
ケ) 子会社からの自己株式取得
コ) 株主からの株主総会招集請求に基づく裁判所の許可を得てする株主による株主総会の招集を除く、株主総会招集の決定
サ) 代表取締役の選定及び解職
シ) 取締役の競業避止義務又は利益相反取引の承認
ス) 計算書類等の承認

 取締役会で意思決定しなければならない「重要な財産」や「多額の借財」の判断基準については、一律の基準はありません。その会社規模にとって、「重要な財産」や「多額の借財」であるかどうかを合理的に判断する必要があります。

 また、カ)に記載している事項は、一般に「内部統制システム」と呼ばれています。大会社ではない株式会社では、この内部統制システムを整備する義務はありません。大会社であり、かつ取締役会設置会社は、内部統制システムを整備する義務が課せられています。

 取締役会は、実際に会議を開くことを重視しますが、一部の取締役が遠方に存在する場合等にも機動的な意思決定をする必要があることから、定款で定めることにより、書面による決議をすることもできます。


[2] 取締役会の運営

 取締役会は各取締役が招集します。ただし、定款や取締役会で取締役会を招集する取締役を定めることができます。多くの会社では、定款で代表取締役を取締役会の招集権者として定めています。この場合であっても、他の取締役はその招集権者に会議の目的事項を示して、取締役会の招集を請求することができます。また、株主は、取締役がその会社の目的の範囲外の行為や、法令もしくは定款に違反する行為をしていたり、それらの行為をするおそれがあると判断したときは、取締役会の招集の請求をすることができます。この場合、その株主は、取締役会の目的である事項を示さなければなりません。

 監査役も取締役会に出席し、意見を述べる必要があると認めるときは、取締役会の招集を請求することができます。これは、監査役の取締役に対する監査を実効性あるものにするために認められた権利です。

 定款等で定められた取締役会招集権者以外の取締役や監査役・株主が、取締役会の招集を請求した場合にも、その請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集通知が発せられない場合には、その請求をした取締役又は監査役、株主は、取締役会を招集することができます。

 取締役会の招集通知は、書面でする必要はありません。口頭や電子メール等適宜の方法ですることができます。

 取締役会は、取締役の招集権者が、取締役会の日の1週間前までに各取締役(業務監査権限を有する監査役がいる場合には、監査役も含む)に対して招集通知を発します。1週間より下回る期間を定款で定めることにより、招集期間を短くすることもできます。また、取締役全員の同意がある場合は、招集の手続きを経ることなく取締役会を開催することができます。

 取締役会の決議は、取締役1人につき1つの議決権を有します。その決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(定款で、これを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)が出席し、その過半数(定款でこれを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)の同意をもって行います。

 特別の利害関係を有する取締役は、その議題の議決に加わることはできません。これは、取締役は会社の利益のために自らの議決権を行使するべき役割を担っている機関であるため、自己の利害関係に関する事項について自らの利益のために議決権を行使することは認められないためです。特別利害関係取締役として議決に加わることができない取締役とは、たとえば、競業取引や利益相反取引の承認決議における、その承認を受ける取締役を指します。

 取締役会では、議決権の行使につき、代理人による議決権の行使を行うことができません。取締役は、それぞれの個人の能力等により選任されていますから、代理人によって代替することはできません。取締役の議決権は、株主から信頼された能力をもったその者自身が行使する必要があるのです。


[3] 取締役会議事録

 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければなりません。議事録が書面で作成されているときは、その取締役会に出席した取締役及び監査役は、その議事録に署名又は記名押印しなければなりません。

 なお、議事録の作成については、会社法施行規則第101条に定められています。


★取締役会議事録(ひな形)★
取締役会議事録

平成○年○月○日午前10時00分、当社本店会議室において、取締役会を開催した。

 取締役総数 3名   出席取締役数  3名
 議長 代表取締役 ○○○○

 上記のとおりの出席があったので、代表取締役○○○○は議長席に着き、開会を宣し、議事に入った。


議案1 代表取締役選定の件
 議長は、本日開催された定時株主総会の終結をもって代表取締役○○○○が、取締役として任期満了し、代表取締役の資格を喪失したので、代表取締役1名を選定する必要がある旨を述べ、その代表取締役候補者として、次の者を挙げ、審議を求めた。慎重審議の後、議長は本議案の賛否を会場に諮り、取締役会は全員異議なく、原案どおりこれを承認可決した。
 なお、被選任者は、その就任を承諾した。


         大阪市○○区○○1丁目1番1号
         代表取締役 ○○○○


(途中、省略)


 以上をもって本総会の議事を終了したので、議長は閉会を宣した。時に午前11時00分 であった。

 上記決議の経過とその結果を明確にするため議事録を作成し、出席取締役が次に記名押印する


 平成○年○月○日

  株式会社 ○×商事 取締役会

    議長 代表取締役    ○  ○  ○  ○     (会社実印)

       取 締 役    △  △  △  △     (個人印)

       取 締 役    □  □  □  □     (個人印)
 

 

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