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(4) 定時株主総会開催の実務

[1] 定時株主総会開催スケジュール

 株式会社は、毎事業年度の終了後一定の時期に、定時株主総会を開催しなければなりません。また、必要がある場合には、いつでも株主総会を開催することができます。定時株主総会以外の株主総会は、臨時株主総会といいます。

 i 基準日の確定

 株主総会を開催する場合は、その権利を行使することができる株主を確定するために、「基準日」を定める必要があります。基準日とは、その日に株主名簿に記載されている株主を権利行使することができる者と定める制度のことをいい、その効力は、その権利を行使することができる日から3か月以内に定めなければならないとされています。一般に、定時株主総会において権利を行使できる株主を確定するための基準日は定款で定めており、事業年度末日を基準日としています。したがって、会社法上、定時株主総会は、基準日から3か月以内に開催しなければなりません。ただし、会計監査人の監査を受ける必要のない会社は、法人税の確定申告書提出期限の関係で、2か月以内に定時株主総会を開催します。

 ii 計算書類の作成等

 会社は事業年度終了後、計算書類等を作成しなければなりません。作成すべき計算書類等は、次のものです。

貸借対照表
損益計算書
株主資本等変動計算書・個別注記表
事業報告書ならびにそれらの附属書類

 これらの計算書類等に関しては、監査役設置会社においては、監査役の監査を受けなければなりません。

 監査役は、取締役に対して、次のいずれか遅い日までに計算書類及びその附属明細書に関する監査報告の内容を通知しなければならないものとされています。

計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日
計算書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日
取締役と合意した日

 監査役から監査報告を取締役が受けた後、取締役会設置会社では、その計算書類等を取締役会で承認する手続をとります。

 旧商法施行時は、取締役会で承認した計算書類を監査役に提出する必要がありましたので、会社法施行により手続の順序が変更されていることに注意が必要です。

 取締役会の承認を受けた計算書類等は、定時株主総会の日の2週間前までに、本店に備え置かなければなりません。したがって、定時株主総会の2週間前までには、取締役会で計算書類の承認を受ける必要があります。ただし、取締役会を設置していない会社では、計算書類等を定時株主総会の1週間前までに本店に備え置けばよいこととされています。また、監査役を設置していない会社においては、監査役の監査の手続も要しないことになりますので、定時株主総会の1週間前までに会社内部で計算書類等を確定しておけばよいでしょう。

 iii 定時株主総会の招集通知

 定時株主総会を開催するには取締役会で招集を決定し、定款で定めた株主総会招集権者が招集をしなければなりません。

 招集通知は、原則、定時株主総会開催日の2週間前に各株主に発しなければならないとされています。ただし、非公開会社は、1週間前に発すればよいものとされています。また、非公開会社で取締役会を設置していない会社では、株主総会招集通知を発する日を定款で1週間より短い期間を定めることもでき、その場合は、その定款で定めた期間前に招集通知を発すればよいでしょう。

 なお、招集通知は、原則、書面で送付するものとされていますが、取締役会を設置していない会社では、書面又は電磁的方法による議決権行使を認めた場合を除き、書面で送付することが義務付けられておらず、適宜の方法にて招集することができます。

 また、株主全員の同意がある場合は、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができます。


「定時株主総会開催スケジュール案」(非公開会社・取締役会設置会社・監査役設置会社)

3月31日

4月10日

4月11日




5月11日

5月11日



同日

同日


5月28日
 事業年度末日(基準日)

 計算書類等の作成

 監査役へ計算書類の提出




 監査役から監査報告の通知を受ける

 取締役会で計算書類の承認

 本店に計算書類の備置き

  株主総会招集決定

  株主総会招集通知発送


 定時株主総会開催日

「株主総会招集通知への記載事項」
 (会社法第298条)
[1] 株主総会の日時・場所
[2] 株主総会の目的である事項
[3]  株主総会に出席しない株主が書面又は電磁的方法によって議決権を行使することができる場合は、その旨
[4] その他


[2] 報告・決議事項

 取締役は、定時株主総会に計算書類及び事業報告を提供しなければなりません。そして、それらの計算書類は、定時株主総会で承認を受け、事業報告の内容を取締役は定時株主総会で報告する必要があります。

 なお、定時株主総会の招集通知は計算書類や事業報告を添付し、各株主に送付します。取締役会を設置していない会社においては、これらの書類を招集通知に添付する必要はありません。

 また、定時株主総会で決議されることが多い議題としては、次のようなものがあります。

取締役・監査役の選任
取締役・監査役の報酬等の改訂
剰余金の配当

 i 株主総会の決議の種類

 株主総会は、会社の最高意思決定機関です。その意思決定の方法は多数決によりますが、決議する内容によりその多数決の要件が異なります。これは、会社に大きな影響を与える事項については、より多くの株主が同意しなければ意思決定することができないようにするためです。

 決議には、次のものがあります。

普通決議
特別決議
特殊決議

〈普通決議〉

 普通決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、その出席株主の議決権の過半数をもって決します。特別決議や特殊決議で決議すべき事項とされている以外のものすべては、普通決議で決します。普通決議は、定款で定足数を排除することができますが、取締役や監査役の選任決議については、定款で定めても定足数を排除することができず、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合は、その割合以上)を有する株主が出席し、その出席した株主の議決権の過半数(定款でそれを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)で決議します。

〈特別決議〉

 特別決議は、株主総会の議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合は、その割合以上)を有する株主が出席し、その出席した株主の議決権の3分の2以上(定款でそれを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)で決します。

 特別決議で決議する事項として定められている事項は、次のようなものです。

株式譲渡の不承認の際の株式買取や、指定買取人の買取
特定人からの自己株式の取得
全部取得条項付株式の取得、相続人等に対する売渡請求
株式併合
株式募集事項の決定、その委任、株主割当、譲渡制限株式の割当
新株予約権の募集事項の決定、その決定の委任、新株予約権の割当
取締役の任務懈怠責任の一部免除
資本金の額の減少
現物配当
定款変更、事業譲渡、解散
組織変更、組織再編

〈特殊決議〉

 特殊決議は、株主総会の議決権を行使することができる株主の半数以上(定款でそれを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)であって、かつ株主の議決権の3分の2以上(定款でそれを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)で決します。

 特殊決議で決議する事項として定められている事項は、次のようなものです。

全部の株式の株式譲渡制限を設置する定款変更
吸収合併で、公開会社である消滅株式会社の株主に、譲渡制限株式が交付される場合の合併契約書等の承認
新設合併で、公開会社である合併や株式移転をする株式会社の株主に譲渡制限株式が交付される場合の合併契約書等の承認

 ii 株主総会の決議の省略

 取締役や株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合に、その提案事項について、議決権を行使することができる株主の全員が、書面又は電磁的記録によって同意の意思表示をした場合は、その提案事項について可決した旨の株主総会の決議があったものとみなされます。この場合、それらの書面又は電磁的記録が、株主総会議事録と同様の効果を有しており、会社はそれらの書面を、決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置かなければなりません。

 この手続は、実際に株主総会を開催せずに株主総会決議があったものとみなされますので、株主総会招集の手続は必要ありません。

 iii 株主総会への報告の省略

 取締役が株主全員に、株主総会に報告すべき事項を通知した場合に、その通知された事項に関して株主総会で報告することは不要であると株主全員が書面又は電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その通知事項に関して株主総会に報告があったものとみなされます。

 iv 議決権行使

 株主は、株主総会で自分の意見の表明をすることができ、それは、議決権の行使という形で行います。原則として、株主は、1株につき1個の議決権を有しています。単元株式数を定めている場合は、1単元の株式につき1個の議決権を有し、単元未満数に満たない株式数を有している株主は、議決権を行使することができません。

 また、次の株式に関しては、議決権を行使することができません。

議決権制限株式
自己株式
相互保有株式

 v 議決権の代理行使

 議決権は、代理人によって行使することができます。この場合、株主又は代理人は、代理権を証明する書面を会社に提出しなければなりません。この代理権を証する書面は、株主総会ごとに提出しなければなりません。会社側は、株主総会に出席する代理人の数を制限することが認められています。また、定款で代理人を株主に限定することも、一定の範囲で認められています。

 法律が、議決権の代理行使を認めているのは、株主が議決権を行使しやすくするために認めているものですので、この代理行使の権利全てを株主から奪うことはできません。


[3] 株主総会議事録の作成

 株主総会の議事については、議事録を作成しなければなりません。

 株主総会議事録には、次の事項を記載します。

ア) 総会の開催日時、開催場所(当該場所に存在しない取締役、株主などが総会に出席した場合には、その出席方法)
イ) 議事の経過の要領及びその結果
ウ) 一定の規定に※よって述べられた意見または発言があるときは、その概要
  ※「一定の規定」とは
会計参与の辞任の旨及びその理由
会計参与が計算書類を取締役とともに作成した場合に、その作成に関する事項について、取締役と意見を異にする場合のその意見
会計参与の報酬等に関する意見
取締役が株主総会に提出した書類等に関する監査役の調査により法令等の違反があった場合の監査役の報告
監査役の報酬等に関する意見
取締役が株主総会に提出する会計に関する議案などを監査役が調査した調査結果
会計書類が法令等に適合するかについて、会計監査人が監査役と意見を異にする場合のその意見
定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があった場合における会計監査人の意見
エ) 総会に出席した取締役等の氏名又は名称
オ) 議長の氏名
カ) 議事録作成の職務を行った取締役の氏名
キ) 総会決議が省略された場合の一定の事項
ク) 総会への報告が省略される場合の一定の事項

 株主総会議事録は、会社法上、取締役が署名又は記名押印することが要求されていません。これは、株主総会議事録は、単なる事実の記録という意味があるにすぎず、取締役の記名押印を要求する理由が乏しいためとされています。議事録には、議事録作成の職務を行った取締役の氏名を記載することとされていますが、その取締役も記名押印する必要はありません。ただ、会社にとって株主総会議事録は重要書類ですので、責任をもって作成されたものであることを証明するため、議事録作成取締役として代表取締役が会社実印にて記名押印したものを作成し、会社に保管しておくことをおすすめします。

 株主総会議事録は、株主総会の決議があったものとみなされる場合や、取締役が株主総会に報告すべき事項を通知した場合にも、作成する必要があります。

 このように作成された株主総会議事録は、本店に原本を10年間、支店にその写しを5年間備え置く必要があります。これらの議事録は、会社の営業時間内であれば、株主や債権者は閲覧や謄写を請求することができます。


★定時株主総会議事録(ひな形)★
定時株主総会議事録

平成○年○月○○日午前10時00分、当社本店会議室において、定時株主総会を開催した。

 発行済株式の総数
 議決権を行使することができる株主の総数
 議決権を行使することができる株主の議決権の数
 議決権を行使することができる出席株主数(委任状によるものを含む)
 この議決権の数(委任状によるものを含む)
200株
2名
 200個
2名
200個
 株主総会に出席した取締役
 議長
  ○○○○、△△△△、□□□□
  代表取締役 ○○○○
 議事録作成に係る職務を行った取締役  代表取締役 ○○○○


議事の経過の要領及びその結果

 上記のとおり、出席株主数及びその議決権数並びに出席役員を報告して、本総会の付議議案の決議に必要な定足数を充足したので、取締役 ○○○○は、定刻議長席につき 、開会を宣言するとともに直ちに議案の審議に入った。

 議案1 決算報告承認の件
 議長は、事業報告の内容を詳細に報告し、当期(平成○年○月○日から平成○年○月○日まで)の決算に関する次の書類について説明したのち、監査役の報告を求めた。監査役×××× は、次の書類を綿密に調査したところ、いずれも正確かつ適法であることを認めた旨を報告した。
 議長が第1号議案について審議を求めたところ、別段の異議なく満場一致をもってこれに賛成した。よって、議長は、第1号議案は原案のとおり承認可決された旨を宣した。
1. 貸借対照表 2.損益計算書 3.株主資本等変動計算書 4.個別注記表
(途中、省略)

 以上をもって本総会の議事を終了したので、議長は閉会を宣した。時に午前11時00分 であった。
 上記決議の経過とその結果を明確にするため議事録を作成し、議長及び議事録作成取締役において記名押印する
 平成○年○月○日
  株式会社 ○×商事 定時株主総会

     議長 代表取締役    ○  ○  ○  ○     (会社実印)
    (議事録作成取締役)
 
※印鑑を捺印することは法定の義務ではない。

 

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