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(3) 株式会社における機関 |
株式会社は、(2)の[2]で述べた4つの分類によって、設置しなければならない機関が法定されており、それらの機関は、それぞれ個別の役割が定められています。 [1] 株主総会 i 株主総会の性格 株主総会とは、会社の株主を構成員とする会議のことを指します。株式会社である限り、株主総会はどの会社にも設置が義務付けられている機関であり、会社の最高意思決定機関といえます。 株主は、出資した金額(引受価額)を限度として責任を有するものとされ、会社に対して無限に責任を負うものではありません。また、株主は、ア)剰余金の配当を受ける権利 イ)残余財産の分配を受ける権利 ウ)株主総会の議決権 の権利のみを有するものとされ、会社の行為により利益が出た金銭等の分配を受ける権利の他は、株主総会で自らの意思を表明する権利が定められているのみです。 株主は、自らの上記 ア)、イ)の権利を享受できるよう株主総会で会社の意思を決定する権利を有するのみで、会社の業務を執行することはできません。会社の業務執行は別の機関である取締役等に委ねられます。株主総会での意思決定が会社の最高意思決定とされており、その意思決定に基づき取締役等により業務執行がなされることから、会社の実権は株主が有するものとされ、会社は株主のものといえます。 ii 決議事項 株主総会で意思決定できる事項(決議できる事項)は法定されています。会社が取締役会を設置しているか否かで、その決議できる事項が相違することに注意が必要です。 取締役会を設置してない場合に株主総会で決議する事項とされているものは、次のとおりです。
取締役会を設置していない会社においては、会社に関わるすべての事項を株主総会で決定することができます。 取締役会を設置している場合、株主総会で決議する事項とされているものは、次のとおりです。
株主総会で決議する事項として、会社法で定められている事項は、主に以下のようなものがあります。
以上のとおり、会社の根本に関する事項は、すべて株主総会で決議する事項とされており、株主総会は最高意思決定機関といえます。 [2] 取締役 株主総会で選任され、株式会社から会社の業務執行を委任されたものを「取締役」といいます。原則、取締役は株主総会の意思決定に基づき会社の業務を執行する役割を担っています。 i 員数 株式会社は、1名又は2人以上の取締役を設置しなければなりません。 ii 権限 取締役が1名の場合は、その者が業務の執行をすることになります。取締役が2名以上いる場合(取締役会を設置している場合を除く)は、定款に別段の定めをしている場合を除いて、取締役の過半数で業務の執行をします。また、この場合、次の事項等については取締役1人で決定することができません。
iii 資格要件 取締役には資格要件があります。取締役候補者が次の要件に該当する場合は、取締役になることができません。
非公開会社の場合は、取締役を株主に限ることもできますが、その場合は、定款で定めることが必要です。 iv 任期 取締役には、任期があります。原則は、選任されてから2年以内に終了する事業年度の最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています。非公開会社の場合は、定款で、10年までその任期を伸長することができます。取締役の任期を10年に伸長すると登記の手間が省ける反面、取締役解任時に残りの任期の役員報酬を損害賠償として請求される可能性があります。公開会社、非公開会社にかかわらず、定款で定めることにより会社法で定められた任期より取締役の任期を短縮することはできます。 委員会設置会社の場合は、取締役の任期は1年です。 v 法律上の地位 取締役と会社は、民法上の委任の関係にありますから、取締役は会社に対して善管注意義務を負います。取締役は、会社に対して、善良な管理者としての注意をもって職務を遂行する義務を負っているのです。また、会社法においても「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」とされ、会社に対して忠実義務を負うことが明記されています。これに伴い、取締役は、さまざまな制限を受けています。 vi 取締役の責任 以下の取引を行う場合は、取締役会(取締役会を設置していない会社においては、株主総会)の承認を受けなければなりません。
以上の取引について、株式会社の承認を得ることなく取締役が取引を実施した場合は、取締役は会社に対してその取引を実施したことによって生じた会社に対する損害を賠償する責任を負います。 職務を執行するに際して、取締役の故意又は重大な過失によって第三者に損害を与えた場合は、その取締役は、第三者に対して損害を賠償する責任を負っています。 さらに、取締役は株主総会で選任されますから、株主に対しても責任を負います。取締役は、会社に対して著しい損害を及ぼすおそれがある事実があることを発見したときは、すぐに株主(監査役を設置している場合は、監査役)に報告しなければなりません。 このように、取締役はさまざまな責任を負いますから、会社の業務に関する法令や会計等にも精通しておく必要があります。取締役候補者は、会社の事業に関する知識以外も精通しなければならない役職であることを理解した上で、取締役の就任を承諾する必要があるでしょう。会社のコンプライアンスが重要視され、中小企業も遵守しやすいよう会社法も施行されましたので、従来に増して、取締役の法令遵守に関する責任は、裁判例上も重くなっていくものと思われます。 vii 報酬 取締役の報酬、賞与等の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(以下、「報酬等」という。)については、定款又は株主総会の決議によって、次の事項を定めます。
[3] 代表取締役 会社を代表する取締役のことを、「代表取締役」といいます。 取締役会が設置されていない場合、原則として、取締役各自が会社の代表権を有するものとされており、取締役各自が会社を代表します。定款で定めることにより、取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができます。その場合は、その互選又は株主総会によって選任された者が代表取締役となり、他の取締役は代表権を有しません。 取締役会が設置されている場合は、取締役会の決議で、代表取締役を必ず選定しなければなりません。その場合、代表取締役以外の取締役は代表権を有しません。 [4] 取締役会 株主総会は定款で定めることにより「取締役会」を設置することができます。なお、公開会社は取締役会を設置しなければなりません。 取締役会は、すべての取締役で構成する組織で、主に会社の業務執行に関する意思決定をします。取締役会は、あくまで具体的な会社の業務に関して意思決定をするのみであり、取締役会で意思決定された事項に基づき、代表取締役が実際の業務を執行します。 i 権限 取締役会の職務として法定されている事項は、次のとおりです。
以上のとおり、取締役会は、会社の運営をどのようにしていくのかの意思決定を行い、その意思決定に基づき業務を執行する代表取締役を選定したり、その者が適任でないと判断し解職したりします。また、各取締役が取締役としての職務を適切に実施しているかどうかを監督する権限を有しています。 また、その取締役会を構成する各取締役を選任する機関は株主総会ですので、会社の運営をどのようにするかの意思決定する人材は、株主が選ぶことになっており、そこで、株主総会が最高意思決定機関といわれています。 なお、旧商法施行時代に設立された株式会社は、取締役会設置会社とする定款の定めを廃止しない限り、取締役会設置会社とされています。また、特例有限会社は、定款を変更しても、取締役会を設置することはできません。 [5] 監査役 監査役は取締役と同様、株主総会で選任されます。取締役会を設置している会社は、必ず監査役を設置しなければなりません。ただし、公開会社以外の会社でかつ会計参与を設置している会社は、取締役会を設置している場合であっても、監査役を設置する必要はありません。 i 資格条件 監査役は取締役と同様の資格要件があります。それに加えて、監査役は、その会社や、その会社の子会社の取締役、支配人、その他使用人等の役職と兼任することはできません。 ii 任期 監査役には任期があります。原則は、選任されてから4年以内に終了する事業年度の最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています。非公開会社の場合は、定款で、その任期を伸長することができますが、その場合であっても、選任後10年以内に終了する事業年度の最終のものに関する定時株主総会以上に長い任期を定めることはできません。 iii 業務監査・会計監査 監査役の役割は原則、取締役の職務の執行を監査することです。ただし、非公開会社に限り、定款で定めることにより、監査役の役割を取締役の職務のうち会計に関する事項に関する監査のみと定めることができます。通常、取締役の職務全般の監査を「業務監査」、取締役の職務のうち会計に関する事項についてのみの監査を「会計監査」と呼んでいます。業務監査の内容は、取締役の職務の執行が、法令や定款に違反していないかどうかを調査し、その調査内容を監査報告書として作成することです。会計監査の内容は、計算書類等が法令及び定款に従って会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているかどうかを調査して監査報告書を作成することです。 また、業務監査権限を有する監査役は、次のような権限や義務を有すると定められています。
旧商法施行時に設立された株式会社のうち、非公開会社の監査役は、定款変更をしない限り、会計監査権限のみを有する監査役とされています。 iv 報酬 監査役の報酬等は、定款又は株主総会で定めます。監査役が2人以上いる場合は、監査役全員として受ける報酬額を定款又は株主総会の決議で定めればよく、各監査役の報酬等は、その定められた報酬額の範囲内で、監査役の協議で定めます。 [6] 会計参与 会計参与は、取締役とともに計算書類等を作成し、会計参与報告書を作成する責任を負います。会計参与も、取締役と同様に株主総会で選任され、任期も取締役と同様です。 会計参与は、取締役の資格制限に加えて、公認会計士又は監査法人、税理士、税理士法人でなければ、選任することができません。会計参与の報酬等も定款又は株主総会の決議で定めることとされています。 [7] 監査役会 公開会社でかつ大会社(委員会設置会社を除く)は、監査役会を設置しなければなりません。監査役会設置会社は、監査役を3人以上選任する必要があり、またそのうち半数以上は、社外監査役でなければなりません。 [8] 会計監査人 会計監査人を設置しなければならない会社は、次のとおりです。
会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければなりません。また、会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までとされていますが、その定時総会において別段の決議がされない場合は、その総会において再任されたものとみなされます。 会計監査人は、計算書類等を監査し、会計監査報告を作成します。会計監査権限のみの監査役と同様の役割を有するものとされています。 |
◎株式譲渡制限のある中小会社で採用可能な機関設計
◎株式譲渡制限のある大会社で採用可能な機関設計
◎公開会社である中小会社で採用可能な機関設計
◎公開会社のある大会社で採用可能な機関設計
◎委員会設置会社で採用可能な機関設計
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