目次 事例4


事例4 病気により、被相続人の行為能力が認められないケース

 Dさんは長年商社マンとしてサラリーマン人生を送り、その間息子2人の将来のためと思い、横浜の郊外で分譲住宅地を早くから数か所保有していました。Dさんは商社マンの派手な生活態度が抜けきらず、子供達の不動産を確保した後は、預貯金を残すことにはあまり関心がありませんでした。

 また、妻も夫同様、今現在の生活を大いに楽しむタイプだったので、当然ながら生活費もかさみ、それほど多くない貯金も自然と枯渇していくことになりました。息子たちはそれぞれ独立して暮らしていましたが、幸いにして親の用意した土地は当てにせず、自らの力で自宅を購入していたので、Dさんは夫婦の生活費の工面のため、息子のために用意した遊休地を一つ売り、二つ売る状態でした。

 そんな時、Dさんの体調が悪くなり入院することになりました。

 またまたお金が必要となり、残り最後の遊休地を売却しないといけない状態でした。ところが病状が「認知症」で、それも検査の結果、医者の診断は「重度」ということになりました。

 当然のことながら法的な行為能力は認められず、今ひとつの遊休地を処分することも不可能となりました。不動産仲介会社の担当者とも何か良い方法がないかと検討しましたが、取引決済手続きには司法書士等による本人確認が必至で、今の状態ではとても不動産の処分は無理との結論でした。

 そこでやむを得ず長男を成年後見人として家庭裁判所に申し立て、その審判を待ち、審判が下され次第売却取引する運びとなりました。

 しかしながらすぐには審判が出ず、その間も本人の容態が悪くなる一方で、とうとう審判を待つことなく亡くなってしまいました。あわてて家庭裁判所へ申し立ての取り下げ届出を行ったことはいうまでもありません。

 葬儀費用や目先の生活費用等が必要なこともあり、とりあえず当該物件だけの遺産分割協議を整え、妻が相続のうえ売却することとなりましたが、病人を抱えた中でのその間の手続きの煩雑さ、また相続手続きと併行した売却手続き等の精神的な負担を考えれば、日頃からの資産の保有状態のチェックがいかに大切かがおわかりになると思います。


問題点

 保有資産にあわせた生活レベルの構築が肝心でした。特に夫婦ともに浪費家は最悪です。また高齢者のリスクとして、「認知症」の発生に伴い法的な行為が不可となり、緊急な対応ができなくなることが考えられます。事前の準備を怠ると、限りなく手続きが煩雑となる事例です。

ワンポイント解説

 「認知症」の介護問題とともに、その人の金銭面等の法的な行為能力が不可となり、速やかな成年後見人届出が必要となります。現状、弁護士等専門家に依頼すると多額の費用が必要となり、わが国においては一般的には7割以上身内がその役割を果たしています。今後国の費用面での支援等により、信託銀行等の信頼の置ける専門機関の取り扱いが必要不可欠と思われます。

成功・失敗理由

 今後より一層、本人確認作業、個人情報の規則が厳しくなり、身内であってもスムーズな手続きができなくなる時代です。したがって余裕を見た手続き準備を常に心がけ、いざというときにあわてない体制をとっておく必要があります。本件の場合も本人の病状の進行具合により、早い後見人の選任届出をすべきだったのです。

 

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