目次 事例3


事例3 預金の大半が外貨預金のケース

 Cさんの父親は、戦後兄弟3人で建築関係の事業を始め、戦後の日本の復興とともにその事業は大きく拡大し、東京を中心に全国展開の会社となりました。

 数年前Cさんの父親は高齢につき会長に退き、社長の役席をCさんに託しました。また税務対策として、会長固有の子会社も設立していましたが、その株式は当然会長が大半保有している状態でした。

 その他会長は、保有資産の中で不動産も確保し、金融資産も含めたそのバランス状態はまずまずのものでした。

 会長は大変勉強家で、資産運用についてもいろいろな専門家から情報収集を図り、年配者にありがちな保守的な考え方をせず、早い段階から外国金融機関とも付き合いを深め、インターナショナルの運用を行っていました。

 そんな時に相続が起こったのです。

 「相続財産総額100億円。相続税の総額50億円弱。法定相続人3人。」仮に法定相続分どおりに遺産分割をして、配偶者に対する相続税額の軽減措置を行ったとしても、納税金額は25億円弱となります。

 相続財産総額の内容を見ると、半分は不動産と自社株式、あとの半分は外国投資信託等の運用商品と、定期性預金のうち米ドル・ユーロ等の外貨建て預金が大半でした。

 不動産は売却する意思がなく、ましてオーナー株式は経営権の問題で換金ができません。そこで25億円の納税のために、外貨定期預金を解約して充当することになりました。

 しかしながら困った状態となりました。会長が亡くなった時のドル相場は1ドル120円で相続税評価額が決まりましたが、Cさんが納税のため外貨定期預金を解約しようと思い相場を調べてみると、1ドル119円と円高になっていました。

 「たかが1円高くなっただけじゃないか」と思うかもしれませんが、事実は違ってきます。

 2,000万米ドル×120円=24億円
 2,000万米ドル×119円=23億8,000万円

 差し引き2,000万円の為替差損が発生します。

 納税金額は24億円で財産評価しているのに、手元には2,000万円少なくなるのです。

 納期限直前まで相場待ちして、もっと円高になれば為替差損は益々大きくなり、納税にも影響をきたさないとも限りません(もっとも、その逆の可能性もありますが…)。

 本件のような事例は一般的でなく、あまり関係ないと思わないでください。財産額が少なければ少ないだけ、その為替差損の影響は少なくありません。

 やはり金融資産を持っていても円貨とのバランスが必要なのです。納税は外貨では受け取ってくれません。

 Cさんはどうなったのでしょうか? やはりある程度まで円安待ちをしていましたが、相場だけははっきりとしたことは誰もいえません。そこそこの差損で決断され、換金をされました。


問題点

 外貨預金の換金時期のタイミングが悪く、邦貨の少額保有が納税に影響しました。外貨と邦貨保有のバランスが大事です。

ワンポイント解説

 当時は短期的には円高基調の時代であり、納税資金調達のためには、速やかな換金が妥当でした。相続税の納税期限は10か月先であり、その間の為替相場を予測することは非常に困難です。しかしながら納税者は、先の為替相場について、ともすれば自分に都合よく楽観的に考えるものであり、損切りであってもいかに割り切るかが、結果的に被害を最小にとどめるものと思われます。

成功・失敗理由

 このように、株式、投資信託、外貨等、相場に絡む商品は、相続開始後においても価格変動し、結果的に被相続人の死亡後も相場の勝ち負けの事態が続くのが現実です。よって、ここでも保有商品のバランスが大切となってくるのです。特に本件のようなオーナー株式売却に制限があるような場合は、納税資金の事前準備が重要なのです。

 

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