目次 事例1


 第 I 章  「資産形成事例・相続事例」から見た現状の問題点と
 これからの資産形成について


第1節 22の事例とその問題点

 今から一気に22の「資産の形成事例と相続事例」を掲げ、その中から問題点と失敗・成功の要因を引き出し、次への分析課題へとつなげていくことにします。


事例1 資産のほとんどが不動産のケース

 Aさんは先祖代々京都市内の地主の旧家に生まれ、Aさんのお父さんは物わかりの良い、面倒見の良い家主さん、地主さんとして借家人、借地人から頼られ有難がられていた存在でした。

 一方Aさんは、将来的には長男として家の面倒を見なければならないと自覚していましたが、大学を卒業してから大手企業に入り、正に企業戦士として活躍していました。

 そんなある日、お父さんが突然亡くなり、それからAさんの相続税との戦いの日々が始まったのでした。Aさんのお父さんは、あまりお金儲けに頓着がなく、ただ先祖から引き継いだ不動産をひたすら維持し、その収益で生計を営んでいました。当然、借家人達とも古くからの付き合いで、家賃の遅れも請求することなく、「ある時払いの催促なし」の場合も度々でした。したがって財産内容もほとんどが不動産で、またその不動産も他人に貸している分が大半で、約200軒ありました。

 このままでは相続税の納税がおぼつかなく、何よりもAさん自身サラリーマンとしての仕事をやりながら相続手続きを行うことは不可能でした。

 やむを得ずAさんは会社を退職し、相続処理に専念することにしました。

 まずAさんは物納することを考え、借家人、借地人に大家がAさん宅から国に変わることの承諾印を貰いに走りまわりました。ところが借家人、借地人は、「今までAさんのお父さんなら、万一家賃、地代が遅れても黙って待ってくれた。国が大家、地主になればそんな訳にいかないので印を押すことはできない!」となかなか承諾してくれませんでした。

 また税務当局もAさんの資産はフローの収入がある程度見込めるので、物納は難しく「延納」ということになりました。もちろん利子税がかかってきます。

 結果、Aさんはそれから物件を一つ売り、二つ売りとしながら納税資金作りを行いました。当然のことながら急いで売れば売るほど足元を見られ、売却価格は安くなったことはいうまでもありません。

 できればこれらを相続前にしておくべきだったのです。


問題点

 資産分散ができていませんでした。資産の大半が不動産で、手持ち現金(流動資産)が不足していました。相続を想定すればおおよその納税額が判明でき、その分事前に不動産の売却等で、金融資産の確保をしておくべきだったのです。

ワンポイント解説

 旧家にありがちな旦那さん気質が、借地借家人を甘やかしていました。古くからの賃貸契約による非効率な運用を見過ごしていました。どうしても長年にわたる事態から、現実逃避、現状維持になりがちでした。長男も当然のことながら問題意識はありましたが、事態が発生するまで先送りしていたのです。

成功・失敗理由

 過大な不動産保有の場合は、それに見合う流動資金が必要です。結果的に柱となる長男が転職の上、事後整理に努めましたが、納税完了までのその間の労力、延納利子の支払い等、大変な思いであったものと思われます。

 

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