目次 1-2-1


2.信託


1 法務

(1)信託とは

 信託とは、委託者が受託者に財産を譲渡し、受益者のために管理・運用・処分を行わせる行為です。


 典型的には、この信託譲渡は無償で行われます。それは信託目的に従って受託者が信託財産を管理・運用・処分することについて信頼関係があるからです。まさに委託者は受託者を信じて託すのです。

 注意すべきは、受託者は信託財産の所有者となりますが、それはあくまでも受益者のために管理・運用・処分をするための手段です。所有権があるからといって、受託者自身で随意に処分等できるわけではありません。


(2)信託法

 信託法は、大正11年に制定されたのをその始まりとしますが、制定後はほとんど改正されることもなく、時代にそぐわないものとなっていきました。そこでさまざまな議論を経て平成18年12月に信託法の大幅な改正が行われ、信託法がより時代に即した制度になったのです。

 新しい信託法の中では、規定内容について現代語化を行った上で、受託者の義務の内容を合理化し、受益者の権利行使の実効性・機動性を高めるための規定を整備しました。その他、多様な信託のニーズに対応するために、新たな類型の信託の制度を創設したなどの点で、大幅に利用者の使い勝手を高める改正と言えます。


(3)信託の登場人物と信託の類型

 典型的な信託では、3人の登場人物がいます。元の財産を持っている委託者、委託者から財産を信託譲渡によって取得して、財産の管理処分など必要行為を行う義務を負う受託者、そして、受託者の行う信託行為によって利益を受ける受益者です。


 このように、委託者=受益者である信託のことを自益信託と呼びます。例えば、高齢化して判断能力が低下した場合に、自己の財産管理のために用いられる手法です。


 第1類型と異なり、委託者≠受益者である信託のことを他益信託と呼びます。父が自分の財産を弁護士に託して、息子のために運用管理を任せるために用いることができる手法です。

 税制上は、この第1類型(自益信託)と第2類型(他益信託)の区別が1つのポイントになります。


 これまでの信託では、自分の財産を他人に託する行為、信託譲渡が前提となっていましたが、この第3類型では、委託者=受託者である信託であり、この信託譲渡がありません。ある時から、自分の所有する財産は他人のための所有であると宣言するもので、信託宣言あるいは自己信託と呼ばれます。


 最後に、受益者が存在しない信託であり、目的信託といわれる類型です。

 目的信託では、受益者が存在しないため、受託者としては受益者の利益のためでなく、信託の目的に従って、管理、運用、処分を行っていくことになります。

 これによれば、ペットのように権利能力がないため受益者となることができないもののためにも、信託を設定することが可能となります。

 

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