目次 VI-1


第VI部 その他の手法


第1章 MBO

 1 合併の法務

1 MBOはどのような場面で利用されるか

 MBO(Management Buy Out)の対象となる事業は、多くの場合、窓際族的・斜陽的な事業である。

 例えば、大企業が多角化経営の方針を転換し、「選択と集中」などといって、中心でない事業の切り離しをするとき、外に出す対象となるような非中心(ノン・コア)の事業が対象となる。このような場合には大企業の側はMBOしないならば外資へ売却するといった言動をしてくることが多い。経営陣(現場の従業員)は、企業風土の大きな変更を避けようと、MBOにいきがちである。

 あるいは、倒産した企業をファンドが支援して経営陣中心で再建するといったケースもあり得る。

 また、異なるケースとして、オーナーが引退したいので、番頭さんに引き継ぐといったこともあり得る。このような場合、オーナーがきっぱりと潔く引けることが重要である。日本高純度化学という会社は、このパターンであるが、オーナーが潔く経営権を譲ったためにその後発展し、MBO企業最初の株式公開を果たした。


 2 MBOに向いている事業・向いていない事業

 安定したお金(キャッシュフロー)を生む事業は、MBOに向いている。ファンドも、経営陣の実績を買って、かなりの確率で成功してくれることを期待するから、投資・融資してくれるのである。

 たくさん儲かるかもしれないが、他方で、大損する可能性もあるというのでは、ファンドは投資しない。

 したがって、割合伝統的な事業で、安定してお金が儲かることが読めるものが対象となりがちである。ブランドや特許があれば安定して稼げるので、MBOに向いているといえよう。

 また、従来の経営陣に経営を委ねるので、キーマン、ないしは、リーダーシップを取れる経営者がいることも要素になる。

 その逆に、稼げるかどうかがわからない事業はMBOに向かない。経営陣にリーダーがいない場合も向かないが、これはMBOすると自覚が芽生えて変わってくることもあり一概にいえないところがある。


 3 倒産会社からのMBO・MBI

【大倉商事】*5

 1998年8月、自己破産をした大倉商事は、優良子会社10社をMBOにより従業員に対し処分した。米国鋼材加工業のオレゴン・メタル・スリッターズを破産管財人が入札にかけたが、同社の米国人副社長を中心とした現地経営者が設立した新会社が約20億円で入札し、株式を取得した。このときのアドバイザーは東京三菱銀行であった。

 その他、国内の休眠子会社を農畜水産部・子会社の社員6名が買い取り、社名を「三翔」として商権を継承した事例もある。このアドバイザーはさくら銀行であった。井口正巳元農畜水産部長が社長に就任しており、このケースはEBO(Emploee Buy Out)である。

【EBOとアウトソーシングの組合せ(旭電化)】

 2000年6月、旭電化は製造コスト削減を目的に、化学品の包装等加工事業の一部を製造ラインに携わる従業員にEBOで売却した。

 国内4工場の従業員が、退職金等を原資に受託加工会社を設立したのである。これに旭電化は一切出資していない。この受託加工会社へ旭電化は、化学品の包装等加工事業について業務委託をしている。つまり、旭電化は従来の事業をEBOで承継した受託加工会社へアウトソーシングしているのである。MBOにはこのような利用法もあり得るのである。

 

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