目次 V-2


第2章 営業譲渡の法務&税務

 1 営業譲渡の事例&実務

 営業譲渡は、第三者間で行われる場合と関係会社間で行われる場合とに分かれるが、商法上あるいは税務上の扱いは同じである。ただし、第三者間の営業譲渡の場合、譲渡対象となる有形・無形の財産の確定及び評価から始まる諸手続をより慎重に行う必要がある。譲渡後において譲渡内容の変更等が必要になった場合、関係会社間においてはその調整が容易であるものの、利害の相反する第三者間においてはきわめて困難であると思われるからである。ここでは、営業譲渡の手続に関する実務上のポイントを見ていくことにしよう。

 営業譲渡に際しての実務上の課題は以下のとおりである。
(1) 譲渡対象となる財産の確定
(2) 譲渡に伴う権利等変更手続
(3) 株主の諾否
(4) 譲渡に伴う費用見積り
(5) 譲渡に伴う税負担
(6) 譲渡スケジュールの確認

 まず、営業譲渡手続の概略をおさえておくために、スケジュールをつくってみよう。

 譲渡財産は、A社の事業の一つである婦人服の製造小売部門である。この部門は、駅ビルなどへ出店しており売上げ約30億円、従業員約150名。A社の貸借対照表は図表のとおりである。なお、営業を譲り受ける会社の総資産価額は100億円超とする。

図表 A社の貸借対照表
資  産 全体帳簿価額 婦人服部門 負債・資本 全体帳簿価額 婦人服部門
現預金
売上債権
在庫
その他流動資産
建物/付属設備
構築物
土地
投資有価証券
保証金

資産計
200,000
600,000
400,000
50,000
500,000
50,000
200,000
150,000
800,000

2,950,000

300,000
200,000

250,000


50,000
800,000

1,600,000
仕入債務
未払金
借入金


資本金
別途積立金



負債・資本計
800,000
250,000
1,000,000


100,000
800,000



2,950,000
200,000









200,000

 営業譲渡日を平成15年6月1日とする。

年 月 日 手  続 期  間 作成書類等
14.12.31まで



15. 1.19


15. 1.22

15. 2.13



15. 2.13

15. 2.15

15. 3. 1

15. 3.21






15. 4. 2

15. 5.10

15. 6. 1

15. 6. 6
営業譲渡準備



取締役会
 1.基準日設定公告

公示

取締役会
 1.営業譲渡契約締結
 2.招集通知

営業譲渡契約締結

基準日

株式総会招集通知発送

株式総会
 1.営業譲渡契約承認





公正取引委員会への届出

届出受理より30日

営業譲渡期日

不動産登記申請

















2週間以上












2週間以内
譲渡財産の概略確定
 譲渡スケジュール作成
営業権評価の有無

取締役会議事録




取締役会議事録



営業譲渡契約書



株式総会招集通知

株式総会議事録

反対株主からの株式買取請求
(総会決議から20日以内)





登記申請書



1 営業譲渡財産の確定及び移転手続

 営業譲渡の対象は、合併のような会社丸ごとの承継ではなく、会社の有する財産及び有機的に一体として機能する財産(いわゆる営業権)の部分売り、したがって、個別の財産譲渡としての手続が必要である。

 しかし、譲渡契約締結時においては、譲渡財産の譲渡価額は決まっていない。平成15年6月1日が譲渡日であるから、金額が決定できるのは、早くとも6月1日以降になる。したがって、譲渡対象となる部門に関する一切の財産という決め方になる。事例でいえば、婦人服の製造小売部門に関する一切の財産という内容になる。

 どのような手続が必要となるかは、譲渡財産の種類により異なる。例えば、不動産であれば不動産の所有権移転登記が必要となるし、売掛金などの債権については、債務者への債権譲渡通知ないし承諾といったことが必要である。

 また、無形の財産である営業の譲渡については、一定の要件に該当する営業譲渡については公正取引委員会への届出が必要となる。

 一定の要件とは、譲り受ける会社の総資産価額が100億円超(譲受会社の親子会社の総資産を加えた金額)で、譲渡する会社の総資産価額が10億円超(営業の重要部分または営業上の固定資産の譲渡については、譲受部分に係る年間売上高が10億円超)である場合である。

 事例は、譲渡する営業に係る年間売上高が約30億円であることから、公正取引委員会への届出が必要となる。

 譲渡財産の中に債務(買掛金や借入金など)がある場合、債権者の債権保全の意味で債権者の承諾がなければ債務の移転はできない。特に金融機関からの借入金は金額も多額になるし、担保等の設定もあるので余裕を見て手続を進める必要がある。

2 公正取引委員会への届出

 公正取引委員会への届出が必要な場合、届出受理の日から30日を経過するまでの間は、営業譲渡は禁止されている。30日は届出日からではなく、あくまで受理日からとなっていることに注意してほしい。届出日は4月2日でも、受理日は数日後となるからである。日程に余裕を持つと同時に、公正取引委員会に受理日を確認した上で届出をしてほしい。

3 反対株主の株式買取請求

 営業譲渡に反対する株主は、その所有する株式の買取請求をすることができる。買取価額は公正な価格となるが、いわゆる時価である。価格につき会社と株主との間で協議が整わなかった場合、裁判所が価格を決定することになる。

 このように、反対株主がいて、買取請求をしてくることが危惧される場合、営業譲渡自体の実行は可能であるが、株式の買取価額等に関する交渉や資金負担などのリスクを抱えることになる。営業譲渡に関する内諾を総会前にいただくなどして、事前に対応する必要がある。

 特に株主が分散していて株主とのコンタクトがうまくいっていないケースでは、この機会に株式を換金してしまおうという株主が現れる危険性があるので注意が必要である。

4 譲渡に伴う税負担

 営業譲渡に伴う税負担も、事前に検討しておく必要がある。営業譲渡に関する特別な税負担はない。譲渡する財産とその財産の帳簿価額との差額が譲渡益となり、法人税等の負担が生じる。また、営業権そのものについては、通常帳簿価額がゼロのため譲渡収入が譲渡益になる。あわせて譲渡に伴う消費税負担も試算しておいてほしい。

 譲渡財産の中に不動産がある場合、所有権移転による登録免許税及び不動産取得税がかかる。

 税金そのものではないが、借地権の譲渡にあたっては、地主に対する承諾料等の負担が生じるケースがある。土地価格の高い地域などは、承諾料等が多額になることがあるので、事前に調べる必要がある。

 また、譲渡収入の中に土地譲渡などの消費税の非課税取引が含まれている場合、課税取引割合が低くなり消費税の負担が増えることがあるので、注意してほしい。

 事例では、譲渡部門の土地がないため(建物もなく付属設備を所有しているのみ)土地の譲渡損益はないが、投資有価証券の時価は調べて譲渡損益を把握してほしい。

5 譲渡に伴う費用

 一般的に、営業譲渡に伴う費用として以下のものがある。

項  目 内  容 見積金額
印紙代
登録免許税
(*1)

不動産取得税
譲渡契約書に貼付

不動産登記変更

不動産の取得
譲渡財産金額に応じて負担

固定資産税評価額×10/1000

固定資産税評価額(*2)×3%
*1 平成15年4月1日より平成17年3月31日までの措置。
*2 土地については平成17年12月31日までについて固定資産税評価額の2分の1。
*3 不動産登記を司法書士に依頼した場合、通常1件につき3〜5万円の報酬が必要となる。

 

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