目次 IV-1


第IV部 株式交換・移転の法務&税務


第1章 株式交換・移転の法務

 1 株式交換制度

1 意義・趣旨

 株式交換とは、一方の会社(既存会社B)が他方の会社Aの発行済株式の総数を有する会社(完全親会社)となる手続のことをいう(商法第352条)(図表1参照)。

図表1 株式交換の概念

(1) 株式交換前

(2) 株式交換日

(3) 株式交換後

 株式交換によって、完全子会社となる会社(A社)の株主が保有するA社の株式は、株式交換日に完全親会社となるB社に移転し、完全子会社となるA社の株主は、A社の株式の代わりにその完全親会社となるB社が発行する新株割当てを受けて、株式交換日に完全親会社となるB社の株主たる地位を得る。

 このように、株式交換制度の眼目は、A社の株主が保有していたA社の株式を、いわば「強制」的にB社の株式に「交換」させてしまうことにある。すなわち、B社が完全子会社化する対象として選定したA社との交渉の結果、A社の経営者が株式交換による完全子会社化というB社の方針を受諾した場合に、たとえA社に反対株主がいたとしても自社(B社)の新株を割り当て、交付することにより、A社の経営者の当該方針に反対する株主全員を排除しA社の全株式をB社の株式に強制的に交換して、A社をB社の完全子会社とすることができるのである。

 このように株式交換制度によれば、A社とB社との間に全く資本関係が存在しない場合であっても、B社はA社の全株主にB社の株式を割り当てて、A社をB社の完全子会社にできることになる。この点に、わが国の株式交換制度の特徴がある。

 企業組織の再編の場面において、株式交換制度は2つの機能を果たしてきている。

 第1は100%子会社、すなわち完全子会社を傘下におく持株会社を創設するという機能である。すなわち、会社支配に十分な持株数を確保した上で、その余の外部株主という従来の株主構成を変更して、親会社1社だけを株主とする(完全子会社化の)ために、株式交換制度は用いられている。

 第2は、自社の株式を代価とした買収を可能とし、新たな買収資金調達が不要となるという機能である。従前の株式買取や営業譲渡においては、新たな買収資金が必要であった。

 ところが、株式交換制度においては、自社の株式を発行して、これを対価として相手方に割り当て、交付すれば足りるので、新たな買収資金調達の必要がなくなる。


2 簡易株式交換

 株式交換において、完全親会社となる会社の規模に比べて完全子会社となる会社の規模が小さい場合、完全親会社となる会社の株式の希薄化の度合いが小さく株主に及ぼす影響が軽微となる。

 そこで、簡易合併と同様の要件の下で、交換会社(親会社となる会社)の株主総会の承認決議を省略する簡易株式交換制度が設けられている。なお、完全子会社となる会社においては、通常の株式交換同様、株主総会の承認決議が必要である。


 2 株式移転制度

1 意義・趣旨

 株式移転とは、既存の会社(a社)が単独または共同して、自らは完全子会社となって完全親会社(純粋持株会社・b社)を設立するための手続である(商法第364条第1項)(図表2参照)。

図表2 株式移転の概念

(1) 株式交換前

(2) 株式移転日→完全親会社(b社)設立
   (1)a社株式が甲からb社に移転
   (2)b社がb社株式を甲に割当て

(3) 株式移転後

 この株式移転制度においては、完全子会社となるa社の株主総会の承認だけにより、a社のすべての株式は株式移転により設立される純粋持株会社(b社)に移転し、他方完全子会社となるa社の株主(甲)は、純粋持株会社となるb社が株式移転に際して発行する新株の割当てを受けて、株式移転の日に純粋持株会社の株主になるのである(商法第364条第2項)。

 このように、株式交換制度によれば、いったんは持株会社となるB社を設立しなければならないという手間を省いて、一気に完全親子会社関係を作り出す手法が株式移転制度である。

 平成11年商法改正前の従前の持株会社創設の手法には、(1)持株譲渡による買収方式、(2)第三者割当増資方式、そして(3)いわゆる「抜け殻方式」の三方式があったが、株式交換制度において検討した問題点(『新版・企業組織再生プランの法務&税務』(清文社刊)参照)を克服して、簡易・迅速に純粋持株会社の設立を可能とするのが、この株式移転制度である。


 3 商法以外の法規制

1 概 観

 株式交換・株式移転には、その効力を有効に発生させるための手続的規制の他にも、証券取引法上(1)インサイダー取引規制、(2)ディスクロージャー制度が定められている他、独占禁止法上(1)株式取得、(2)持株会社に関する法規制などが定められている。以下、概観する以外にも、上場関係規則、株式交換・株式移転を行う当事会社が服する業法や税法上の規制なども及ぶ場合があるので、事前にチェックすることが必要となる。

 

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