目次 III-3


第3章 会社分割の実務(留意点)or事例

 会社分割の今後の活用例は、税務上のメリットをいかに活用していくかを前提に実務が運用されていくものと考えられる。ただ、商法改正の結果として、組織再編の選択肢が広がり、また実行のスピードもかなり早まるものと考えられるので、単純に税務でのメリットのみで実務が動くものともいえないと思われる。

 この章では、あらゆる可能性から会社分割の活用例を検討してみたいと思う。


 1 事業部門の分社化

 企業の価値を高めていくために、会社の合併が繰り返された時代がかつてはあった。その際は、大きくなることによってシナジー効果が得られるといった考えがあった。ただ、最近は大きいことが非効率といわれる時代になってきている。そして、企業が所有している複数の事業部門の価値の合計が、個別に事業を評価した合計よりも小さくなっている「コングロマリット・ディスカウント」といわれる状態が生じている。

 シナジー効果が発揮できずに、経営スピードの鈍化等によって価値が低く評価される傾向があるといえる。

 そのような状態の中、会社分割を活用することによって、複数の事業を分社化することにより、独立採算を明確にして、経営にスピードをつけ、コングロマリット・ディスカウントの状態からの脱却が可能となる。


 2 持株会社での事業再編

 持株会社の下の会社の事業を再編して事業別に組織化をするのに株式分割が活用される。この方法は、大手金融グループが採用した方法としてよく知られている。

 具体的には、第1フェーズで銀行同士で株式移転の手法を活用して、持株会社を設立する。

 そして、第2フェーズで、各行が実際に経営している業務を顧客セグメント別・機能別に分社する。吸収分割の手法を採用して、各行で重複している業務を統合して、法人営業銀行、個人営業銀行、投資銀行に特化させる。さらに信託業務、証券業務等に特化する完全子会社を編成させることも可能である。

 このように、グループ内において重複する事業部門を1つの会社に集約させるために会社分割が活用されることが考えられる。


 3 成長分野の独立、株式公開

 会社の事業部門がいくつかある場合に、本業は今ひとつでも、成長分野の事業部門の業績が良いというケースもあると思われる。昨今のITブームでは、システム部門の業績がめざましいといったこともある。

 このような場合に、成長分野の事業部門を分離して、その会社が単体で株式公開を目指すということに会社分割が活用できる。

 子会社のまま株式公開を目指す場合は、分社型の会社分割が採用されるであろうし、本業が未公開でなおかつ本業での株式公開が困難と思われる場合には、本業を営む会社との資本関係を解消するために、分割型の会社分割を採用した方が望ましいと思われる。


 4 リストラ対策としての会社分割

 会社の中での不採算事業を本体から切り離すことにより、本体の基盤強化を図ることができる(図表1参照)。
図表1 リストラ対策としての会社分割(分社型)
図表1 リストラ対策としての会社分割(分社型)


図表2 リストラ対策としての会社分割(分割型)
図表2 リストラ対策としての会社分割(分割型)

 分割の手法として分社型を採用した場合は、不採算事業の会社が100%子会社となり、不採算事業についての業績も連結決算で取り込むことになる。その結果として、株価評価の際に不採算事業についても影響を受けると考えられる。

 分割型を採用した場合は、分割法人と分割承継法人との間に資本関係がなくなるので、分割法人が不採算事業について株価の影響を受けずに済む。

 さらに、不採算事業について会社を清算させることによって、事業自体を終了させることも経営上は判断する必要性が出てくると思われる。

 なお、リストラ策として会社分割を活用する場合に、不採算事業が不動産事業の場合に、不動産の売却を第三者にすることも将来的には考えられると思われる。会社分割した後の不動産所有会社を第三者に売却する場合は、結果としては不動産が第三者のものにはなるが、あくまでも株式の売却になるので、不動産取得税や登録免許税がかからないというメリットもある。


 5 中小企業の事業承継対策

 同族会社の株主は、初めは創業者のみとなっているケースが圧倒的に多いが、事業承継を行うに従って、親族間で株式の所有が分散されてくるのが一般的である。親族間での争いがなければいいのであるが、経営の仕方等を巡って株主間で対立が生じるケースもまま見受けられる。

 そのような場合に、会社分割の制度を活用することによって、会社を株主の異なる別会社にすることができる。そういった意味では、会社分割は親族間での対立や事業承継対策としてのニーズに応えた制度といえる。

 ただ、このような目的で会社分割を活用する場合は、分割型の会社分割の中でも非按分型の分割になるので、総株主の同意が実行に際しては必要になる。

 また、このような分割に対しては、現在のところ課税の繰延べが認められていないので、ニーズはあっても実施に至るケースは少ないかもしれない。

 

目次 次ページ