目次 III-2


第2章 会社分割の税務

 会社分割をめぐる商法改正は、会社分割という枠組みにはなっているが企業の組織再編税制との絡みでいうと、合併・現物出資・みなし配当についての改正も含むものであり、必ずしも会社分割だけでなく、従来の合併等の制度そのものを抜本的に見直すというものである。

 そこで本章では、平成13年度税制改正で示された組織再編税制をいま一度振り返りながら会社分割等、組織再編の税務を解説しておく。

 平成12年10月2日に自民党の税制調査会の法人課税小委員会がとりまとめを行い、その後10月10日に政府税制調査会で承認がなされた。その基本的なスタンスには4つの視点があり、その内容は次のようになっている。

 (1) 合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税のあり方
 (2) 株主における株式譲渡益課税やみなし配当に対する適正な取扱い
 (3) 納税義務・各種引当金などの意義・趣旨などを踏まえた適正な税制措置のあり方
 (4) 租税回避の防止

 まず、典型的な4つのパターンの表から見てみよう(図表参照)。まず1.新設分割2.吸収分割の各上の段は分割型であり、商法でいうところの人的分割のことである。一方、その各下の段は分社型であり、商法でいうところの物的分割のことをいう。分割型の吸収分割については、例えば、A社のある事業部門をB社という吸収会社のある事業部門に吸収してしまうケースが考えられる。この場合、営業の全部または一部と書いてあるが、その営業の全部を吸収された場合にはA社は結果的に抜け殻になってしまい、いってみればA社の株主は吸収会社の株式を結果的にもらうことになる。これはまさに合併そのものである。したがって、分割といっても合併と同じ経済的効果が生ずるということを認識する必要がある。

 同様に、分社型の新設分割は、これはまさに特定現物出資と同じであり、分社型の吸収分割をよく見てみれば、現物出資による増資と一緒であることがわかる。

 すなわち、会社分割というのは実態的に見た場合、今までわれわれが取り組んできた合併や現物出資や増資というのは、新設会社の現物出資を兼ね備えたものとそっくりな内容になっている。したがって、先述したように、単純に会社分割税制だけをつくるのではなく、既存の合併の税制または現物出資の税制をすべて見直すということになる。

 同時にこの問題は、会社が持っている資産等を他の会社に移転させたり、新しい会社に引き継がせたりするので、会社自体の税務という側面と、その対価として発行される株式をもらう株主自体の税務という二面性がある。

 さらに図表の一番下の注にもあるように、このモデルは最も典型的なイメージ図ではあるが、実際にはさらに複雑になっているので注意する必要がある。

図表 会社分割の形態の概要
  1 新 設 分 割
(1)





 分割会社A社の権利義務を新設会社B社に承継させるとともに、同社が分割(設立)に際して発行する株式を分割会社A社の株主に割り当てるもの


(2)





 分割会社A社の権利義務を新設会社B社に承継させるとともに、同社が分割(設立)に際して発行する株式を分割会社A社に割り当てるもの


  2 吸 収 分 割
(1)





 分割会社A社の権利義務を吸収会社B社に承継させるとともに、同社が分割(設立)に際して発行する株式を分割会社A社の株主に割り当てるもの


(2)





 分割会社A社の権利義務を新設会社B社に承継させるとともに、同社が分割(設立)に際して発行する株式を分割会社A社に割り当てるもの


(注) 新設会社または吸収会社が、株式を分割会社とその株主の双方に割り当てる一部分割(分割型と分社型の中間型)も認められる。また、複数の会社が共同で新設分割を行うことも認められる。
(政府税制調査会資料より)


 1 基本的な考え方

1 基本的な検討の視点

 企業組織再編税制における法人課税のあり方を検討するにあたっては、次のようなことを念頭において検討する必要があろう。

 まず第1に、現物出資・合併等という手法の中には、まさに先述したように会社の分割と全く同じような効果を生じさせるものがある。したがって、例えば分割という手法でもって税金がかかるということであれば、それを合併という手法に切り替えてしまうケースも出てくることが予想される。また、逆のことも考えられる。つまり、そういう観点から見た場合の分割の税制は、同時に合併の税制も現物出資の税制も一緒に整備しなければならないということである。

 第2に、企業がある企業に身売りをする際に営業譲渡という形にすれば、当然にその資産の移転には時価取引ということで、キャピタル・ゲインの課税が出てくることになる。しかしながら、現行の合併の税制は課税の繰延べ、すなわち実質的な簿価引継ぎということが認められているという問題がある。このような点についても、やはり整合性をもたせる必要がある。

2 分割の特徴点

 新しい制度である分割から見た場合、現物出資(子会社設立)と分割(新設、分社型)、現物出資(増資)と分割(吸収・分社型)、合併(吸収合併)と分割(吸収・分割型)、みなし配当(利益の資本組入れ)と分割(吸収分割)とは非常によく似ている。このように分割税制は、分割と同じ効果を生じさせることができる現物出資、合併、みなし配当に係る税制と一緒に検討する必要があるのである。

 

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