目次 I-1


第 I 部 大競争時代と事業再編


第1章 大競争時代の到来

 1 公開企業が倒産する時代

 1990年代の終盤から、公開企業の倒産が目立って増えてきた。山一證券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、そごう、長崎屋等がその典型的な例である。これには、バブルの崩壊とその後の平成大不況が影響を与えたことは確かである。しかし、これらの企業の倒産後に発覚した真実の企業の実態は、これらの企業が社会に開示していたものとは大きく懸け離れているものであった。社会に開示された財務諸表に存在しないはずの債務や損失が数千億円、社外に巧妙に隠されていた例もある。これでは公開企業だからといって、倒産を避けることは不可能である。

 特に、1989年のベルリンの壁が崩壊して以降、世界が一つの資本市場になりつつある今日は、企業間競争がグローバル化し、いやがうえにも競争は厳しいものになってきている。この厳しい競争においては、企業が不祥事を起こし、その実態を隠していれば何とかなるというような甘い環境にはない。厳しい競争に生き残るためには、企業は経営実態の面から、強い会社と呼ばれるような体制を作り上げなければならない。つまり、企業は見せかけでなく、真実の面で強くなることを要請されている。

 このような時代にあっては、不祥事を起こさない企業であっても、グローバルな競争に敗北し、他の企業に買収される、あるいは倒産してしまうことは日常化すると予想できる。その意味では、大競争時代は“大企業買収時代”であり、“大企業倒産時代”でもある。

 そのため、企業は生き残りをかけて、国内企業あるいは海外企業との業界の再編に取り組んでいる。


 2 IT革命と企業改革

 現在、IT(Information Technology)革命が起こっていることを誰も疑う者はいない。企業も生き残りのためには、IT革命に対して適切な対応が必要となっている。IT革命によって、従来、国家・企業が優位に立っていた情報の支配が、次第に国民・消費者の側に移ることになる。したがって、企業が生き残るためには、企業と消費者との距離感をいかに短くするかが重要となる。従来のように、製造会社は販売会社を通して販売するのが常識でなくなるということである。例えば、いずれは携帯電話の中に、キャッシュカードやクレジットカードが内蔵され、携帯電話さえ持てばどこでもショッピングもできるし、食事をすることもできるようになり、あらゆる決済が可能になる。あるいは、携帯電話自体が銀行預金の口座機能を持ち、銀行の支店として機能する時代もそう遠くない。このような時代に、今までの流通を前提とした企業経営をすることは、大いなるリスクを背負うことになる。

 そのため、企業もITに対していかなる態度をとるかを明確にしなければならないし、企業の組織構造自体にも大きな改革をしなければならない。例えば、デル・コンピュータは、コンピュータの受注・発注ばかりでなく、部品の調達もインターネットで行うというやり方のビジネスモデルをつくったが、このようなビジネスモデルの下では、従来の企業組織のあり方は通用しない。

 このように、IT革命はあらゆる分野でビジネスモデルを大きく変えていく。ビジネスモデルの変化により、当然に企業組織は改革を必要とする。その結果、アウトソーシングという概念の持つ意味が違ったものになっていく。従来のアウトソーシングはコストを安くするための手段であった。しかし、現在のアウトソーシングの持つ意味は、コストを安くするというよりも、「選択と集中」という企業戦略の一環をなすという点にある。つまり、現在の企業は企業の中にある人材、資金等の経営資源を企業の中核的な業務(コア・コンピタンス)に集中させて、企業の競争力を強化しようとしている。その反面、企業の中核的でない業務は企業の外部に売却等して、必要な業務についてはアウトソーシングするのである。

 このアウトソーシングの戦略的な意味は、今後、ITを最大限活用するバーチャルな企業を多数生み出すかもしれない。企業の中核的な部分はバーチャルな企業に残し、あとはすべてアウトソーシングで済ますというビジネスモデルは、もはや突飛とは思われないからである。


 3 会計ビッグバンと経営への巨大な衝撃

 会計ビッグバンが、公開企業の2000年3月期決算から始まった。ビッグバンは、約150億年前に宇宙で起こった最初の大爆発のことであるが、会計ビッグバンによって、日本企業ないし日本企業の経営者に生じる衝撃の大きさも巨大であるから、会計「ビッグバン」という呼称は決して大げさではないともいえよう。

 企業間におけるグローバルな競争が激化する中、国ごとに会計ルールが異なるのは、企業の実態把握が容易でないことや企業間比較が困難である等の不都合を生じた。それを解決すべく、各国の会計ルールを世界共通の基準に統一しようとして、日本の会計ルールを国際会計基準(IAS:International Accounting Standards)に合わせようとするのが、会計ビッグバンである。

 この会計ビッグバンが衝撃的なのは、次のような点に現れる。
 ○企業の国際間比較ができること
 ○企業の実態があからさまになること
 ○企業経営は株主・投資家を常に意識しなければならなくなること
 ○企業経営者は企業の含み益をあてにする経営ができなくなること
 ○経営改革は待ったなしになること
 ○経営者はプロ化してくること

 2000年3月期決算から始まった“会計ビッグバン”の導入スケジュールは下記図表を参照してほしい。また、詳細は『新版・企業組織再生プランの法務&税務』(清文社刊)を参考にしていただきたい。

図表 新会計基準導入スケジュール
  2000年
3月期
2000年
9月期
2001年
3月期
2001年
9月期
2002年
3月期
2003年
3月期
新連結会計制度        
キャッシュフロー計算書        
金融商品会計の時価会計        
その他有価証券(持ち合い株式等)の時価評価        
新外貨建基準        
退職給付会計        
税効果会計        
販売用不動産等の強制評価減        
減損会計 2006年3月期
ゴーイングコンサーン          
企業結合会計基準 2007年3月期
★:年度決算への適用開始  ☆:中間決算への適用開始

 

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