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8.適格分割

(1)適格分社型分割

 税法上の適格要件を満たした分社型分割において分割法人の資産・負債を分割承継法人に移転するときは、当該資産及び負債を分割直前の分割法人の帳簿価額によって「譲渡」したものと捉らえ、譲渡損益の額の計上は繰り延べることになります。

 分社型分割は現物出資と同様の経済効果を創出します。分社化の手続は、従来は現物出資や営業譲渡などの手法が用いられてきました。しかし、今後は分社型分割を用いることによって、検査役の調査は不要となり、また、後述するように消費税や不動産取得税、登録免許税等の課税問題も緩和されることなどから、その活用が期待されます。


(2)適格分割型分割

 税法において適格分割型分割は、分割法人の株主に対して交付される分割承継法人の新株式等が、当該株主が有する分割法人の株式数の割合に応じて交付される場合に限る、とされています(法法2十二の十一)。すなわち、按分型の分割型分割のみが税制適格となり、非按分型の分割型分割は税制非適格となります。

 税法上の適格要件を満たした分割型分割において分割法人の資産・負債を分割承継法人に移転するときは、分割期日の前日までを分割事業年度として「みなし事業年度」を設定します。移転する資産・負債については、分割事業年度終了時の帳簿価額により引き継ぎ、譲渡損益の額はなかったものとなります。

 この場合、税法上では、分割承継法人の株式について、分割承継法人が株主に直接割り当てるのではなく、いったん、分割法人が、分割承継法人の株式を取得し、直ちに当該株式を分割法人の株主等に交付したものとして処理することになります。


(3)会社分割と利益準備金(利益積立金)

 会社分割における分割法人の剰余金・利益準備金については、商法上いくつかの規定が設けられています。分社型分割については、商法上、剰余金・利益準備金の引継ぎは認められておらず、分割承継法人は、資本超過額のすべてを資本準備金として計上しなければなりません。税法においても、基本的に商法に従うことになりますので、分社型分割の利益積立金の引継ぎはありません。

 ただし、適格分社型分割の場合は、租税特別措置法により利益処分で行った特別償却や圧縮記帳に係る利益準備金については、移転資産に対応する準備金であれば税法上も引き継ぐことになります。

 一方、分割型分割については、商法上、分割法人の剰余金・利益準備金について分割承継法人に引き継ぐことが認められています。これに対し、税法では、利益積立金の引継ぎが認められるのは適格分割型分割の場合のみとなります。非適格の分割型分割については、一切の利益積立金の引継ぎを行うことはできません。したがって、資本超過部分は全額資本積立金となり、株主に対する「みなし配当課税」の問題が発生することになります。


(4)新設分割の留意点

 企業グループ内の適格組織再編成においては、再編前における持分の支配関係が再編後も継続することが見込まれていなければなりません。単独新設分割(一の分割法人による分割)の場合は、分割後の「当事者間の支配関係」又は「同一者による支配関係」の継続が見込まれることが適格分割の要件とされます(法令4の2(4)(5))。

 分社型の単独新設の場合は、100%の当事者間の支配関係しかあり得ません。この関係を「当事者間の完全支配関係」といいます。この場合は、再編後の支配関係のみが問われることになります。

 分割型の単独新設分割の場合は、分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係又は50%超の支配関係があることが必要とされます。その前提として、分割前の分割法人において、同一の者による完全支配関係又は50%超の支配関係がなくてはなりません。したがって、分割型の単独新設分割については、再編前において、同一の者による50%超の支配関係がなければ、企業グループ内再編に該当しないことから、非適格の分割となってしまうので注意が必要です。なお、単独新設分割には、そもそも共同事業という概念はありません。

  単独新設分割 複数新設分割
分社型 一部分
割型
分割型 分社型 分割型
完全支配関係
50%超支配関係
共同事業 × ×
*1  単独新設分割の一部分割型・分割型において一の株主の持分が50%以下となった場合は非適格となります。
*2  単独新設分割の分社型では、完全支配関係の創出しかあり得ません。
*3  複数新設分割において一の株主の持分が50%以下となった場合は、共同事業要件を満たすことにより適格となります。


(5)非按分型分割と一部分割の取扱い

 商法の会社分割では、分割型分割の場合に新設会社又は承継会社が発行する株式を分割会社の株主に割り当てる際に、各株主の持分に比例することなく割り当てる非按分型分割も総株主の同意があれば可能とされています。しかしながら、法人税法では、適格分割とは「分割型分割にあっては分割法人の株主等に分割承継法人の株式以外の資産が交付されず、かつ、当該株式が当該株主等の保有する分割法人の株式の数の割合に応じて交付されるもの」と明記されているので、非按分型の分割は税法上非適格となり、資産は時価で移転し、譲渡損益について課税されることになります。

 非按分型分割型分割は、たとえ実際には交付金銭等がなくても「金銭等交付分割型分割」とみなされます(法令119の8(2))。「金銭等交付分割型分割」とされることにより、法人においては移転資産の譲渡損益における課税問題、また、株主においても株式の譲渡損益並びにみなし配当における課税問題が発生します。

 また、分社型と分割型を組み合わせた折衷型、すなわち、会社分割に際して新設会社又は承継会社が発行する株式の一部を分割会社の株主に、残りを分割会社に割り当てること(一部分割)も可能とされています。法人税法では、一部分割について、「株式等を分割法人と分割法人の株主等とに交付する分割」の定めが置かれており、分割型分割と分社型分割の双方が行われたものとみなし、それぞれの適格要件に当てはまれば適格分割となります。なお、一部分割においては、みなし事業年度が設定されます。

 

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