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5.企業グループ内の適格組織再編成(合併・会社分割・現物出資)

(1)「企業グループ」の範囲

 「企業グループ」とは、商法上の親子会社関係にある法人間(商法211ノ2)、すなわち、持分割合が50%超の関係にある法人間の範囲を指します。

 持分割合が50%超の関係であるかどうかを判定する株式の保有形態については、二つの形態があります。一つは、当該法人間において、いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等を50%超保有している関係です。これを「当事者間の支配関係」といいます。もう一つは、当該法人がそれぞれ「同一の者」により、発行済株式等の50%超を保有される関係です。これを「同一者による支配関係」といいます。いずれの場合も、この持分の保有については、直接に保有する場合だけではなく、間接に保有する場合も含まれます。

 また、税法上は、50%超の株式を保有する株主は法人だけではなく、個人株主でもよいとされています。「同一者による支配関係」で、当該者が「個人」の場合、保有される株式が50%超であるかどうかの判断基準となる「個人」の範囲は、図表4のようになります。

 なお、「当事者間の支配関係」並びに「同一者による支配関係」は、再編前の株式の保有形態で判断しますが、適格組織再編成であるためには、再編後においても当該当事者間又は当該同一者による支配関係が継続することが見込まれていなければなりません。

図表4 「個人」の範囲(法令4(1)・4の2)
図表4 「個人」の範囲(法令4(1)・4の2)


(2)「企業グループ」内の組織再編成における税制適格要件

 税法上の適格組織再編成の要件を満たす場合、「移転する資産の支配が継続されている」ことが大前提となります。したがって、組織再編成における移転資産の対価として株式以外の交付、すなわち、金銭等の交付があった場合は、組織再編成ではなく、「買収」に当たると解されることから、適格組織再編成とはなりません。

 しかし、この金銭等の交付については、あくまでも「組織再編成における移転する資産の対価」として交付するかどうかということですから、以下の場合については金銭等の交付があっても適格組織再編成から外れるものではありません。

 (a)  新株の割当てに際して1株未満の株式が生じたために、端数株の売却代金として株主に交付する金銭(法令139の3)
 (b)  反対株主が株式買取請求権を行使した場合に株主に支払う金銭
 (c)  被合併法人・分割法人(分割型分割)の配当見合い金として株主に交付する金銭(法法2十二の八・十二の十一)

 (イ) 100%持分関係にある法人間での適格組織再編成

 企業グループ内の組織再編成において100%の完全支配関係、すなわち、100%親子会社関係にある場合は、実質的には、資産が移転してもその完全支配関係はまったく変化しないと考えられます。したがって、100%の関係にある法人間の組織再編成においては、移転する資産の対価として金銭等の交付がなければ、適格組織再編成として、資産は帳簿価額で移転し、譲渡損益の額は認識しません。
 ただし、持分割合が100%の関係は、再編前のみならず再編後も継続される見込みがなければなりません。したがって、第三者割当増資の予定がある場合などは、100%の持株関係における適格組織再編成とはならないので注意が必要です。
 なお、再編後に完全支配関係が崩れても、50%超の支配関係が継続されるのであれば、持分割合が50%超100%未満の関係にある法人間での組織再編成における適格要件を満たすことによって、適格組織再編成となります。

 (ロ) 50%超100%未満の支配関係にある法人間での適格組織再編成

 持分割合が50%超100%未満の関係にある企業グループ内で適格組織再編成を行うには、移転する資産の対価としての株式以外の金銭等の交付がないことのほかに、以下の二つの要件を満たすことが必要です。

 (a)  独立した事業単位の移転であること(独立事業単位要件)
 (b)  分割法人の事業が分割承継法人において引き続き営まれることが見込まれていること(移転事業継続要件)

 また、持分割合が50%超100%未満の関係は、再編前のみならず再編後も継続される見込みがなければなりません。もし、再編後に50%以下の持株関係になってしまう見込みがある場合は、企業グループ内の適格組織再編成とはならないので注意が必要です。
 なお、再編後に50%超の支配関係が崩れても、共同事業を行うための組織再編成における適格要件を満たす場合は、適格組織再編成となります。


(3)独立事業単位要件

 独立した事業単位の移転とは、具体的には以下の要件を指します。

 (a)  移転法人の移転事業の主要な資産及び負債が取得法人に引き継がれていること(適格分割・適格現物出資)
 (b)  移転法人の移転事業の従業者のおおむね80%が取得法人に引き継がれていること(適格合併・適格分割・適格現物出資)

 (イ) 主要な資産及び負債の移転

 適格分割及び適格現物出資においては、移転法人の移転事業の主要な資産及び負債が取得法人に引き継がれることが必要となります。
 なお、適格合併においては、当然ながら、被合併法人のすべての資産及び負債が合併法人に承継されるのであえて要件とはされていません。

 (ロ) 従業者の移転

 適格合併、適格分割及び適格現物出資においては、移転事業のおおむね80%の従業者が移転法人に引き継がれなければなりません。適格合併の場合は、当然ながら従業者は転籍することになりますが、適格分割及び適格現物出資においては、従業者は必ずしも転籍する必要はなく、出向でもよいとされています。しかし、会社分割の場合は、労働契約承継法が制定されている関係上、労働契約の承継が分割計画書等に記載されていれば、移転する事業の主たる従業者は、個別の同意はなく、当然、転籍することになります(包括承継)。
 なお、当該再編により引き継がれた従業者は、取得法人において、必ずしも移転事業に従事する必要はありません。


(4)移転事業継続要件

 適格合併、適格分割及び適格現物出資においては、移転した事業が継続されることが求められます。しかし、事業の継続の期間や事業規模の維持についての具体的な明示はありません。これは再編時に「継続の見込み」があるかどうかで判断します。経済環境の変化により撤退やリストラを余儀なくされる場合も当然に考えられることから、そのような場合にあえなく「継続」を断念することがあっても致し方ないことと解されます。しかしながら、再編により当初から移転事業が継続できないことが明らかな場合は適格の要件を満たさないことになります。

 例えば、持分割合が50%超100%未満の関係にある企業グループ内の吸収合併を例にとって考えてみましょう。A社を合併法人としてB社(被合併法人)を吸収合併するとします。B社は、元々A社に対しB社所有の不動産を賃貸することのみを業としている場合、合併後のB社所有の不動産は、A社所有となるため、B社から引き継ぐはずの不動産賃貸業は継続されないことになります。この場合は、移転事業継続要件を満たさないために、非適格の組織再編成となってしまいます。ただし、この場合においても、A社とB社の持分関係が100%の法人間であれば、移転事業継続要件は不問とされるので、適格合併が可能となります。

 

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