目次 1-2-Q4


Question
労災保険の特別加入制度

 このたび、当社の社員A氏を3年間の予定で海外駐在させます。同業他社から、日本の労災保険には、海外駐在員向けに「海外派遣者特別加入」という制度があると聞きました。そもそもこの制度はどういった内容なのでしょうか。また加入に当たり、費用はどのくらいかかるのでしょうか。



Answer 労災保険は、日本国内にある事業所に所属して働く労働者が保険給付の対象となる制度であるため、海外の事業所に出向や派遣などで働く人の労災事故については対象外となります。しかし、海外で勤務する人についても労災保険の給付が受けられる制度として「海外派遣者特別加入制度」があり、費用は年間5,110円〜36,500円となります。


1.特別加入の対象者は?
〜現地採用者や留学する人は対象外〜

 労災保険は、日本国内で行われる事業のみを対象としていますが、海外で行われる事業に従事する場合、図表4−1に該当する人に限り特別加入が認められています。(労働者災害補償保険法第33条第6号、第7号)

 また、特別加入に当たっては、新たに海外に駐在する人に限らず、既に海外に勤務している人についても加入することができます。ただし、現地採用の人は、日本国内の事業から派遣されていないことから、特別加入することはできません。(また、単なる留学を目的とした派遣の場合も、特別加入の対象外となります。)

図表4−1 海外派遣者として特別加入の対象になる者
(1)  日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
(注1)  日本国内の事業主とは、日本国内で労災保険の保険関係が成立している事業(有期事業を除く。)の事業主です。
(注2)  海外で行われる事業とは、海外支店、工場、現地法人、海外の提携先などです。
(2)  日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業(下記(表1)参照)に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人
〈中小規模の事業とは〉
 派遣される事業の規模の判断については、事業場ごとではなく、国ごとに企業を単位として判断します。例えば、日本国内の本社の労働者数と派遣先の国の企業の労働者数を合わせて(表1)の規模を超える場合であっても、派遣先の国の企業の労働者数が(表1)の規模以内であれば、特別加入することができます。
(表1) 中小事業主等と認められる企業規模
業  種 労働者数
金融業・保険業・不動産業・小売業  50人以下
卸売業・サービス業 100人以下
上記以外の業種 300人以下
(3)  独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く。)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人
(出所) 厚生労働省「特別加入のしおり(海外派遣者用)」3Pより転載


2.保険料は?
〜最高でも年間36,500円〜

 特別加入者の保険料は、図表4−2のとおり、保険料算定基礎額に保険料率を乗じた額で、最低で年間5,110円、最高でも年間36,500円です。(なお、2013年1月に起きたアルジェリア邦人に対するテロ事件を踏まえ、2013年9月より海外派遣者の給付基礎日額の上限が引き上げられています。)

 保険料算定基礎額とは、特別加入者ごとの給付基礎日額の1年分(365日分)を指し、給付基礎日額とは、労災保険の給付額を算定する基礎となる金額で、通常、特別加入する人の年収を365で割った金額に一番近い額を選ぶことになります。

 また、海外派遣者が、年度途中において、新たに特別加入者となった場合や、特別加入者でなくなった場合には、当該年度内の特別加入月数に応じた保険料算定基礎額より、特別加入の保険料を算出することになります。

図表4−2 給付基礎日額・保険料一覧表
給付基礎日額
保険料算定基礎額
B=A×365日
年 間 保 険 料
年間保険料=保険料算定基礎額(注)×保険料率
海外派遣者の場合 保険料率 4/1,000
25,000円
24,000円
22,000円
20,000円
18,000円
16,000円
14,000円
12,000円
10,000円
 9,000円
 8,000円
 7,000円
 6,000円
 5,000円
 4,000円
 3,500円
9,125,000円
8,760,000円
8,030,000円
7,300,000円
6,570,000円
5,840,000円
5,110,000円
4,380,000円
3,650,000円
3,285,000円
2,920,000円
2,555,000円
2,190,000円
1,825,000円
1,460,000円
1,277,500円
36,500円
35,040円
32,120円
29,200円
26,280円
23,360円
20,440円
17,520円
14,600円
13,140円
11,680円
10,220円
 8,760円
 7,300円
 5,840円
 5,110円
(出所) 厚生労働省「特別加入のしおり(海外派遣者用)」7Pより転載
(注)  特別加入者全員の保険料算定基礎額を合計した額に千円未満の端数が生じるときは端数切捨てとなります。


3.実際に海外で労災事故に遭った場合は?
〜補償の対象となるのは特別加入の申請時に記載した業務内容のみ〜

 国内勤務時同様に、業務災害、通勤災害の補償が受けられますが、その範囲は、申請時に提出した特別加入者名簿に記載された「業務内容」の範囲に限られます。そのため、当該名簿に記載した「業務内容」は、実際に海外で事故が起きた場合、その事故が業務上で起きたものか否かを判断をする上で、重要な事項になりますので正確に記入することが必要です。


4.海外出張時は労災の特別加入の必要はないか?
〜基本的には特別加入の必要はないが、「出張」の定義をよく確認することが必要〜

 海外出張時に労働災害を受けた場合は、出張命令を出した出張元の国内事業所の労災保険により給付が受けられますので、特別加入を行う必要はありません(昭和52.3.30付基発第192号)。

 ただし、ここでいう「海外出張」とは、単に労働の提供の場が海外にあるに過ぎず、国内の事業所に所属し、当該事業所の使用者の指揮命令に従って勤務するケースを指します。

 ですから、現地の事業所の指揮命令に従って行動する人については、図表4−3のとおり、たとえその海外勤務期間が短期間でも「海外出張」とはみなされませんので注意が必要です。

図表4−3 海外出張と海外派遣の具体例
区分 海外出張の例 海外派遣の例



1 商談
2 技術・仕様などの打ち合わせ
3 市場調査・会議・視察・見学
4 アフターサービス
5 現地での突発的なトラブル対処
6 技術習得などのために海外に赴く場合
 海外関連会社(現地法人、合弁会社、提携先企業など)へ出向する場合
 海外支店、営業所などへ転勤する場合
 海外で行う据付工事・建設工事(有期事業)に従事する場合(統括責任者、工事監督者、一般作業員として派遣される場合)
(出所) 厚生労働省「特別加入のしおり(海外派遣者用)」6Pより転載

 

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