目次 事例 5


 (事例5) 請負契約書(1)


請負契約書

 株式会社×○建設 様

下記のとおり契約いたします。

  請負の詳細は、平成22年2月20日付の見積書のとおりとします。

   平成22年3月1日
株式会社○○商店



見 積 書

 株式会社○○商店 様

下記のとおり、見積りをさせていただきます。

  当社工場修繕工事一式  300,000円

   平成22年2月20日
株式会社×○建設



【 解 説 】

 この請負契約書は、単純に記載内容から判断すると、一見重要事項の記載がないので課税対象にならないように見受けられます。確かに、この文書のみから判断すると、第2号文書の「請負に関する契約書」に該当するように思えますが、重要事項の記載がなく、課税事項を証明しているものではないので、課税文書には該当しないと考えられます。

 しかし、見積書を引用する旨の記載があるので、その見積書をみると、「当社工場修繕工事一式」という請負契約の内容が記載されています。さらに、300,000円という請負金額の記載もありますから、これは前掲の「課税物件表の適用に関する通則」4のホの(ニ)の規定により引用することになりますので、この契約書は記載金額が300,000円の第2号「請負に関する契約書」に該当することになります。

 なお、通則4のホの(ニ)の規定は、記載金額の引用の対象となる文書は「課税文書に該当しない文書」に限られていることに留意してください。例えば、「請負の詳細は、平成22年2月20日付の見積書のとおりとします」の文言を「請負の詳細は別に取り決めたとおりとします」とすれば、引用する文書の存在がわかりませんから引用できず、課税事項の記載もないこの契約書は課税対象外、つまり不課税文書となります。

 仮に、この契約書に修繕工事の記載があるが金額記載のない場合で、「金額は……付見積書のとおり」とすれば、記載金額を見積書から引用することになりますが、「金額は、別に取り決めます」とすれば、引用することができませんから、記載金額のない請負契約書ということになります。

ポイント
1. 課税文書に該当するかどうかの判断
  (1)  記載されている個々の内容について判断します。
  (2)  文書の名称又は呼称及び形式的な記載文言にとらわれないようにしてください。現実に、その文書に記載されている内容から判断することになります。
  (3)  文書に記載されている文言、符号を基として、その文言、符号等を用いることについての関係法律、当事者間における了解、基本契約、慣習等を加味し、総合的に行います。
2. その文書に課税事項が記載されていない場合もしくは記載されているような場合でも、原契約書や見積書、約款その他の文書を引用する旨の記載がある場合は、契約期間、記載金額以外(通則4のホの(ニ)の規定に該当する場合を除く。)の課税事項については、原契約書等の内容を引用することとされているので、単に契約書のみで課否を判断するのではなく、引用されている文書も含めて判定することに留意してください。引用する文書の記載内容次第では、新たな課税事項の記載が認められるかもしれません。

【より深く理解するために!】
(1)  一般的に作成される文書は、その内容をみると様々な項目が記載されています。それらを一つずつ読みこなして、課税事項に当たるかどうかを判断していくことになるので、基本としてはまず、別表第一課税物件表の課税物件第1から第20までに掲げられている文書の名称や内容を覚えて、理解することが必要です。
(2)  よく皆さんが見られる印紙税の税額表は、印紙税の課否判定をするためのものではありません。税率や税額を確認するためのものです。この表には、一般に作成される文書の名称が記載されていますが、ここまでに説明しましたように表題等で判断するのではなく、実際に記載されている内容から具体的に判断するということを理解してください。この税額表に記載されている名称の文書が、その課税文書に該当するということではありません。
 法律や中身を深く理解せずに税額表等を頼りに記載された名称のみをもって判断すると、思わぬ指摘を受けてしまうことがあるのです。
 このように、いわゆる「税額表」は、印紙税法の課税物件表そのものではありません。一般の方々が、広く汎用的にわかりやすく使いやすいように作成されたものであることに留意してください。


 課税事項とは

 基通第2条(課税文書の意義)では、「課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項」を課税事項と定義付けています。

 この「課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項」とは、例えば次のようなことを指しています。

 (1)  課税物件表の第2に掲げる文書は「請負に関する契約書」であり、この文書によって証明される事項は、「請負契約が成立したという事実」(請負契約の成立の証明)です。

 また、同表第17号に掲げる文書は「金銭又は有価証券の受取書」であり、この文書によって証明される事項は「金銭や有価証券を受け取ったという事実」(金銭等の受領事実の証明)です。

 つまり、これらの「請負契約が成立したという事実」や「金銭や有価証券を受け取ったという事実」が「課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項」となります。

 印紙税の課否判定を行う前提として、まずその契約書等がどのような契約内容等を証明しているのか、それが印紙税の課税物件として掲げられているのか、ということから判断しなければならないのです。

(2)  契約書関係については、「契約の成立事実」を証明しているといえるための一定事項の記載条件を必要とします。これを「重要な事項」といいます。これは、証明の対象となる「課税事項」を構成する条件(要件)と考えてください。また、この重要な事項が1項目でもあれば、課税文書に該当することになります。

 この「重要な事項」は、それぞれの課税文書において異なります。例えば、契約金額、契約期日、契約の目的物などがあげられており、通常の契約書においては、この記載がないと契約書としての実効性がないようなものと考えれば理解できるのではないでしょうか。

 これは、印紙税法基本通達別表第二に「重要な事項の一覧表」として規定されています。

 これらの「課税事項」、「重要な事項」は、契約書関係における印紙税の課否判定に際して最も重要なポイントですから、ここは確実に理解することが必要です。

 つまり、課税事項を証明する目的で作成する文書で、なおかつ、重要な事項の記載があることによりはじめて課税文書となり得ることになります。

 

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