目次 I-3-3


§3 日本型コーポレートガバナンス

3 日本型コーポレートガバナンス

(1)監査役会型の経営監督機構

 会社の経営監督機構は、大きく2つの考え方があります。1つは、業務執行機関と業務監督機関を分離してそれぞれ別個の機関とするシステムであり、ドイツ型がこれに該当します。もう1つは執行機関とその監督を1つの機関(取締役会)が担当するシステムであり、米国型がこれに該当します。

 日本のシステムは、取締役会が業務執行に関する意思決定と経営監督の機構をともに行うという点では米国型と共通ですが、そのほかに業務の監督を行う機関として監査役あるいは監査役会があるという点で独自のシステムとなっていました。しかし、代表取締役が監査役候補者を決定するという人事権を実質的に保有しており、監査される側が監査する側を選ぶという根本問題がかねてから指摘されていました。

(2)これまでの制度の問題点と強化策

 [1]  取締役会の問題点

 日本では、業務執行を監督すべき取締役会が、実質的に代表取締役の支配下にあります。取締役候補者は社長が選任しており、現実には取締役として、社長にノーといえるかどうか疑問です。たとえば、業績や株価が急落したなど特別の場合にしか取締役会が社長に経営方針の転換やトップ交代を迫れない現実があります。米国では取締役の8割が社外取締役、英国では5割を占めるといわれています。ドイツでは、社内出身者が占める取締役会と同列に監査役会があり、原則その全員が社外出身者であり、業務の執行と監督が明確に分離されています。

 [2]  監査役制度の問題点

 監査役制度はガバナンスの基本であり、株主の代理人として執行者からの独立性、中立性を保つ必要があります。監査が有効に機能するには、監査に必要な社内外の情報を分析できる仕組が必要です。
 日本の監査役制度には、監査役の人事権が実質的に代表取締役にあるという問題点があり、独立性や中立性が十分でないというマイナス面はありますが、情報収集と分析の点ではすぐれています。米国では、80年代から90年代にボードとオフィサー(執行役)が分離して社外取締役が増えるなかで、情報不足で監査が十分に機能しない問題が発生し、監査委員会が生まれた経緯があります。日本では、経営の意思決定・監督と業務執行を分離することは難しいといわれていましたが、実際多くの企業が執行役員制を使って両者を分離してきました。両者分離のうえで、監査役会機能を強化した方が有効なガバナンス体制が構築できます。

 [3]  取締役会・監査役会制度の改善

   執行役員制の導入

 執行役員制度は、1990年代後半に経営の意思決定・監督と業務執行の分離の必要性が認識され、ソニーが1997年6月に導入したのが最初であり、その後多くの企業で導入がされています。執行役員制は、取締役の削減、経営の意思決定と業務執行の分離、取締役会の迅速な意思決定、代表取締役等の行う業務執行に対し、監視・監督義務が果たせる体制の構築、コーポレート・ガバナンスの強化の目的等で導入されました。
 執行役員は、代表取締役の指揮命令下にある会社使用人であり、法的な根拠のある役員ではありません。そのため、導入当初は、執行役員の権限や義務は明確ではなく、取締役との兼務も多く、執行役員制度を導入した多くの企業で、経営と事業執行が一体化したままであるという問題点も指摘されていました。
 このような状況もあり、平成14年の旧商法改正において、執行役という法的根拠のある制度が設立され、執行役は、そのまま、会社法に承継されています。「委員会設置会社」を採用した企業にのみ存在する「業務執行を行う役員」であり、会社法上、執行役の権限や責任が明確にされており、執行役員とは異なります。
 一方、取締役会と業務執行部が一体化した従来型の取締役会の方が経営スピードが速いため、執行役員制を採用しない企業もあります。

   社外取締役

 従来より、社内から昇格した内部取締役のみでは、仲間意識が強く透明性に欠け、取締役としての監督機能が発揮できないとの指摘がありました。その欠点を克服するために提唱されたのが、社外取締役制度です。社外取締役は、監督機能の強化と経営判断にあたっての多面的な視点、経営の透明性を高めるためにその導入が進んでいます。
 社外取締役は、平成14年の旧商法改正で、初めて商法上での定義が明確になり、会社法においては、このまま引き継がれています。社外取締役とは、「株式会社の取締役であって、当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人になったことがない者」(会2丸数字1xv)をいいます。
 社外取締役に求められる役割は、業務を執行しない客観的な立場から株主の利益となるよう経営判断を行うことです。経営の監視機能強化のために導入された委員会設置会社には、社外取締役の設置が義務づけられており、社外取締役である旨が登記記載事項となっています。

 社外取締役の導入にあたり、十分な実効性を上げるには、次の3項目を考慮する必要があります。

 [1] 会社と利害関係がない実質的な独立性の確保
 [2] 他の取締役との情報共有および十分なコミュニケーションの実現
 [3] 役割を十分に果たせる人材の確保

 監査役会型のガバナンスにおいては、取締役と執行役員との分離、社外取締役の導入、監査役会の機能を強化することによって、その実効性を高めることが可能です。

監査役型統治機構
監査役型統治機構


(3)委員会設置型の経営監督機構

 平成14年5月の旧商法改正により、米国型の取締役会制度と同様の委員会設置会社の選択が可能となりました。この制度では、監査役制度に代わり、社外取締役を中心とした指名委員会、監査委員会、報酬委員会の三つの委員会を設置するとともに、業務執行を担当する役員として執行役が置かれ、経営の監督機能と業務執行機能とを分離したモデルです。

 その特色は、次のとおりです。

 [1] 取締役会は、業務執行の決定を自ら選任した執行役に大幅に委任できる
 [2] 執行役が経営者であり、取締役会が経営の監督を行う
 [3] 利益処分議案の承認が取締役会で可能であり、計算の特例がある。

 平成18年5月から施行された会社法でも、旧商法の考え方が踏襲されています。

 委員会設置会社の主なポイントは次のとおりです。


 □

委員会設置会社とは、指名委員会、監査委員会および報酬委員会を置く株式会社であり(会社法2条12号)、会社規模にかかわらず、すべての会社が委員会設置会社になれる(会326丸数字2)。
 □ 機関の設置
3委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)と1人または数人の執行役の設置が必要。監査役の設置はできず、会計監査人の設置が強制される(会327丸数字4)。
 □ 取締役会および取締役
取締役会は、経営の基本方針等の業務執行の決定を行い、取締役および執行役の職務の執行を監督する。また、取締役は、支配人その他の使用人と兼任することは、認められない(会331丸数字3)。
 □ 取締役の任期は1年(委員会設置会社以外は2年)である(会332丸数字3)。
 □ 委員会の権限等
  (1) 指名委員会:株主総会に提出する取締役および会計参与の選任および解任に関する議案の内容決定権(会404丸数字1
  (2) 監査委員会:取締役・執行役および会計参与の職務執行の監査、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任等議案の内容決定権(会404丸数字2
  (3) 報酬委員会:取締役・執行役および会計参与の個人別報酬の内容決定権(会404丸数字3
  (4) 委員会の構成:各委員会は取締役3名以上で、そのうち過半数は社外取締役(その株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人でなく、かつ、過去にその株式会社または子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人になったことがないもの)でない者でなければならない(会400丸数字1丸数字3)。監査委員会においては、その会社・子会社の業務執行取締役・執行役、または子会社の会計参与・支配人その他の使用人との兼任は禁止(会400丸数字4
 □ 執行役および代表執行役
  (1) 執行役は、取締役決議による委任事項の決定、業務の執行を行う(会418)。
  (2) 執行役の選任・解任は、取締役会の決議で行われ、取締役との兼任は、認められる(会402丸数字1丸数字2)。任期は1年で、取締役は執行役を兼ねられる。会社を代表すべき執行役(代表執行役)を1名以上取締役会で定めなければならない(会420丸数字1)。
  (3) 執行役は3カ月に1回以上取締役会への報告義務等がある(会417丸数字4)。
 


委員会型統治機構
委員会型統治機構

 

目次 次ページ